3月号

特集 Cà Sento(カセント)|世界中の旅人を、食を、灘五郷で繋ぐ「食楽酒」ツーリズム
Cà Sento(カセント)オーナーシェフ
福本 伸也さん
日本人が目指すべきは
私たちの根本にある「禅」の心
日本酒とペアリングするお食事を提供していただいたカセントのオーナーシェフ・福本伸也さんに、ご自身の料理にかける思いや当日の料理についてお話を伺った。
―福本さんが料理人を目指したのはなぜですか。
小さい頃にいろいろ美味しいものを食べに連れて行ってくれた母は、女手ひとつで障がいのある兄と僕を育ててくれました。そんな母を手助けできるよう中学卒業後はすぐに働こうと決め、料理人になりました。ところが阪神・淡路大震災が起き、神戸で仕事ができる場所がなくなり、いろいろなお店で勉強しました。その後、ヨーロッパへ渡り、イタリアで4年、スペインで4年、料理を学びました。
―日本とヨーロッパで学んだことに違いはありますか。
日本では「学んだ」という感覚はなかったですね。イタリアでは日本でやっていたことが通じたのですが、スペインへ行ってからは、それまで学んでいたことすべてが全く通用しませんでした。
―そこで修行して、認められ、帰国後にはスペイン料理を始めることになったのですね。
スペイン料理というわけではなく、「自分の料理をやっている」という感覚です。日本人にとって〝表現〟をすることは難しい。だから、ヨーロッパの華やかな部分を目指してしまいますが、スケールが違いすぎて無理だと思うんです。逆にヨーロッパには日本人のインスピレーションを学んでいるシェフがとても多い。日本人が目指すべきは私たちの根本にある「禅」の心。そこで勝負していかなくてはいけないと思っています。
―食材選びでも、日本のものを心がけておられるのですか。
その場所にあるものを使うだけです。神戸ウォーターも、たまたまここにあったからお客様にお出しするお料理すべてに使っています。
―神戸ウォーターを使う料理の特徴は?
硬水ですから、出汁がよく出る軟水とは全く違います。その一方で、雑味を除くからでしょうか?食材が変わっても味が似通ってくるという感覚は幾分あります。それが料理の味の幅を広げることにつながっているという面もあるかもしれません。
―福本さんにとっての神戸の料理とは?
見つけようとしているのですが、いつも思っていたことがひっくり返ってしまう(笑)。それが見つかれば、「ヨーロッパで学んできたことを活かしてこの土地で自分の料理としてどうすればいいのか?」「地元のものに限らず各地のいろんな食材をこの土地でどう料理すればいいのか?」が分かると思いますが、まだ疑問だらけ。神戸という土地での自分の料理を見つける過程の段階にいます。
―当日お出しする神戸牛のコンソメはどんなお料理ですか。
牛スジ、玉ねぎ、ニンニク、トマトをゆっくり炊いてできるのがブイヨン。水から入れて90度以下を保ちながら旨味を出しすぎず、水を感じられる透明度の高いブイヨンは僕の料理でどんな素材でも基本です。できたブイヨンを濾して、神戸牛のミンチと卵白を撹拌したものを加え、ゆっくり煮込むと蛋白質が灰汁などを取ってくれて濁りのないコンソメができます。鶏肉などに比べて牛肉は味がでにくく、中でも脂分が多い神戸牛は旨味が広がっていきにくいのでかなり時間をかけています。
―当日のお料理は「日本酒に合う」というテーマですが、何か工夫されているのですか。
コンソメの素材に神戸ビーフを使うというリクエストに応える以外は、基本的に普段と同じです。飲み物に合わせるということを考えすぎると美味しいお料理はできません。結果、合えばそれでいいし、合わない可能性も十分あるけれど、それもいいと思っています。

「コンソメの素材に神戸ビーフを使ってほしい」と
巽先生が福本さんにリクエストした
当日は会食が終わり、カセントのお料理に賞賛の拍手が送られた。厨房から出てスタッフと共にお客様をお見送りされた後の福本さんにお話を伺うと、「喜んでいただき、料理人としての仕事ができたとひとまずホッとしています。今回の試みは一つの提案として良かったと思いますが、これをきっかけとして続けていくことが大事。僕でよければ協力させていただきますし、若い料理人がここでいろんなことを体験するのもいいかなと思います」と笑顔で話してくれた。

Cà Sento(カセント)オーナーシェフ 福本 伸也さん