6月号
【特集】灘の男酒も!この男(坂野氏)も!ポテンシャル宇宙一!nadagogo sakedokoro
灘五郷のお酒の魅力を発信するSAKEのワンダーランド『灘五郷酒所』。「灘五郷は日本一の酒どころ。日本一なら世界一、世界一なら宇宙一!」と断言してお店を運営する(株)ARIGATO-CHANの坂野雅さんと中野佳子さんに、事業への想い、そして美味しい灘の酒づくりに欠かせない“水”の神戸における可能性について伺った。
“布引の水”から始まる物語
「灘五郷酒所」を運営する坂野雅さんは以前、東京の広告代理店に勤めていた。転勤で10年ぶりに戻った神戸を観光客目線で改めて見ると「神戸の魅力がうまく発信できていないように感じた」。その一つが神戸ポートタワー。東京では展望良好なビルでは立地を活かしたパーティが開催されていた。神戸でも!とポートタワーの展望フロアでイベントを開催。その時に見上げたポートタワーが水のボトルに見えたという。そこでタワー型のボトルに神戸が誇る布引の水を詰めた『NUNOBIKI NO MIZU』を企画、販売。六甲山の花崗岩層に濾過されたミネラル豊かな水は土壌を潤し、海へ辿り着くまでに神戸に様々な恩恵を与えている。腐りにくいことから神戸に寄港する外国船の乗組員達にも称賛されていた。「神戸には語るべきストーリーがまだまだある」。神戸らしいボトルに物語や神戸愛を詰めて発信する事業から、ARIGATO-CHANの歴史が始まった。
日本一の灘がやらないのか
灘五郷に関わる転機となったのは広島・西条の酒まつりに参加したこと。「広島の酒蔵の人に『灘も日本酒をもっと盛り上げなあかん』と言われました」。そうして坂野さんはポートタワーでの酒イベント「KOBE SAKE TOWER」や「SAKE TARULOUNGE」の運営など、灘五郷のPRに携わるようになる。
六甲山のミネラルに海のミネラルが交わる奇跡の「宮水」、酒米「山田錦」、寒風「六甲おろし」と、兵庫の恵まれた自然条件が合わさって初めて力強い男酒、灘の酒となる。しかしそんな素晴らしい環境を知る人は少ない。山田錦の田園見学、六甲の風を感じ、宮水を見て、酒蔵を巡り、神戸ビーフと日本酒のペアリングまで、盛り沢山のローカルツーリズムを企画するが、視察に訪れた文化庁の担当者から「灘五郷のきちんとした情報発信拠点が必要」と助言される。居合わせた剣菱酒造の白樫政孝社長から「“使っていない酒蔵があるから役立ててほしい”と言われて」、『灘五郷酒所』が2022年4月に誕生する。
GO!GO!灘の酒は楽しい
『灘五郷酒所』は全長50mのコの字型カウンターがあり、灘五郷全26蔵・約40種類の日本酒を飲み比べができる。剣菱酒造の酒蔵を改造した店ながら他社の酒まで楽しめるのは、先述の白樫社長が提案したのだとか。「剣菱酒造さんは1世紀ほど前に伊丹から灘に移転する際、灘五郷の酒蔵から温かく迎えられた。その恩義を感じておられ、灘に貢献できればと考えられたんです」と坂野さん。
一般営業は週末と祝日のみ、それ以外の日はセミナーなどの貸切利用。営業日はほぼ満席ゆえ予約がベター。お店が始まると、坂野さんが「振舞酒を飲みたいか~」とゲストに向けマイクで呼びかけ「飲みた~い!」と歓声があがる。皆で乾杯し「灘五郷を楽しく覚えよう、西宮…」「郷GO!」「魚崎」「GO!」「HIROMI」「GO(笑)」と国内外の観光客や地元民、一期一会で出会った人たちが皆、灘のお酒を通して繋がり、楽しく宴ができる心地よい酒所となっている。
日本酒文化を発信!
灘の酒づくりの本質を紐解く工夫やサービスがそこかしこに。“酒神社”をテーマに、入口にはしめ縄を飾り、提灯風のライトや八百万の神様が描かれたフラッグに囲まれたカウンターは店奥に鎮座する酒造タンク、日本酒の神様が並ぶ本殿につながる参道というストーリー。神社の縁日風空間に訪れたゲストは美味しいお酒を飲めることを神様に感謝し、楽しい演出を肴に日本酒談義に花を咲かせる。人肌燗やぬる燗など、温度ごとの味わいを堪能する“お酒の混浴体験”こと熱燗イベントなども開催され、美味しく酔いながら、日本酒の知識を身につけられるのも人気の秘密だ。
「灘五郷の歴史や何百年と続いてきた酒づくり文化、蔵人や生産者の物語を継承し、世界一の酒どころから世界に向けて情報発信していきたい」と坂野さん。今後、酒蔵とお客さんをつなぐハブ的な役目も果たすべく、全国の酒蔵の代表によるセミナーなども積極的に開催する予定だとか。
食とお酒の組み合わせ
『灘五郷酒所』ではお酒と料理のペアリングを楽しめるのも大きな特徴だ。坂野さんの相棒、中野佳子さんは西宮郷の「白鹿」、辰馬本家酒造(株)の出身。マーケターとして活躍するなか、イベントで知り合った坂野さんを手伝うようになり、ARIGATO-CHANの一員となった。「旬」「発酵」「相性」「地元」をテーマにしたお店のメニューも中野さんが考案し、調理する。
硬水で仕込まれた灘の酒は「男酒」と称され、辛口で力強い味わい。「味がしっかりしているため、インド料理や中華料理など、パンチの効いた料理にも負けないし、組み合わせることで全く違った味わいになる。色々な味変を楽しんでもらえるように、お酒との相性を考え抜いた料理を提供します」と中野さん。
灘の神戸市中央卸売市場に自ら買付に出向き、近海物の魚と地元の酒のペアリングを提案したり、地元の食材店や飲食店とコラボレーションしたり、大忙しの日々を過ごす。
江戸から続くペアリング
灘の酒はかつて江戸で飲まれる酒の約8割を占め、今なお日本一の生産量を誇る。江戸という全国から色々な人が集まる場所で、どんな料理にも合う灘の酒は食事を引き立て、食事と共に楽しむ、食中酒として広まっていった。「例えば唐揚げにはビールが一番と思われているが、実は日本酒にも合う。でも中身のない提案ではその時、刺さってもすぐに記憶から消えてしまう。なぜ、合うのか、背景や風土、素材に意味があるから、合うんだよときちんと説明することで、世間に認められ、浸透していくと思います」と力説する。
神戸を“水”で盛り上げる
酒の事業に携わることで、神戸が軟水・硬水両方が湧き出ている稀有な場所であると実感したという2人。出汁に向いている軟水、スープに適する硬水、だから和洋食の文化が栄え、さらにはパン文化や酒文化など、多様な食文化が根付いた。水に恵まれていることが神戸発展のポイントといっても過言ではないと考える。
ARIGATO-CHANが布引の水の事業から始まったこともあり、水を切り口に神戸を盛り上げていかなければという使命感があるそう。自然派料理の「amasora」やクラフトビール醸造所「IN THA DOOR BREWING」、三つ星レストランの「カ・セント」、「にしむら珈琲店」など、神戸の名だたる人気店も水にこだわっている。それら水に関して想いがある人達と、水で神戸の街を盛り上げていくことが目標だ。
豊かで良質な水を育んでいる六甲山を含めた自然環境に意識を持つことが大事。「神戸でそれぞれの産業を営む人たちが水に紐づいて自分たちの事業がまわっていることを意識しだしている」と中野さん。例えば、神戸市を中心に木材のコーディネートをしている「SHARE WOODS.」代表の山崎正夫さんや、尻池水産の尻池宏典さんたち漁師さんも海の恵みは健全な山があってこそ、と六甲山の木々を間伐して植林する活動に取り組む。
坂野さんが声掛けして「世界水の日」の前日にあたる3月21日に「神戸の水プロジェクト(仮)」をキックオフ。日本を代表する地球科学者の巽好幸先生や「つなげよう、支えよう森里川海」プロジェクトを立ち上げた前環境省の中井徳太郎さんらが集い、神戸の水に継続的な価値を見い出していく強力なチームを形成していく予定。「今後、神戸の水はますます神戸の貴重なポテンシャルになると確信しています」と坂野さん。恵みの水が神戸の未来に恵みを生みだす。お酒の美味しさも美味しい水のおかげ、と皆でちょっと環境を意識すれば、もっと美味しい未来につながるはず!
灘五郷酒所
神戸市東灘区御影本町3-11-2
電話:080-7945-8291
金・土・日曜、祝日のみの営業(予約がベター)
※月〜木曜日は貸切やイベントでの利用が可能
https://nadagogo.com/