7月号
独創に光を。第1回 神戸賞決定!
中谷財団設立40周年
若手研究者と独創的な研究に光を当てる「神戸賞」創設
公益財団法人中谷医工計測技術振興財団(以下、中谷財団)は神戸に本拠地を置く臨床検査機器・試薬メーカー、シスメックス株式会社の創業者・中谷太郎氏により1984年に「中谷電子計測技術振興財団」として設立され2024年、40周年を迎えた。6月1日、「中谷財団設立40周年記念式典」と「第1回神戸賞授賞式」がポートピアホールで開催された。
若手研究者に光を当てる
学術賞「神戸賞」
神戸賞は今後、日本がリードしていくべき分野「BME(Bio Medical Engineering)生命科学と理工学の融合境界領域〜」においてイノベーションをもたらす優れた独創的な研究で実績を上げた研究者、ユニークな研究で将来が嘱望される若手研究者に光を当てる学術賞。中谷財団設立40周年を節目として精力的に若い研究者を支援すべく創設された。
「第1回神戸賞授賞式」はジャズの演奏で華やかに開幕した。ステージには神戸賞アンバサダーの山之内すずさんが登壇。日々新たなことに挑戦しマルチに活躍する山之内さんは創設趣旨との親和性が高く、昨年アンバサダーに就任以来、若い人たちへの認知活動に貢献している。
表彰に先立ち中谷財団代表理事家次氏は、「世界の国々が著しく成長し情勢が変化する中、『技術大国』と呼ばれてきた日本は元気を失っているように思います。この国の経済と社会を元気にして再び輝かせるには科学技術の世界でイノベーションが起きる環境を整えて研究者たちが活躍できる土壌を育み、成長につなげることが重要です」と神戸賞の意義を話した。
大賞受賞者と3名のYoung Investigator賞(以下Y.I.賞)受賞者には神戸賞を象徴する〝光〟を照らす人をモチーフにしたトロフィーが山之内さんから手渡され、家次氏から大賞受賞者に表彰盾と賞金(5000万円)目録パネル、Y.I.賞受賞者3名それぞれに表彰盾と賞金(500万円)および、副賞として研究助成金(5年間で4000万円)目録パネルが授与された。審査基準と授賞理由が審査委員長の柳沢正史氏から紹介された。「独創的で医工学の境界融合領域にあるという2つの基準に沿って議論を重ねた結果、臨床応用への見通し、将来の発展性、人々の医療・健康につながる決定的な発見という視点から浦野泰照氏を大賞に選ばせていただきました。同様の基準に加えY.I.賞は最終審査をシンポジウム形式で実施し、ディスカッション力や質疑応答力、将来に向けた発展性、巻き込み力を審査し3名の受賞者を決定いたしました」
受賞者4名はそれぞれ喜びと感謝の思いを話し、研究内容を解説し、最後に高校生からの質問に答えた。浦野氏は「第1回の大賞をケミストリーに対して頂けたことはこの分野に所属する一研究者として非常に嬉しく思っております」と話した。特別講演では「化学は覚えるのではなく、生活を豊かにする新しいものを創り出す学問」と持論を展開し、化学の原理原則を〝診る〟ためのサポートへと転化していった過程を分かりやすく解説した。
大賞受賞者と研究課題
浦野泰照氏
東京大学大学院薬学系研究科、同医学系研究科 教授
オリジナル蛍光プローブの精密開発と
その活用による、革新的生体・医療イメージング技術の創製
目的の細胞や生体分子を光らせる蛍光プローブ開発において独創的かつ論理的な精密分子設計法を多数確立し、それらを駆使して実用的な開発に成功してきた。さらに独自の技術を実践的な医療へと昇華させることを狙い、国内外の臨床外科医と連携し、プローブ溶液を噴霧するだけで1ミリ以下の病変を検出できる術中迅速がんイメージング技術という化学と医療の新たな融合領域を開発した。現在、臨床試験、薬事申請が行われている。
Y.I.(Young Investigator)賞受賞者と研究課題
武部貴則氏 大阪大学大学院医学系研究科 教授
マイ・メディシン実現に向けた戦略的多能性幹細胞研究
臓器移植の現場において臓器の絶対的な不足という課題に直面し、幹細胞を培養して自己複製、分化、自己組織化させるオルガノイド研究を基軸として移植の代替手法を目指した。血管を含む多細胞系譜が複雑に構造化されたオルガノイド作製の基盤技術を確立し、致死的な肝疾患治療への応用や隣接器官接続への道筋をつけた。さらに疾患発症と個別化医療につながる遺伝子要素を解明し、スタートアップ会社を立ち上げ一部は臨床試験を実施している。
太田禎生氏 東京大学先端科学技術研究センター 准教授
高速・非破壊な光生命解析を人知から解放するLearning Cytometry技術群の開発
研究分野で多く使用されている細胞解析装置セルソーターは感度・速度と識別精度の両立に課題を有している。そこで画像が構成される前の電気信号を直接解析して識別するという逆転の発想を軸に、光、流体、電気、AI技術を組み合わせることでコストを削減し、より高速化、高精度化した世界初の画像情報識別型高速セルソーターを実現した。実用化に挑戦し2023年に装置を上市。現在もAI駆動サイトメトリー技術群を次々と開発している。
加藤英明氏 東京大学先端科学技術研究センター 教授
光遺伝学技術の分子基盤解明およびその高度化
眼の中で視覚を担うタンパク質であるロドプシンの中でも、イオン輸送型のロドプシンの立体構造を次々と決定し、構造情報に基づき機能解析を行い分子機構の詳細を解明した。また、詳細な構造情報から着想を得て、分野横断的なアプローチを融合し新たなロドプシンを開発した。その成果は研究用の実験ツールだけではなく、網膜変性疾患やうつをはじめとする各種精神疾患、神経疾患の遺伝子治療への昇華が期待される。
中谷財団設立40周年式典
記念式典は、家次氏の中谷財団沿革と事業内容の紹介、今後に向けてのメッセージで始まり、来賓諸氏から同財団の功績をたたえ、また次世代の研究者育成事業と「神戸賞」への期待を込めた祝辞が贈られた。続いて、長年にわたり医工計測技術の進歩に貢献し同財団の発展に尽力した3名(当日1名欠席)の功労者を表彰し閉会した。
公益財団法人 中谷医工計測技術振興財団 家次恒代表理事
2012年、中谷太郎の意思を継ぐ中谷正理事から遺贈を受け当財団は新たな事業を展開し日本でも有数の規模の民間財団へと成長いたしました。研究者対象の助成・表彰事業において40年間で総数約2500件、58億円を超えるご支援を行い、近年は大学院生・学部生、小中高生に至るまで幅広い層に対してさまざまな研究助成を行っております。さらに40周年を記念して新たに創設した「神戸賞」では対象を従来の医工計測技術からBME分野へと拡大し、医療に関する研究技術の急速な進歩と環境の変化に対応してより幅広いご支援を継続していく所存です。一方、日の当たらない研究分野で研究費の調達に苦労されている地方の研究機関へも目を向け、また将来の科学者の卵である若年層に向けてさらに丁寧なご支援を地道に続けてまいります。皆さまの変わらぬご支援・ご鞭撻のほどよろしくお願い申し上げます。