5月号
竹中大工道具館 叡智の彼方へ|第八回|堅木を用いた木組みの世界
ドイツ木組み模型
ヨーロッパの建築というと石やレンガを積み上げた組積造の建物をイメージします。地震が少ないだけでなく、地続きで戦争が多かったために頑強な建物が求められたのです。また古くから製鉄技術が発達していたことも、加工ばかりでなく、建築工法に役立ちました。一方で、古くから木造建築も多く建てられました。各地にいろいろな工法がありますが、ここではドイツの例を紹介します。
神戸ではにしむら珈琲の中山手本店が北ドイツ風のデザインとして長年親しまれています。黒っぽい部分の模様は、実は木でできた構造部分を模しているのです。日本では、二階建て以上の木造建築には「通し柱」と呼ばれる長い柱を使うことが法律で定められていますが、ドイツでは長くて真っ直ぐな木を集めるのが難しく、短い木や曲がった木でも丈夫に造れる工法が発達しました。
構造の考え方もずいぶんと違います。日本では柱や梁などの軸組を基にしますが、ドイツでは壁を一面ずつ造り、まるで折紙で箱を構成するかのように組み上げます。そして、木と木の間に石や煉瓦、土を詰めて壁をつくるのです。
ドイツの中でもシュヴァーベン地方やニーダー・ザクセン地方、フランケン地方では、柱梁と斜材の筋違を合理的で美しいデザインに組合せて高層化した大型の建築を造る例が多く、大工技術もたいへん高い地域です。竹中大工道具館では、シュヴァーベン地方の代表作であるエスリンゲン市庁舎の部分模型を展示しています。ドイツ人大工の手によるもので、木材は本物と同じホワイト・オーク(こなら)を使用しています。たいへん堅い木ですが、すべて斧で製材・加工しています。一見荒々しく見えますが、木の繊維を切断しないので、耐水性がよくなります。それぞれの土地と木に合わせた大工の知恵が生きているのです。
(主任学芸員・西山マルセーロ)
竹中大工道具館
TAKENAKA CARPENTRY TOOLS MUSEUM
神戸市中央区熊内町7-5-1
Tel.078-242-0216
休館日:月曜日(祝日の場合は翌日)
開館時間:9:30~16:30(入館は16:00まで)
https://www.dougukan.jp/