7月号
〝日本一美しいキャンパス〟で育まれる逞しさと優しさ
神戸女学院大学 学長 斉藤 言子 さん
神戸女学院大学は創立以来140年、素晴らしい環境と教育理念を守り続けてきた。〝変わらない母校〟に卒業生たちは並々ならぬ愛校心とプライドをもっている。そのお一人でもあり、4月に学長に就任された斉藤言子さんにお聞きした。
厳しさは「学生のために」という深い愛情があればこそ
―学長に就任されての抱負をお聞かせください。
斉藤 神戸女学院はアメリカ人の宣教師によって創立されたミッションスクールです。神様という人間の力が及ばない存在に対して畏敬の念をもつこと。そして、自分に起きていることがたとえ試練であっても全てが良い方向へ導いてくれる〝道しるべ〟だということを学生たちに伝えていきたいと思っています。
―教育については?
斉藤 本学には古くからリベラルアーツ教育が根づいていました。音楽学部声楽専攻の私も、選択科目で数学、生物、遺伝学などを勉強しました。それが直接、私の専門に役立ったということではありませんが、社会に出て色々な業種の方にお会いしてお話しする時に「私も学生時代に学んだ」という気持ちが自信につながり、臆することなくコミュニケーションを取ることができます。幅広く学ぶことは、自分の中に多くの引き出しを持つこととなり、将来へ向けて貴重な養分となります。
―ご自身の在学当時の思い出は?
斉藤 140年の歴史の中には素晴らしい先生がたくさんおられます。私が教えていただいた英語の先生もそのお一人で、とても厳しい先生ですが、大好きでした。授業を受ける態度から厳しく指導され、遅刻したら教室には入れてもらえませんし、少しでも間違えるとお昼休みに呼び出され指導されます。ご自身の時間を割いてまで接してくださるのですから、「学生のために」という使命感がなければできないことですね。先生の深い愛情を感じました。
―学長ご自身も学生から「厳しい先生」と言われているとか…。
斉藤 そうですよ(笑)。私は経験上、学生に一生懸命接すれば分かってもらえると確信をもっていますし、少人数制の本学だからできることです。学部問わず卒業後、様々な企業に就職するケースが多いのですが、厳しさに耐えることができ、人間的な逞しさを身に付けている本学卒業生は高い評価を頂いています。
―今の学生さんに厳しく接するのは難しいのでは?
斉藤 決してそんなことはないですよ。ちゃんと向き合い、信頼関係をもとにきちんと話をすれば納得してくれます。正門をくぐった瞬間から私たちを包み込んでくれるこの環境が、空気が、学生たちを素直な気持ちにさせているのだと私は感じています。
〝変わらない〟は難しいけれど大切なこと
―素晴らしい環境ですね。
斉藤 教職員、卒業生、在校生、誰もが「日本一美しいキャンパス」だと自信を持っています。
―ウィリアム・メレル・ヴォーリズ設計による12棟の建物が昨年、重要文化財に指定されたそうですね。
斉藤 神戸女学院は多くの方々とのつながりに支えられてきました。ヴォーリズもその一人で、奥様が音楽学部一期生だったこともあり特別な思いを込めてキャンパスの設計に当たったといわれています。あの阪神大震災でも、築後半世紀以上を経た建物にもかかわらずほとんど倒壊することもなかったのですから、すごいことです。この環境、建物を流行に流されることなく大切に守り続けてきた精神も含めて評価されたのではないでしょうか。
―見学できるのですか。
斉藤 公開講座やバザーなどで見ていただく機会はあります。またヴォーリズ建築見学会を一年に数回実施し、学生がツアー・マイスターとしてご案内しています。見た目の美しさや重厚さはもちろんですが、校舎内部、教室の隅々までヴォーリズの配慮が感じられます。
―卒業生のキャンパスへの愛着も強いのですね。
斉藤 私が入学した当時から、この環境、雰囲気、匂いまでもが何一つ変わっていません。〝変わらない〟は、変えていくことよりも難しいことです。受け継ぎ、伝えていこうという強い思いや愛情、プライドが必要です。そして何より、この空気感の中で環境にふさわしい振る舞いと人間性がごく自然に育まれていくことは素晴らしいことだと思っています。
時代が求めるものに応えることの必要性
―時代と共に変わってきたこともありますか。
斉藤 もちろんです。社会の変化に伴って大学に求められるものも大きく変わってきました。キリスト教主義と国際理解、リベラルアーツという教育の3本柱を基本にして様々な改革も進めてきました。〝控えめ〟では通じない時代です。積極的かつスピーディーにアピールして、本学の良いところを広く皆さんに知っていただきたいと思っています。
―具体的には?
斉藤 学部編成に関しては、文学部に総合文化学科が新設され、家政学部を人間科学部と名称変更し、心理・行動科学科と環境・バイオサイエンス学科が開設されました。また、音楽学部には日本唯一の舞踊専攻が開設されました。時代を呼吸しながら自己表現するコンテンポラリーダンスを専門としながら、音楽、歴史、語学、文学など総合的に学び表現力を高めています。
―英語教育には歴史的に力を入れていますね。
斉藤 二人の女性宣教師によって創立された神戸女学院の英語教育は、コミュニケーションを通して共感性の高い教養人を育成しようという目的をもっています。個性的な教育がなされている一方、講読中心の教育に偏ってきたという面もあり、2010年からミッションスクールとして英語教育の在り方を見直し、13年に共通英語教育研究センターを創設しました。1年次では週に4コマ、本学独自のテキストを使って授業を実施しています。「初めはとてもしんどくても、だんだん楽しくなってきた」と学生たちは話してくれます。TOEICの点数など数字上でも効果が表れてきています。
健全な社会を築くための一翼を担ってほしい
―移転してから80年以上を経て神戸女学院は文教都市西宮の象徴のような気がいたします。この街の良さはどこにあると思われますか。
斉藤 大阪、神戸、京都、そして奈良からも無理なく人が集まれる街ですね。中でも芸術文化センターは今や阪神間の文化の中心ですし。甲子園球場もあり、文化、スポーツを感じて、住んで、学ぶ。バランスの取れたとても良い街です。
―10月には創立140周年を迎えますが、特別な計画は?
斉藤 詳細はまだ確定していませんが、10月10日10時から記念式典をはじめ色々なイベントを予定しています。
―今後150年に向けての抱負をお聞かせください。
斉藤 ハード面、ソフト面共に伝統を軸としながら、未来を見据えて改良、発展してゆかなければなりません。バリアフリーへの対策は今後の重要課題の一つだと思っています。
これからも卒業生が社会に出て、あらゆる状況におかれても、逞しくて優しいリーダーとして先頭に立って活躍することに期待しています。そして、健全な社会を築いていく次世代を育てる女性に成長し、神戸女学院から巣立っていって欲しいと心から願っています。
―ずっと変わらない神戸女学院にこれからも期待しています。本日はありがとうございました。
斉藤 言子(さいとう ことこ)
神戸女学院大学学長
神戸女学院大学音楽学部、同研究生修了後、ミラノ・ヴェルディ音楽院に学ぶ。専攻は声楽。1999年より神戸女学院大学音楽学部教授。日本やイタリア、アメリカにて多くのオペラに主演。平成21年度和歌山市功労賞受賞、関西二期会副理事長を務める
神戸女学院大学
西宮市岡田山4-1
詳しくはホームページで
http://www.kobe-c.ac.jp