8月号
未来を駆ける神戸の新風 VOL.14|神戸を世界に誇る 開発拠点へ 実現への取り組みと 人材育成へかける想い
神戸市は、市内に23の大学や短期大学を持つ「大学都市」という側面ももつ。その核となるのが、1902年に創立された神戸高等商業学校を原点にもつ神戸大学だ。
神戸大学は今、新たな学部創設や研究開発拠点づくりに力を入れ、学問だけでなく社会や産業を活性化させようと尽力している。その陣頭指揮を執るのが、第15代学長、藤澤正人氏である。
最短6年で大学入学から博士へ!高度情報社会の人材育成を目指す新学部
来年新設される「システム情報学部」についてお聞かせ下さい。
この学部は、文部科学省から「令和5年度 大学・高専機能強化支援事業(高度情報専門人材の確保に向けた機能強化に係る支援)」ハイレベル枠に選定されたことに伴い、もともとあった工学部情報知能工学科を改組し、学部と大学院を一体的に運用する学部として新設しました。
最大の特徴は、最短6年で大学入学から博士の学位取得を可能にしているカリキュラムを導入している点です。
また、最初にデジタル技術の様々な専門科目について学修したあとで、教養を学ぶ「反転教養教育」を取り入れていることも特徴です。
新学部を通して目指すものは何でしょうか?
日本にはデジタル情報人材が非常に少ないということが憂慮されていますが、現代社会は、理系文系に関わらず、あらゆる分野で情報科学・分析科学に基づく知識やデジタル技術を活かせる能力が必要とされています。
そんな環境の中で、システム情報学部では、AI、プログラミング、ロボット工学、スーパーコンピューターなどの技術に関する教育に加え、異分野共創教育を通じて、総合的な思考力と創造力を育成し、これらの様々な技術を組み合わせて、価値創造につなげる高度情報専門人材の育成を目標としています。
また、この分野は、伝統的に女性が少数派であるということも課題に感じており、この学部では神戸大学初の「女子枠」を学校推薦型選抜に導入し、多様な考え方、価値観を持つ女子学生を積極的に受け入れることで、女性が活躍できるフィールドを作っていくとともに多様性のある教育研究環境を整備していきたいと考えています。
少しお話にも出てきましたが、昨今のAIやデータサイエンスが取り巻く環境を、どのように捉えておられますか?
確かに、急速に進んできており、産業分野だけに関わらず、いい意味でも悪い意味でも大学の教育にも影響があります。
例えば、大学は、思考力・創造力といった人間ならではの能力を養う場所なので、レポートなどを生成AIで作らせるということは問題ですが、情報収集には非常に役に立つというメリットもあります。
こういったメリット・デメリットを大学として継続的に評価し、教育・研究において生成AIと共生しつつ、その有用性をしっかりと見極め、人間の脳からしか生まれない未知への気高い創造力、思考力、的確な判断力を磨き、人間であることの価値を引き出す潜在的な力を涵養し続けることが重要であると、大学として考えています。
「hinotori」開発を担当したからこそ分かる日本の課題
医学分野でも、去年4月には大学院に「医療創成工学専攻」を新設され、来年には医学部に医学と工学を融合させた「医療創成工学科」を設けられようとしています。
神戸大学は長年、診断・治療に役立つ医療機器の開発を行ってきました。今回、メディカロイド社と一緒に国産初の手術支援ロボット「hinotori」を開発するなかで医療機器開発に取り組む人材育成の必要性を強く感じました。
医師、技術者以外にも、医療機器の開発に関わる人たちを育成しないと、日本の医療機器開発は進みません。まずは、医療機器開発に携わることのできる実践的な人材・研究開発人材を育成するために大学院で専攻を新設し、臨床現場を学びの場として医療機器開発をビジネスとして確立できる実践的教育を進めています。また、来年4月には、医学部に医療創成工学科を新設し、大学院との一貫した教育を実施し、専門性の高い人材を育成します。今年の8月には、ポートアイランドの神戸大学医学部附属病院国際がん医療研究センターに連結した形で医療機器開発を実践する産官学共創ラボとしてのメドテックイノベーションセンターが新たに開設されます。
神戸は医療産業都市でもあります。
メディカルクラスター、バイオクラスターが形成され、様々な革新的な技術基盤はできつつあると思います。医療機器開発に関して言えば、神戸が、日本の医療機器開発の中心地となり、やはり世界に誇れる開発のメッカにならないといけないと思っています。そのための人材がまだまだ不足していますので、神戸大学が中心となって若い優秀な人材を育てなければいけないと強く感じています。
地域社会は、経済だけでは回らず、教育こそが非常に重要
これからの時代の大学の役割をどのようにお考えになられていますか?
やはりそれは知の創造でしょう。神戸大学は知と人を創る異分野共創研究教育グローバル拠点を目指しています。
つまり、大学の中での研究開発によって新しい知を創造し、イノベーションを創出して、最終的には社会実装し、社会に貢献していくことが大学の役割ではないでしょうか。
最後に、神戸経済についてどうご覧になられているかお聞かせ下さい。
神戸市に限らず、日本では各地で人口が減っています。その中で大事なのが、どのように地域を活性化させるのかということだと思います。
世界を見ると、アメリカなどは顕著ですが、大学が街の中心になっています。例えば、シリコンバレーのスタンフォード大学―。つまり、その地域の中心となる大学が、社会に役立つ研究開発を行い、地域に貢献することによって、そこに新しい産業が生まれて人も流入してくるという良い循環ができています。神戸においても大学が中心となって革新技術を創出し、産官学連携をしっかり進めるとともにスタートアップ育成を加速し、都市におけるイノベーションエコシステムを確立していくべきであると思っています。
現在、神戸では「大学都市神戸産官学プラットフォーム」を設立し、大学が産官学を密にして社会貢献することによって地域の活性化を目指す取り組みを進めています。地域の活性化には経済の発展がもちろん重要ですが、もっと大切なのは地域社会に貢献できる人材の育成に向けた教育であり、大学の果たす役割は非常に大きいと思います。その役割を果たすためにも地元大学として神戸市とともに地域発展に向けて覚悟をもって様々なことにしっかりと取り組んでいきます。
神戸大学 学長
藤澤 正人さん
1960年生まれ 兵庫県出身。1984年神戸大学医学部卒業。89年同大学大学院医学研究科博士課程修了。2005年同大学大学院医学研究科腎泌尿器科学分野教授、その後医学部附属病院長、医学研究科長などを経て2021年より現職。日本泌尿器科学会理事長など歴任。国産の手術支援ロボット「hinotori」の開発に携わり、1例目の手術を執刀、成功させる。
神戸大学
神戸市灘区六甲台1-1
TEL.078-881-1212
https://www.kobe-u.ac.jp/ja/