11月号
⊘ 物語が始まる ⊘THE STORY BEGINS – vol.36 俳優 城田 優さん
新作の小説や映画に新譜…。これら創作物が、漫然とこの世に生まれることはない。いずれも創作者たちが大切に温め蓄えてきたアイデアや知識を駆使し、紡ぎ出された想像力の結晶だ。「新たな物語が始まる瞬間を見てみたい」。そんな好奇心の赴くままに創作秘話を聞きにゆこう。第36回は、俳優やシンガー・ソングライター、そして舞台の演出家としても活躍する城田優さん。
文・戸津井 康之
〝三刀流〟で深めた自信…唯一無二のエンターテインメント目指し
今、演出に夢中
「ミュージカルの舞台で初めて〝三刀流〟に挑戦したんですよ。もちろん、自分から望んで挑んだことなのですが、想像以上に大変でしたね」
いきなり、こう話し始めた城田優さんの表情には、笑顔の中にもさすがに疲労のあとが見てとれた。
実はこの日のインタビューが神戸市の「PEANUTS HOTEL」で行われる2日前に、ミュージカル「ファントム」の大阪公演の千秋楽を終えたばかりだったのだ。
「僕は(主演の)ファントムと(助演の)シャンドン伯爵の二役で出演し、舞台全体の演出もしていたのですが、途中で〝今、自分はいったい、どの役をしているの?〟と混乱する状態に陥ってしまって…」と打ち明けた。
「当然、自分が演出するのですから、主演に助演、その他の役のセリフも、歌も、すべて頭の中に入っているのですが、いざ三つの役を切り替えるとなると、これがかなり大変で…」。そう笑いながら説明するが、7月22日から8月6日までのロングラン公演の間、「ずっと不安と緊張が消えることはなかったですね」と吐露した…。
「ファントム」をはじめ「エリザベート」、「ロミオ&ジュリエット」など20年近く、多くの舞台に立ってきた。
こうして実績を積みながら、日本を代表するミュージカル俳優としての地位を築く一方、2016年には「アップル・ツリー」で演出家デビューも果たす。以来7年、俳優にとどまらず、兼演出家という“二刀流”に挑んできた。
「俳優と演出家。もし、今、どちらかひとつを選べと言われたら、演出家の道を選ぶかもしれませんね」
衝撃的な発言ではあるが、この〝宣言〟通り、今、準備を進めている企画がある。
オーケストラコンサートでは、自身初となる〝ボーカル兼演出家〟の大役を務めるのだという。
誰も見たことのない世界を
2020年。世界で愛されるキャラクター、スヌーピーが活躍する米漫画「PEANUTS」の生誕70周年を記念し、スヌーピーをテーマにしたオーケストラコンサートが東京で開催された。
この第1回から昨年の第3回まですべてのステージで城田さんはゲストボーカルとしてオーケストラの前で歌ってきた。
そして今年も12月、4年目となるコンサートが開催される。
「実は今回、初めて演出も僕が担当させてもらうことが決まったんですよ」。そう語る表情は誇らしげで、とてもうれしそうだ。
フルオーケストラの前でソロで歌う。それだけでも十分、大変なことだと想像できるのだが、なぜ演出との〝二刀流〟に挑むのか?
その答えは明確だった。
「これまでステージの上で歌いながら〝こんな演出はできないだろうか?〟などと、ずっと頭の中で構想を練っていたんですよ。そんな僕のアイデアをスタッフへ伝えたら、〝じゃあ演出もしてみますか?〟と言われて。4回目で、ついに念願が叶うことになったんです」
城田さんが演出家の視点から長年温めてきたという、その構想は壮大だった。
「事前の情報はない方がコンサートを楽しめますからね」と言うので、「少しだけヒントを?」と聞くと…。
「では少しだけですよ。通常、どんなコンサートでもステージの上でオーケストラの位置はほぼ決まっていますよね。それを変えたいと思っているんです」
与えてくれたこのヒントに戸惑い、混乱していると、持ち前の旺盛なサービス精神で、さらにヒントを教えてくれた。
「スヌーピーたちが住む『PEANUTS』の世界でコンサートが開かれているイメージで、非日常の舞台をお見せできればと考えているんです。コンサートの幕が上がった瞬間…。観客席の全員が驚くはず。なぜなら、そこには、これまで誰も見たことのない、想像もしたことのない舞台が現れるのですから…」
構想を聞いているだけでワクワクさせられる。
ロングラン公演の疲れを振り払うように、長年温めてきた思いを、身振り手振り、そして実際に声に出し、「ミュージカルでは、こう歌って観客席へ感情を伝えるんですよ」と歌を口ずさみながら構想を明かす。
その真剣な眼差しを目の当たりにすると、舞台に懸ける熱い情熱が、ひしひしと伝わってくる。
さらに演出の構想の説明は続いた。
「美術や音楽監修などのスタッフ、そしてオーケストラにゲストシンガーなどのキャスト…。ほぼすべて自分が希望した通りのメンバーを揃えることができました」
コンサートはクリスマスに合わせ、12月3日に兵庫・兵庫県立芸術文化センター「KOBELCO」大ホールで、24日に東京・昭和女子大学「人見記念講堂」で開催される。
ゲスト・シンガーは兵庫が、Crystal Kay(クリスタル・ケイ)さん、東京公演は清水美依紗さん。
「歌唱力はもちろん、ネイティブな発音で英語の楽曲が歌える、今、日本で最も実力ある2人を選んだつもりです」
〝プレーイング・マネジャー〟の二刀流を駆使する城田さんが、これまで数々のコンサートやミュージカルの舞台で歌い、演じ、そして演出しながらステージ上やステージの裏から見てきた、その成果が、こうして、また一つ結実し、形になろうとしていた。
前代未聞の壁を越え
城田さんは東京出身。父は日本人、母はスペイン人で、「2歳から7歳までスペインで暮らしていました」と語るように、幼い頃からスペイン語はネイティブで話せ、今も堪能。「英語は独学で学んでいるため、セリフで使うための正確なアクセントや発音には気をつけています」と言う。
演技や歌の世界に憧れたきっかけは、スペインでの幼少時代に遡る。
「テレビで見ていた華やかな世界に魅了され、〝僕もこの中に入りたい!〟。そう思ったんです」。その決意はかたく、日本に戻るとすぐに芸能事務所に所属し、デビューに向けてのレッスンを始める。13歳でテレビCMなどに出演するようになり、2003年、17歳でミュージカル俳優としてデビューを果たす。
「このデビュー以来、ほぼ毎年、僕は何かの舞台に立ってきたんです」と言い、こう続けた。「演劇の学校や劇団などでなく、僕はステージの上でミュージカル俳優としての技術を磨きあげてきたんです」と。数々の舞台をこなしながらも、その唯一無二の存在感あるキャラクターを生かし、テレビドラマや映画などでも活躍してきた。
昨年、社会現象ともなったNHK連続テレビ小説「カムカムエヴリバディ」で英語のナレーターを務めた。
チーフディレクターは、この「物語が始まる」で紹介したNHKのベテラン演出家、安達もじりさんだ。
城田さんの英語によるナレーションは話題となり、ドラマ終盤では物語のカギを握るキャストとしても出演している。また、昨年公開された東宝大作「コンフィデンスマンJP 英雄編」では元マフィアのスペイン人、ジェラール・ゴンザレス役を、スペイン語と英語のセリフで熱演。これまで見せたことのない表情や声によるカメレオンのような怪演で、多くの映画ファンや映画関係者たちを驚愕させた。
「この二つの役を演じられるのは今の日本俳優界で僕しかいない…。そう思いながら演じていたんですよ」と豪快に笑う。
「ファントム」で挑んだ三刀流はミュージカル界にとっても〝前代未聞〟の出来事。それをやり遂げた自信が全身から漲っていた。
「12月のコンサートの演出は直前までアイデアを練り上げていきたい。僕自身がとても楽しみで、胸を躍らせています」
俳優と演出家…。二刀流、三刀流を自在に駆使する若き〝プレーイング・マネジャー〟の更なる進化に要注目だ。
城田優
2003年に俳優デビュー。以降、テレビ、映画、舞台、音楽など幅広く活躍。近年の主な出演作に、NHK連続朝のドラマ小説「カムカムエヴリバディ」(語り手)、Amazon Primeドラマ「エンジェルフライト~国際霊柩送還士~」、映画「コンフィデンスマンJP英雄編」等がある。舞台では2010年にミュージカル「エリザベート」で第65回文化庁芸術祭「演劇部門」新人賞、2018年ミュージカル『ブロードウェイと銃弾』で第43回菊田一夫演劇賞、2021年ミュージカル「NINE」で第28回読売演劇大賞優秀男優賞を受賞するなど数々の賞を受賞。2016年に「アップル・ツリー」で演出家デビュー。2023年7月ミュージカル「ファントム」で、主演・演出、助演シャンドン伯爵役の三刀流に挑み、Netflixコメディシリーズ「トークサバイバー!~トークが面白いと生き残れるドラマ〜」シーズン2の配信が10月10日から全世界独占配信される。 公式サイト https://shirota-yu.com/
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『Magical Christmas Night』
■日時 12月3日(日)開場18:00/開演19:00
■会場 兵庫県立芸術文化センター KOBELCO大ホール
■出演 城田優(出演・演出)
ゲストボーカル Crystal Kay
栗田博文(指揮)
宮本貴奈(ピアノ・音楽監修)
ジーン・ジャクソン(ドラムス)
パット・グリン(ベース)
日本センチュリー交響楽団
■舞台スタッフ
演出:城田優
美術:松井るみ
照明:澁谷賢治(テラセライティングデザイン)
音響: 牧嶋康司(エス・シー・アライアンス)
舞台監督:大澤裕(ザ・スタッフ)
■主催・企画制作等
主催:ビルボードジャパン(阪神コンテンツリンク)
LOVE&PEACE
企画制作:ビルボードジャパン(阪神コンテンツリンク)
協力:ソニー・クリエイティブプロダクツ
PEANUTS WORLDWIDE LLC
後援:米国ビルボード
■公演公式サイト
https://billboard-cc.com/classics/snoopy2023/
取材協力:PEANUTS HOTEL / PEANUTS DINER