3月号

⊘ 物語が始まる ⊘THE STORY BEGINS – vol.52 花*花 こじま いづみさん おの まきこさん
新作の小説や映画に新譜…。これら創作物が、漫然とこの世に生まれることはない。いずれも創作者たちが大切に温め蓄えてきたアイデアや知識を駆使し、紡ぎ出された想像力の結晶だ。「新たな物語が始まる瞬間を見てみたい」。そんな好奇心の赴くままに創作秘話を聞きにゆこう。第52回は、今年、メジャー・デビュー25周年を迎えた女性デュオ『花*花』の登場です。ツイン・ヴォーカル(二人のヴォーカル)、ツイン・ピアノ(二台のピアノ)で聴衆を魅了する、こじまいづみ、おのまきこの二人が歌い続ける理由とは…。
文・戸津井 康之
撮影・服部プロセス
鮮烈なデビュー
《♪あ~、あ~、よかったなあ、あなたがいて~》
この二人の軽やかで伸びやかなハーモニーを一度も耳にしたことがない、という人はいないのではないか。
「歌を聴いてくれる人たちがいて、私たちの歌は成立する…。そう思って歌い続けていたら25年が経っていました」
こじまいづみがこう語ると、隣でおのまきこが大きくうなづいた。
冒頭のフレーズは2000年の大ヒット曲『あ~よかった-setagaya mix︲︲』のサビの歌詞だ。メジャーデビュー曲で鮮烈にミュージック・シーンに現れるや、2曲目の『さよなら大好きな人』もヒット。人気デュオとしての地位を不動のものにし、一年目でNHK紅白歌合戦への出場も果たした。
それから25年…。
2025年の3月、『花*花』が25周年を記念する全国ツアーを始動させる。
20日の東大阪市文化創造館を皮切りに、22日は兵庫県の西脇市市民交流施設オリナスホールで開催。兵庫県高砂市で生まれた二人にとって関西はホームグラウンドだ。
花*花のライブでは、二人の二台のピアノ(キーボード)の基本編成に、毎回、違うゲスト・ミュージシャンを招いて独自の楽器編成を組む。ライブごとに趣の違うアレンジで、歌と演奏を楽しめるのが大きな魅力のひとつだ。
「今回はギターの道祖淳平さんとパーカッションのTOY森松さんが駆け付けてくれます。二人はデビュー時のツアーのメンバーなんです」と説明するこじまの声は弾む。
「何を歌い、演奏するかは楽しみにしていてくださいね。実はまだ構想中なんです」と、おのが笑顔で続けた。
『あ~よかった』や『さよなら大好きな人』などお馴染みのオリジナル曲の他、昨年、初のカバー曲だけのアルバムを発表しており、25周年の節目のツアーが、どんなセット・リストになるのかは、二人が話すように「当日のお楽しみ」である。
カバー曲で聴かせる新境地
昨年7月、25周年を直前に控えてのコンサートが、大阪・あいおいニッセイ同和損保ザ・フェニックスホールで開催された。筆者も満員の会場を取材した。こじまの力強いハイトーンの歌声に、おのの響くような低音の歌声が合わさり会場一帯に広がっていく。熱いエールのような二人の混声が胸の奥に突き上げてくるようで、心が震えるのを感じた。
そう感想を話すと、「やっぱりライブはいいですよね。ライブでしか伝えることの出来ない生の歌声を聴いてほしい。多くの人に直接、そんな歌や音楽の魅力を伝えることができたら……」と二人は〝歌うことの責務、覚悟〟をかみしめるように語った。
このコンサートではカバー曲も披露された。
シンガー・ソングライター、KANのヒット曲『愛は勝つ』、石川さゆりがSAYURI名義で歌った『ウイスキーが、お好きでしょ』など、往年の名曲を次々と披露。
いずれも二人の思い入れの強い曲ばかりだが、2023年に61歳で急逝したKANの『愛は勝つ』を歌い始めた瞬間。会場を埋めたファンが涙を流し始めた。ピアノを演奏しながら歌う二人の目も真っ赤になっていた。涙をこらえるようにして搾り出される渾身の混声に涙を流す聴衆は増え、会場中に広がっていった…。
歌い終わった二人が、「やっぱり良い歌には理由がありますね」としみじみと聴衆に語りかける充実した表情が印象的だった。
運命の再会
二人はともに1976年、兵庫県高砂市で生まれた。
ともに幼いころから歌うことが大好きで、「小学4年生から6年生まで、地元の同じ高砂市児童合唱団に入っていました。こじまさんは、そのころの私のことをよく覚えていないようなのですが」と、おのが笑いながら明かす。
二人が再会したのは今から30年前の1995年。地元の高校を卒業後、専門学校・甲陽音楽学院(現在の「神戸・甲陽音楽&ダンス専門学校」)に入学したときだった。
こじまはプロミュージシャン科ヴォーカル専攻、おのはプロミュージシャン科ジャズピアノ専攻。
息の合った二人は同年、デュオ花*花を結成した。
1995年といえば、1月17日午前5時46分、阪神・淡路大震災が発生した年だ。
二人とも高砂市の実家は無事だったというが、「4月の入学式を行うことはできず、6月まで延期されました。神戸にあった校舎が全壊したんです」とおのが説明する。
「本当だったら自宅から学校まで電車一本で通えたのですが、震災で線路が分断され、山陽、JR、阪急…と乗り継いでの登校。定期券も三枚必要になって」とこじまがふり返る。
「阪急六甲駅から学校まで毎日、焼け野原の瓦礫のなかを歩いて通いました。周辺の家屋はほぼ全壊。建て替え中の校舎で授業が行われましたが、窓ガラスはなくシートで覆った状態でした」とおのは話す。
震災から20年の節目の2015年。震災をテーマに作られた朗読劇『ヘブンズ・レコード~青空篇~』(2016年公演)のテーマ曲の制作を依頼された。また、2018年にも震災をテーマにした舞台『午前5時47分の時計台』のテーマ曲を手掛けている。
2019年には、再演された朗読劇『ヘブンズ・レコード~』の劇伴(劇中に流れる音楽)をすべて手掛け、舞台でピアノを演奏し、歌った。
震災への思い入れは強い。
〝震災30年〟の今年は花*花にとってメジャー・デビュー25周年だけでなく、結成30年という特別の年でもある。
「歌や演奏でできることなら何でも引き受けたい」と二人は言う。この言葉通り、舞台や映画、テレビドラマの主題歌なども積極的に手掛けてきた。
歌を届けにどこへでも…
昨年春に開校した加古川市立の小中一貫校・両荘みらい学園の校歌の制作もその一環といえるだろう。
「校歌制作のための委員会にも出席し、在校生の声も聞いて2年がかりで完成させました」とおのは言う。
同校は市内の平荘小学校、上荘小学校、両荘中学校の3校が統合されてできた。二人は「3校の校歌を調べ、それぞれの校歌のなかから言葉を選んで新しい校歌のなかへ散りばめています。3校の卒業生たちにはそれぞれ母校の校歌に、たくさん思い出があるはず。それを大切にしたかったから」と語った。
花*花の歌声を聴いたとき。なぜ多くの聴衆が心を震わせ、そして涙を流すのか…。
曲作りに懸ける二人の真摯な姿勢を聞きながら、その理由が氷塊した。
昨年春の開校式の校歌斉唱では二人がピアノを弾き、在校生たちと一緒に歌った。
昨年9月。「二学期の始業式で校歌を斉唱する映像を見たのですが、在校生たちの歌も、先生のピアノ演奏も上達していて、うれしかったね」と二人は目を合わせると笑った。
「呼ばれたら、どこへでも駆け付けたい。二人なので、二台のキーボードさえあれば、どこでも演奏できますからね」
〝ツイン・ヴォーカル&ツイン・ピアノ〟の編成はフットワークの軽さが強み。
昨年11月には青森県へ行き、「病院のロビーで院内コンサートを行ってきました」と教えてくれた。
二人の伸びやかで力強く、温かい歌声が患者や医療関係者たちを励まし、笑顔にさせる様子が目に浮かんでくる…。
25周年は、まだ、始まったばかり。
花*花の歌声を待つ人がいる全国の街へ…。二人は何時(いつ)でもどこへでも駆け付け、エールの歌声を送り届けるつもりだ。
おの まきこ
1976年11月23日生まれ。兵庫県高砂市出身。現在、全国100局のコミュニティFMで放送中のBAN-BANラジオ制作『花*花Style』パーソナリティを担当。ボイストレーナーとしても活動中。
こじま いづみ
1976年4月6日生まれ。兵庫県高砂市出身。ソロでのライブ活動もしつつ、水曜日に不定期でカフェ『スイコジ』を営業。防災士/音楽療法士資格あり。
大阪公演
■日時 3月20日(木・祝)16時開演
■会場 東大阪市文化創造館ジャトーハーモニー小ホール
兵庫公演
■日時 3月23日(日)16時開演
■会場 西脇市市民交流施設オリナスホール
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