2022年
12月号
12月号
竹中大工道具館 叡智の彼方へ|第三回|
棟梁が残したかったもの
桃山天満宮をつくった道具
京都伏見・御香宮境内にある桃山天満宮(江戸時代末期)の社殿完成を記念して奉納された大工道具。これら五十九点の道具は道具箱の中に収められ、現代まで大切に伝えられました。使い手の名は坂田岩次郎。スミサシに書かれた墨書と社殿建立の記録から、社殿建立の際の大工棟梁の道具と判明しました。
一般的に大工道具は使いつくされてなくなるか、弟子達に譲り渡されるなどして散逸する宿命にあります。このように一式で残されるのは珍しく、とりわけ江戸時代の宮大工の道具がそのまま伝わったのは大変貴重なこと。その稀少性が評価され、二〇一八年に京都市指定有形民俗文化財に指定されました。
道具の内容をみると、特にノコギリ、ノミ、カンナの種類が豊富で、なかでも造作加工用の突きノミが充実しています。幅や厚みの異なるノミを使い分け、精緻な加工を得意としたであろう棟梁の仕事ぶりがうかがえます。江戸時代には多様な建築形式に応じて大工仕事が専門分化し、道具もまた穴を掘る、溝をつくる、曲面を削る、といったそれぞれの作業に特化したかたちに分化しましたが、道具がどのように発達したのか知る上でも貴重な資料です。
職人にとって道具は体の一部ともいえる大事なもの。完成した社殿とともに、棟梁は自身の生きた証を残したかったのかもしれません。
(学芸員・植村昌子)
竹中大工道具館
TAKENAKA CARPENTRY TOOLS MUSEUM
神戸市中央区熊内町7-5-1
Tel.078-242-0216
休館日:月曜日(祝日の場合は翌日)
開館時間:9:30~16:30(入館は16:00まで)
https://www.dougukan.jp/