10月号
ベトナム元気! アジアと日本のビジネスを考える
―私の「実学」研究の遍歴と今後―
甲陽学院同窓会会員総会で流通科学大学名誉教授・上田義朗先生が講演
去る8月24日、ホテルヒューイット甲子園にて甲陽学院同窓会2024年度会員総会が開催され、流通科学大学名誉教授で合同会社TET代表社員の上田義朗先生(第55回卒)の講演がおこなわれた。
講演に先だち辰野久夫同窓会長が登壇し、夏の全国高校野球兵庫大会で甲陽学院高校が神戸第一高校と対戦し9回裏に4点差からの逆転サヨナラで勝った話題に会場は盛り上がった。替わって衣川伸秀校長があいさつし、100年前に甲子園ができたきっかけの一つはその前年の鳴尾球場での準決勝、甲陽対立命館戦で興奮した観客がなだれ込んだことにあると紹介した。ちなみにその大会では甲陽中が優勝している。
講演のテーマは〝ベトナム元気!アジアと日本のビジネスを考える―私の「実学」研究の遍歴と今後―〟。上田先生はまず自己紹介から自身の研究の原点である企業間ネットワークについて語り、企業同士の株式の持ち合いの関係から日本的な〝なれ合い〟を生む法人支配の資本主義という構図を、社会学の視点を交えて読み解き、コーポレートガバナンスを「古くて新しい問題」と解説した。
続いて上田先生のライフワークのひとつとなるベトナムでの活動の話題へ。そのきっかけは1988年から勤務した流通科学大学で1994年に「中国華南ベトナム流通調査隊」の実行委員長になったことだとか。その後に何度もベトナムを訪ねるようになり、1998年には在外研究先をアメリカのエール大学からベトナム国民経済大学に変更、「これが大きな人生の転機になりましたね」と振り返った。当時に培った現地の人の繋がりが、現在も大いに役に立っているという。
1995年にアメリカと国交を回復し経済成長を加速していったベトナム。そのリアルをまさに肌感覚で体感した上田先生は、「ベトナムは社会主義で一党独裁の国ですが、すでに国家の独立を達成しています」と指摘。したがって「全方位外交」の方針を採用できる。人類の普遍的な価値から見た5つの政策目標(民主制度、政治的安定=平和、経済成長、所得の格差の是正、国家の独立)を評価することが政治リスクの分析に結びつくとアドバイス。その上で、支援から競争相手へとステージが移行しつつあるベトナムを含むアジア諸国に対し、「上から目線はダメです」とキッパリ。この「ブーメラン現象」を受け止めて、共創的協力関係を築くことが重要だと説き、そこに日本経済再生の鍵があると述べた。
話は〝上司〟だった流通科学大学の創設者でダイエー創業者の中内㓛氏へ移り、オープン価格制やプライベートブランド発売など日本の流通を変革した数々の実績を「もっと評価されて良い」と力説。「上から目線ではなく消費者や学生の目線に徹していました」という中内氏から多くのことを学んだと振り返り、改革のためには大義や理念を考えることの重要性を説いた。
そして最後は、未来へ向けたメッセージ。「新しいことを起こすには、ネットワークを持つ者が強い。星は一つひとつ輝きますが、星座になるとまた違った意味を持ちます」と上田先生は、これからはそれぞれの独立と自律を尊重しつつ、目的に応じて結びつくconstellation=星座状連関の時代で、弱連結の強みを生かすことが重要となると予見。そのためにもいろいろな人と幅広く交流して、「自分の位置する複数の星座を探しましょう」とよびかけ講演を終了、会場は万雷の拍手に包まれた。
その後は同窓生のジャズピアニスト、名定正孝さんらによるトリオ演奏や懇親会がおこなわれ、参加者たちは和やかなムードの中で旧交を温めた。