6月号
兵庫県医師会の「みんなの医療社会学」 第154回
宝塚市民健康特別講演会
「長寿菌がいのちを守る!~健康長寿100歳を目指して~」について
─宝塚市民健康特別講演会とはどのような講演会ですか。
頭司 宝塚市医師会では市民のみなさまに医療サービスや医療情報の提供をおこなっていますが、その活動の一環として宝塚市民健康特別講演会を年に1回開催しています。これは、市民のみなさまの医学や健康の知識の啓発を目的としています。
─今年は3月2日に宝塚ホテルで開催したそうですが、どのようなテーマでしたか。
頭司 講演会は平成元年からはじまり、主に身近な疾病や健康づくりに関する話題を提供してきました。30回目を迎えた今回は、辨野腸内フローラ研究所理事長で理化学研究所名誉研究員の辨野義己先生を講師にお招きし、「長寿菌がいのちを守る!~健康長寿100歳を目指して~」と題して、腸内細菌と健康についてお話いただきました。
─辨野先生は、ヨーグルトのCMに出ていらっしゃる方ですね。
頭司 テレビでよくお見かけしますし、腸内細菌についての著作も多いんですよ。有名な先生ということもあって、今回は定員150名を超える180もの参加申込があり、会場は盛況でした。
─辨野先生の講演はどんなお話でしたか。
頭司 まずはすこやかな排便についてからお話がスタートしました。便秘に悩む世代は何歳くらいだと思いますか?
─高齢の方じゃないかと思いますが。
頭司 いいえ、先生のご説明によると、意外にも上位は20代や30代など若い女性なんです。偏った食事や筋力の低下、ストレスがその原因だそうです。逆に最も下痢で悩むのは40代や30代の男性だそうです。
─そもそも大便とは何でできているのでしょう。
頭司 主成分は水で、80%ほどが水分だそうです。残りは生きた腸内細菌、腸粘膜、食べカスで、大便1グラムに約1兆個もの細菌がいるというお話に、会場のみなさまも驚いた様子でした。
─いま注目されている腸内細菌ですね。
頭司 腸内細菌はなんと1,000種類以上もあり、腸内にいる細菌の総重量は1.5キロにもなるそうです。腸内環境が有害菌優性になると有害物質や発がん性物質、細菌毒素が発生し、それが直接腸管にダメージを与えるだけでなく、粘膜のバリア機能や免疫力の低下を引き起こして有害物質が血中に移行、内臓に障害を引き起こし、がん、認知症、自己免疫疾患、肥満、糖尿病に結びつくと考えられるそうです。それだけでなく、腸内細菌は宿主の思考や行動にも影響を与えていることが細菌の研究で明らかになっていると、辨野先生はおっしゃっていました。大脳エネルギーの消費に腸内細菌が関与し、脳機能と腸の健康が密接に関係しているという先生のお話に、聴衆のみなさまも興味津々でした。
─腸内細菌を調べると、生活習慣がわかりそうですね。
頭司 辨野先生によると近年、腸内細菌叢データベースが構築され、腸内細菌の構成や機能と、年齢性別や体重などの属性、食習慣や生活習慣や精神状態などの環境、そして健康状態を関連付けて解析する研究がおこなわれているそうです。そのデータベースは生活習慣病の予防や健康増進に役立てるだけでなく、ひいては国民医療費の削減に結びつくかもしれませんね。
─テーマにある「長寿菌」とはどんな菌ですか。
頭司 健康長寿の方の腸内細菌には、腸内環境を整えるビフィズス菌と、がん細胞を抑制し腸粘膜を改善する酪酸産生菌である大便桿菌や大便球菌が多いそうです。辨野先生はこれらを「長寿菌」とおっしゃっていました。
─いわゆる善玉菌、プロバイオティクスですね。
頭司 プロバイオティクスには腸内細菌のバランスの改善や宿主の生理機能亢進により病気リスクを軽減する働きがありますが、最近ではアレルギーや呼吸器感染の予防、食餌性コレステロールの低減やピロリ菌の抑制、口腔疾患や大腸がんを抑える効果が報告されているそうです。辨野先生は、20世紀は病気になってからあわてて抗生物質などにより治療するアンチバイオティクスの時代だったが、21世紀は腸内細菌を改善し有用な微生物を病気の予防や健康づくりに役立てるプロバイオティクスの時代と力説されていました。さらに、サイコバイオティクスについても紹介していました。
─耳慣れないワードですが、どんなものなのでしょうか。
頭司 心理的・精神的に関与しているのではないかと思われる腸内細菌のことだそうです。サイコバイオティクスを活用し、ストレスの緩和や睡眠の質の向上など、脳に働きかけてメンタルの部分を改善できるようになるのではと期待されています。
─腸内環境のコントロールが大切なのですね。そのためにはどうすれば良いのでしょうか。
頭司 便所とは体からの便=便りを受け取る所で、毎日うんちをチェックする習慣をつけましょうということです。うんちをつくる力のために食物の本質を考えて食べること、うんちを育てる力のために長寿菌優位の環境をつくること、うんちを出す力のために運動をすることが大切だというアドバイスもありました。より良い腸内環境のためには、偏った食事と運動不足を避けなければいけませんね。
─宝塚市民健康特別講演会は来年も開催されますか。
頭司 来年の2~3月頃に開催予定です。日程やテーマが決まり次第、宝塚市医師会ホームページや宝塚市の広報紙「広報たからづか」に掲載しますので、ぜひご来場ください。