2025年
1月号

未来を駆ける神戸の新風 VOL.17|マツダの チャレンジ精神を継承! 失敗を恐れず挑戦を続ける 地場資本ディーラー

カテゴリ:神戸, 経済人

新年1回目にお話を伺ったのは、1941年創業の神戸マツダ社長・橋本覚氏だ。
 同社は、兵庫区内の南北を結ぶ「みんなのバス」の取り組み、「イベントスクエア」という次世代型店舗の設置、また、こういう言い方は失礼と重々承知しながらもあえてこう表現させて頂くが、地場資本ディーラーでありながら、モータースポーツ活動に参画。さらには、整備士専門学校の開校に着手されるなど、マツダ本社顔負けの、飽くなき挑戦力で様々な取り組みを行っている。
 今回は、同社が手がける整備士専門学校開校の話を中心に、新たな価値を創造するために取り組んでいる想いを伺った。

地場資本ディーラーが
整備士専門学校を作る理由

御社の成り立ちなど、会社の自己紹介をお願いします。
当社は1941年に、私の祖父・橋本重雄がマツダの販売権を取得して創業しました。最初はトラックなど商用車の取り扱いが多かったんですが、高度経済成長期に乗用車市場に参入。創業70年の節目である2011年には新車累計販売台数80万台を突破し、83年となる本年度は90万台超えに挑戦中です。

そんな歴史の中で、2026年4月に自動車整備の専門学校の開校を予定されます。ディーラーが運営母体になるのは珍しいと思いますが、開校への経緯についてお聞かせ下さい。
いま整備士不足が全国的に叫ばれています。そんな中、私は、“ただただ待っている”ということができない性質で……。ある日、マツダの広島本社に行って、役員を前にして「マツダとして整備士学校を作るつもりはありますか?トヨタも日産もホンダも他のメーカーは作っています。みんな困ってるんですよ」と、訊ねたら、そういう計画はないということだったので、「じゃあ僕が作りますけど協力してくれますか?」ということで計画がスタートしました。
整備士というのは交通インフラを守るエッセンシャルワーカーだと私は思っていますので、このまま減り続けると、大変なことになるという危機感を持っています。ですので、この学校は、自分たちのためではなく、全国のマツダディーラーのため、あるいは兵庫県下の、トヨタなども含めた他のディーラー、モータスなどの街の整備工場などへの就職にも役立てて欲しいと考えています。

業界全体の課題解決を目指されているわけですね。
はい。社会的課題の解決というのは企業の使命だと私は思っています。実際に色々なことをやってきました。
例えば東北で災害が起きた時はボランティアに行ったり、女性の社会進出を助けるために保育園を作ったり。しかし、やっぱり、最終、本業の社会的課題というのは“ここ”じゃないかということで、整備士になりたい人を増やす目的で、この学校をやろうと決意しました。

学校の法人名は「5HAPPY」。これは御社のパーパスにもなっています。
例えば、リーマンショックのような金融危機や大震災などが起きると、販売台数がガーンと落ちるんですよね。でも、そんな時にでも生き続けられる会社とはどういう会社なのかと、自分に問うた時期がありました。その答えとして、『みんなに愛されて、この世に無くてはならない存在』になれば、続けていけるんじゃないかと思ったんです。
そのために必要だと考えたのが“5つの幸せ”―「お客様の幸せ」、「社員とその家族の幸せ」、「協力者の幸せ」、「地域の幸せ」、「社会・環境の幸せ」、これらの実現を目指しています。

「マツダ自動車整備専門学校神戸」は5HAPPY実現の1つの場でもあるということですね。改めて、この学校の特徴はなんでしょうか?
この学校では、整備の技術のみならず、人間としての自立を目指した教育を目指したいと思っています。
中でも特徴的なのが、大谷翔平選手も学んだといわれている“原田メソッド”の導入です。これは、原田教育研究所の社長である原田隆史氏が考案した教育手法で、目標達成のプロセスを通じて人間性と仕事力の双方を磨いていけるものです。会社として取り入れた時期もありました。今回、原田氏にも学校の理事になってもらって、この教育法を活用して自立を図りたいと考えています。
さらに、校長は、ロードスターやRX―7などマツダを代表する車の開発に携わった山本修弘氏が務めます。
マツダはそもそも、人が中心であるべきという哲学の会社なんですね。例えば、“人がドライブをして心が活性化する”ことを大切にしているので、完全自動運転などには、あまり与していません。
そういった人を大切にするマツダの精神を山本氏には伝えて頂き、単なる整備の技術だけではなくて、お客様一人ひとりに価値を提供できるような“人財”の育成を目指します。

新たな価値を創造する3つの“バリュー・チェンジャー”

御社は、2021年に「バリュー・チェンジャー」と名付けた新たな中期計画を発表されています。この「バリュー・チェンジャー」とは何でしょうか?
最初はですね、ネーミングにこだわってかっこいい目標を作ろうと始めたんですが、実は、3つの中核があります。
一つは、「社会的価値」。これは我々だけではなく、お客様も、社会的な価値を生んでほしいという意味も含んでいます。
当社は健康経営優良法人「ホワイト500」の認定を自動車業界で唯一7年連続で受けてます。例えば、生活習慣病予防対策などを企業として積極的に行っているんですが、これをお客様にも広げられないかと思っているんです。健康であるということは、健康保険を使う率が低くなり、社会的貢献に繋がります。また、健康であるからこそ運転ができるということなので、お客様も健康になって頂いて、一緒に社会的価値を向上させていけるような仕組みやイベントを計画しています。
二つ目は、「コミュニティ型の価値創造」です。
例えば「お客様と共に楽しみ、共に創る体験型モビリティテーマパーク」と位置付けた次世代店舗“イベントスクエア”では、現在、土日は子ども向けの整備士体験会などを行い、平日は、地域の方に無料で貸し出してイベントや教室を行ってもらい、価値創造の場として活用しています。

無料で場所を貸し出すということですが、それがどのような形で御社に還元されているのでしょうか?
自分たちだけに還元されるのではなくて、業界全体のことを考えています。若者の車離れという現象もありますが、イベントスクエアでの体験をきっかけに、車に興味を持つ子どもが増えたらいいな、とか、市場全体が盛り上がっていけば という思いです。

「バリュー・チェンジャー」、中核の3つ目は何でしょうか?
お客様が感情移入をしてくれるような店舗やスタッフを作っていくことです。例えばお店のイベントの企画にもお客様に参画してもらって、絆を深めていけるような会社でありたいんです。
これも例えばになりますが、キッチンカーを呼ぶようなイベントを開いたとすると、そのキッチンカーはお客様ないしはお客様のご紹介の方でお願いするし、会議する時にお弁当を取るんですけども、これもお客様の店のお弁当です。
こうした取り組みを続けることで、感情移入もして下さるでしょうし、地域の活性化の一助にもなると思っています。

お話を聞いていて、ディーラーというより、サロンという印象を受けました。
みんなが集まって、ここからまた新しい価値を生み出して広がっていけば良いなと思っています。

“新たな挑戦”が生みだすアイデアの好循環

様々な新しい取り組みをされていますが、そのアイデアの源泉は何なんでしょうか?
そうですね。それはメーカーが与えてくれることがヒントになることもありますし、やはり新しいことを始めると、新しい人とのお付き合いが出てきます。そういう人と喋っていますと、また新しいご提案を頂いて、それがアイデアに繋がっています。
例えば、兵庫区内の南北を結ぶ「みんなのバス」という取り組みですが、これは、みなと観光バスさんに運行事業を担って頂いているんですが、ドライバーは当社の社員が出向して勤めています。すると、みなと観光バスさんから「神戸マツダの社員が素晴らしいから、うちの事業にも出向して欲しい」と仰っていただき、昨年4月から始めた人材派遣業という新規事業に繋がりました。このように、新しいことに取り組みますと、新しいアイデアが浮かび、新しいビジネスに繋がるというように非常に面白いと感じます。

最後に、御社からみた、これからの神戸に期待するところをお聞かせ下さい。
少し批判がましくなるかもしれませんが、近年の神戸は、開港当時から育まれた進取の精神が薄れてきているんじゃないかと感じています。「いま別にそんな困ってないんだから、いまのままでいいじゃないか」みたいな。
例えば、神戸空港の国際線化をきっかけに開港当時のように門戸を開いて、多様性のある人たちが未来を創っていくようになれば良いな、と思いますよね。
我々は一企業なので、大きなことはできませんが、様々なことにチャレンジしながら地域の多様性を広げていきたいと思っていて、整備士専門学校もその一助になればと夢を描いています。

次世代店舗「イベントスクエア」

兵庫区内の南北を結ぶ「みんなのバス」

株式会社 神戸マツダ
代表取締役社長
橋本はしもと さとるさん

1961年神戸生まれ。一橋大学法学部卒業後、住友銀行(現三井住友銀行)入行。1996年神戸マツダモータースに入社し、翌年グループ会社マツダアンフィニ兵庫副社長に就任。2000年に両社の社長となり、現在の株式会社神戸マツダへの統合を行う。全国マツダ販売店協会会長を2017年から務め、翌年からは日本自動車販売協会連合会副会長を務める。

株式会社 神戸マツダ

神戸市兵庫区東柳原町3-10
TEL.078-671-5011
https://www.mazda-hgr.co.jp/

〈プロフィール〉
蔭岡翔(かげおか しょう)

放送作家・脚本家
神戸市東灘区在住。関西の情報番組や経済番組などを企画・構成。日本放送作家協会関西支部監事。日本脚本家連盟関西地区総代

〈取材を終えて〉

自動車業界は100年に一度の大変革期と言われ、今後、整備の在り方も変わるとされているタイミング。整備士専門学校が開校されれば、ここから必ず未来を駆ける新風が神戸から吹くに違いない。
また、社会貢献事業にも力を入れている神戸マツダ。その根底にあるのは「社名に神戸を冠しているからだ」と語った橋本社長。社会課題の解決を業界や地域の発展に繋げ、自社にも還流する同社のビジネスモデルは、これからの神戸の――いや、広く地方創生ということにおいて、1つの解なのではないかと感じた。

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