11.23
WEB版スペシャルインタビュー|こまつ座 第152回公演
『太鼓たたいて笛ふいて』
俳優・大竹しのぶさん
劇作家・井上ひさしが遺した作品の中でも人気が高く、「この作品が、わたしはほんとうに好きです」と本人も語った『太鼓たたいて笛ふいて』が、再び舞台に戻ってきた。今作は、戦中は従軍記者として活躍、戦後は反戦小説を書くようになった作家・林芙美子の凛々しい生涯を描いた音楽評伝劇。初演から芙美子を演じている俳優の大竹しのぶさんに話を聞いた。
「滅びるにはこの日本、あまりにもすばらしすぎる」
伝えることが役者の仕事です。
Q.今作への思いを教えてください。
演出の栗山民也さんと「またやらなくちゃね」と話していたので、今回実現できて本当に嬉しいです。
『放浪記』でベストセラー作家になった林芙美子さんのその後の物語ですが、戦中は、“戦は儲かるという物語”と、その時の流れにのり戦争を美化した芙美子。その間違いに気付き、謝罪することに人生を捧げます。また今も世界中のどこかで戦争が起こっていて、戦争の映像が毎日流れて恐怖を身近に感じる今だからこそ、井上さんが伝えたかったことを、きちんと伝えたいと思っています。
Q.初演は22年前ですね。
この芝居に参加できる喜びに浸っていました。出会えたことに“ありがとう”。それから「言葉で伝えるのが役者の仕事」ということを私なりに理解できた作品でした。
井上さんの言葉は、じんわりと深く心に染みわたる。人の心に言葉を伝えるというのはこういうことか、と。
劇中に「おかえりなさい」という台詞があるのですが、ト書きに「全世界の愛を込めて」と書いてあるんです。戦死したと思われていた人への台詞ですが、「おかえりなさい」にどれだけの愛を込められるか、どう表現したらいいか、勿論今もですが、毎日考えていました。
Q.今回はどんな思いがありますか?
とにかく若い世代に観てほしいですね。劇場に来てくれることを願っています。
人として知っておかなければならないことってあると思うんです。“学ぶ”という堅苦しいことではなく…。その一つが戦争です。
井上さんがある時、芝居を観にきた子どもに「戦争は過去の話じゃない。10年後の日本で起こるかもしれない。自分たちの将来に起こるかもしれない話だ」と仰っていたことがありました。その子たちが高校生になって、また来てくれたのですが、「今ならその言葉の意味がわかる」と話してくれました。井上さんは亡くなった後でしたが、井上さんの芝居の力を感じました。
「むずかしいことをやさしく やさしいことをふかく
ふかいことをゆかいに ゆかいなことをまじめに 書くこと」
このことを徹底したすごい人でした。今ならどんなことを伝えるでしょうね。
撮影.高村直希 文.田中奈都子
◾公演情報
こまつ座第152回公演
『太鼓たたいて笛ふいて』
日時:2024年12月4日(水)〜8日(日)
会場:大阪 新歌舞伎座
作:井上ひさし
演出:栗山民也
出演:大竹しのぶ 高田聖子 近藤公園 土屋佑壱 天野はな 福井晶一 朴勝哲(演奏)
新歌舞伎座公式HP