12月号

建築構造 インサイト|Chapter 2 冨永家住宅
「どう建てるのか?」を追求する平尾工務店にとって、構造は大きなテーマです。おなじみの建物から世界的名建築までさまざまな建築物について、「構造」という視点を交えながら一緒に学んでいきましょう。
前回、わが国で昨年着工された戸建て住宅の約84%を占める木造住宅のうち、その約8割は軸組工法であることをご紹介しましたが、それに次いで多いのが枠組壁工法で、木造建築の約2割を占めます。
枠組壁工法はその名の通り、壁で躯体が構成されます。まずは壁のパネルを組み立て、これを箱のように組み合わせて一体化した六面体構造を形成していきます。壁のパネルは木材で枠を組んでそこに構造用面材を接合して作成しますが、基本的にこの枠組には木口の厚さが2インチ×幅が4インチ(実際の材木は乾燥により厚さ1.5インチ×幅3.5インチで流通)の規格材を使用することから、日本では枠組壁工法により建てられた建築をツーバイフォー(2×4)建築とよぶのが一般的です。
枠組壁工法のメリットとしてまず、面で負担を吸収・分散するので地震に強いことが挙げられます。阪神・淡路大震災の被害調査によれば、住宅全体で約10万5千棟が全壊、約14万棟が半壊の被害を受けましたが、枠組壁工法は全壊・半壊ともゼロでした。また、面構造ゆえに気密性が高く、断熱性能にもすぐれているので、省エネ性能の面でも優秀です。
一方で壁が構造体となるために大きな開口部が取りにくく、間取りやデザインの自由度にもやや欠け、壁を取り払うような改修が難しい傾向があります。また、多湿の日本では湿気がこもりやすいので、梅雨時などは結露やカビに注意が必要です。構造材の規格が固定されているため、建築時のコストカットが難しいという現実もあります。
枠組壁工法は北米発祥で、その前身のバルーン・フレーム構造は明治初期から北海道に導入されており、札幌の時計台もこの構造です。やがて明治後半~大正時代に枠組壁工法の住宅が輸入住宅として導入されるようになり、1979年に技術基準が定められて広がりました。
神戸市東灘区の冨永家住宅は、日本に現存する最古級の枠組壁工法の住宅で、主屋、付属屋とも国の登録有形文化財です。施主の富永初造は、神戸を拠点とした世界的商社だった鈴木商店のシアトル支店で木材を商っていた人物。材料をアメリカから取り寄せ、米国人建築家、ベイリーの設計により100年前に建てられましたが、折しも関東大震災の直後でしたので、地震に強い枠組壁構造が選ばれたのかもしれません。
かつてここは音楽家、貴志康一ゆかりの深江文化村の一角。現在も建築当時の阪神間モダニズムの文化を伝えつつ、また、枠組壁工法の耐久性の高さを実証するかのように、現役の住宅として使用されています。

冨永家住宅のイメージ図

枠組壁工法












