7月号
兵庫県医師会の「みんなの医療社会学」 第155回
姫路市医師会医政市民フォーラム
「かかりつけ医って何なの?」について
─姫路では医療政策にフォーカスしたフォーラムを開催していますね。
多田 姫路市医師会では早くから医療政策に関する市民フォーラムを開催し、市民のみなさまと共有しておきたい、お知らせしたい、一緒に考えたい内容をテーマに採り上げてきました。
─今年はいつどのようなテーマで開催しましたか。
多田 基本的に隔年で開催しており、2024年は3月16日に姫路市医師会館大ホールでおこないました。91名の参加があり、うち半分ほどが市民でした。「かかりつけ医って何なの?」をテーマに、多角的な視点からかかりつけ医について考えました。一般講演として医師会会員の3名の医師が登壇し、その後、特別講演というプログラムでした。
─一般講演の最初の講演はどんなお話でしたか。
多田 まず、のざと眼科の高野朋子先生が「日本の医療機関が民間優位となった歴史的経緯~明治維新から今日まで~」と題して、歴史的な側面からかかりつけ医の成り立ちを解説しました。「いつの時代も政治は医療への資金投入を後回しにしてきました」と高野先生はおっしゃっていました。
─2番目の講演の演題は何でしたか。
多田 しろがねのりこ皮ふ科の下浦典子先生が、「英国の医療制度」をテーマに、財務省がかかりつけ医制度のモデルとしているイギリスのGP(General Practitioner)制度を解説し、そのメリットとデメリットそれぞれについて解説されました。「英国のような制度を採用する必要はないでしょうけれど、何でも相談できるかかりつけ医がいるということは大切なことです」と下浦先生がおっしゃっていたように、市民のみなさまにはかかりつけ医を日々の健康に役立てていただければ良いのかなと思います。
─3番目は多田先生が講演されたそうですね。
多田 はい、「なぜ『かかりつけ医』なのかを掘り下げる」という演題でお話いたしました。医療制度はその国の歴史や国民性などの所産であり、かかりつけ医も英国のGPなどヨーロッパの家庭医とは違う意味を持っています。また、日本は高齢化率が高く、しかも自由に診療を受けられるのに、他国と比べて医療費が高い訳ではなく、G7諸国で新型コロナ感染症での人口あたりの死者数も圧倒的に少なかったのですね。安易に英国を模倣するのではなく、かかりつけ医の機能を強化しつつ、その役割を実情に合ったわが国独自のものとするべきではないでしょうか。今回お話した内容は『神戸っ子』2023年7月号「みんなの医療社会学」で詳しく記述していますのでぜひご覧ください(本誌ホームページで閲覧可)。
─特別講演の講師はどなたでしたか。
多田 認定NPO法人ささえあい医療人権センターCOML理事長の山口育子さんをお招きしました。山口さんはこれまで7万人もの患者さんの相談を受けてきました。また、医療機関へのアドバイスや、岩波新書『賢い患者』の執筆、患者代表として厚労省ほか多くの行政の審議会の委員も務められ、広島大学の客員教授やラジオパーソナリティーとしても活躍されています。
─講演はどのような内容でしたか。
多田 「患者の立場で考えるかかりつけ医機能」というテーマでご講演いただきました。まず、賢い患者になるためには自身が命の主人公であり体の責任者だという自覚が大切で、患者と医療者は協働する関係にあるので、医療安全対策や医師不足など現在の医療の問題や医療のあり方について患者もともに考えるべきではないでしょうかと問いかけられました。そして、国で話し合われているのはかかりつけ医の「制度」ではなく「機能」であることを指摘した上で、かかりつけ医をめぐる医療制度や社会環境、患者の現状を紹介し、かかりつけ医の制度化は日本にメリットはほとんどなく、必要なときに必要な医療にアクセスできるかかりつけ医機能の検討が必要だと訴えておられました。そして最後に、メモやあいさつの重要性、患者の自覚の責任、医療に限界があることを理解するなどの「新 医者にかかる10箇条」を紹介されました。
─質疑応答ではどんな質問がありましたか。
多田 市民の方からは、医師がパソコン画面ばかり見て患者の顔をあまり見ないがなぜなのかという質問があり、山口さんは診察時間が短い上に電子カルテや検査結果が表示されるためでその対応は過渡期にあるのではないかと回答されました。また、ソーシャルワーカーの役割についても問われ、患者にとって何でも相談できる存在になってほしいと答えられていました。医療関係者からも多く質問が出ていました。
─多田先生は特別講演のどんな内容が印象に残りましたか。
多田 医師へのクレームが多いという話題は耳が痛かったですね。看護師や医療事務などに関する不満も結局は医師への不満になってしまいがちなのですが、これは医師という職業が古代ギリシャからの長い歴史があり、権威があると思われているからなのでしょう。また、医師の説明は昔よりずいぶん詳しくなったのに説明不足を訴える患者さんが多いということの要因に、インフォームドコンセントの定着があるというご指摘は意外でした。インフォームドコンセントはアメリカで患者の権利として生まれた概念なのですが、日本では医師からの一方的な情報提供の場となっており、内容も専門的なので患者さんが理解できず、結果的に「聞いていない」ことになってしまっているので、情報を共有して話し合いながら一緒に考えるべきだと山口さんはおっしゃっていましたが、まさに「同意」より「合意」が大切なのだと思います。
─次回のフォーラムはいつの予定ですか。
多田 隔年開催なので、次回は2026年の予定です。近くなりましたら姫路市医師会ホームページや『広報ひめじ』などでご案内しますので、ぜひご来場ください。