2024年
6月号

いつも笑顔で! 完璧!感動!感謝! 初夏の空 飛行機雲に 夢乗せて

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全日空 元機長 山形和行さん
「上昇いたしますと、やがて真っ青な空と純白のウエディングドレスの様な雲を敷き詰めて皆様を歓迎いたします!」
「天使のいたずらか?強く揺れることもございますが、飛行の安全にはまっっったく問題ございません」
個性的なアナウンスが人気で、ファンクラブまであり「名物機長」として活躍し、現在は講演活動に力を注いでいる山形和行さんに、喜寿を迎えた翌日にお話をうかがった。

パイロットは健康第一

─無事故で飛行時間2万時間超は素晴らしいですね。
山形 何よりも一緒に仕事をしたスタッフと、ご搭乗頂いたお客様のおかげです。当時の年齢制限の65歳未満まで飛んだのですが、それまで健康でいられたことは誇れるかなと思います。パイロットには半年毎に航空身体検査を受ける義務があり、厳しい検査基準をクリアしないと乗務できませんでしたが、すべて一度の審査で合格しました。

─視力などの検査ですか。
山形 それはもちろんですが、例えば日常会話は問題ないけれどある一定の周波数帯が聞こえない場合は不合格になります。また、脳波や心電図を測定し波長の異状などが出ると乗れなくなる場合もあります。高血圧を薬で抑えている場合も不可ですね。

─健康の秘訣は。
山形 よく外に出たり、テニスをしたりしていましたね。午後遅くの乗務時は午前中に近所のテニススクールに通ってから出社した事もありました。家内に言わせると「好きなことしかしていないからストレスが溜まらない」だから元気なの!(笑)でも、パイロットの生活はあまり健康的ではありません。乗務は早朝もあれば夜遅い時もあり、長距離国際線ですと徹夜や時差もあります。食事も、国内線は弁当が出るのですが、衛生面に配慮してか冷めた揚げ物も多く、42年間に1万食以上食べました。食べる時間帯も不規則で、5分から10分で食べていました。又、自然の放射線を受けることも、特に北回りルートは線量が多く、ニューヨーク線を月2回半飛行すると、年間の被曝量は当時の原子力発電所従事者の約5倍だと言われていました。

─到着してから出発まではどんな感じですか。
山形 国内線ですと、例えばB767の折り返し時間は40分程で、その間にお客様の乗り降り、フライト準備や点検がありほとんど休む暇はなかったですね。長距離国際線ですと2泊4日勤務でしたから、合間に1日自由な日ができ、いろいろな街を訪ねることはできました。

独特なアナウンスの意義

─ユニークなアナウンスはサービスのためですか。
山形 ホスピタリティでもありますが、一番の目的はパニックコントロールです。当時のB747ジャンボジェットは満席で569人でしたが、フライト中にそのうち1人でも倒れたら残りの568人を道連れにして引き返すか、ダイバート(目的地外着陸)になります。私が乗務していた頃、全日空では年間約35万便飛んでいましたが、お客様の都合による引き返し等が50便くらいありました。お客様が「怖い」と思うことで体の不調をきたすことも考えられるので、そういう方を安心させるために離陸前にアナウンスしました。

─パニックコントロール、安全のためなのですね。
山形 日本語と英語と、拙いですけれど現地語でアナウンスすることは、緊急時にお客様が私の声だとわかり、信頼関係を繋ぐという意味もありました。信念を持ってやっていましたが、クレームもありました。

─クレームとは意外です。
山形 当時、ほとんど誰もやっていないタイミングや季節感を取り入れた内容で、長くなったアナウンスに「うるさい」とか「映像の画面が見れない」等で、クレームになりました。前述の様に、一人でも倒れたら定時運航できませんし、万が一の時にアナウンスして、機内のパニックを抑え、二次災害を防ぎ、クレームを頂いたお客様のためにもなると信じていました。実際にキャプテンを32年ほど務めてお客様理由による引き返しやダイバートは一度もありませんでした。もちろん幸運もあったでしょうけれど。

─何よりお客様の安心があったからこそでしょうね。
山形 世界ナンバーワンだと自負しているのは、現役の機長の時にいろいろな方に「飛行機は怖いですか?」と直接訊ねた回数です。1万8千人くらいですかね。そして、その時聞いた不安を取り除く運航をしたのも私が一番だと思っています。例えばB747乗務の時、お客様に「離陸時のトントントンという連続音は何ですか?」と質問されたんです。それは前輪のタイヤが滑走路のライトカバーに接触している音で、まっすぐ走っている証拠なんです。そのように説明するとお客様が「タイヤ壊れませんか?」とおっしゃったんですね。確かに、300キロ以上で踏みつけている訳ですから良くはありません。それからは少しでも不安を取り除こうと、ライトカバーが前輪の2つのタイヤの間に入るようにして離陸するようにしました。技能審査でそれをすると、センターラインとライトカバーが僅かにずれているので「下手だな」と言われましたけど(笑)。

アポロ計画に憧れ空へ

─空への憧れを抱くきっかけは。
山形 私は東大阪市(旧布施市)の出身で、大阪空港へ着陸する飛行機が真上を飛んでいくのを見上げたこともありましたが、一番のきっかけは高校の頃のアポロ計画です。サターンV型という世界最大級のロケットが打ち上げられていました。その時は体調が良くなく不安があったので乗組員はあきらめて、ロケットの打ち上げをやろうと航空工学を志し、国公立大の航空工学部を受験したんですが見事に不合格で受験浪人、その後、体調も良くなり、翌年航空大学校の受験資格が変わって、幸運にも高卒でも受験できて合格しました。

─これまで数々の飛行機を操縦されてきましたが、国産のYS-11はどんな機体でしたか。
山形 車で例えると「小回りの利く良い軽自動車」でしたね。国産機と言えばMRJには期待していましたが、実現せず非常に残念です。

─日本の空港で着陸が難しいのはどこですか。
山形 着陸時の気象条件が一番影響を受けますので、一概に言えませんが、冬の富山空港で、垂れこめた低い雲の下でのサークリング(旋回着陸)かな。滑走路が短いですからプレッシャーがありましたね。

─2030年頃に国際線定期便が神戸空港に乗り入れるそうですが。
山形 3空港が近いので管制は大変でしょうが、余裕があるならどんどん乗り入れれば、より選択肢が増えて良いと思います。これからますますインバウンドも増えていきますから。

好きなことを徹底して

─山形さんの日めくりカレンダーが好評のようですね。
山形 相田みつをさんをプロデュースした方が編集され現在1万部発刊しています。言い訳になりますが、実はここに書いてあることをその通り私は出来ていません。「こうありたい!」という願望です。例えば「近くにある当たり前のものほどよく見えない そこには一番大切なものがある」って載っているんですけれど、家内は「書いてあることと行動していることが違うじゃないの!」って(笑)。

─講演活動のきっかけは。
山形 修学旅行で私が操縦した飛行機に乗った宮崎県の中学校の生徒さんが、旅行中にお世話になった人へお礼の手紙を書いていて、そのうちの何通かが私に届いたのがきっかけです。それに返事を送ったら、生徒さんに話をしてくれないかと依頼があったんです。それから、退職までの約11年間、休日にボランティアで全国の学校へ行き、208回お話させていただきました。

─子どもたちにはどのようなことを伝えていますか。
山形 いま夢を持てない子どもが多いんです。でも、そういう子に「夢を持て」と言っても難しい。だから「誰かにありがとう!と言ってもらえる事をしてみよう」と言ってます。それを続けていると、心に潤いと余裕ができて、きっと夢を見つけることができるでしょう。そして、好きになったことを限界までやってみようとも伝えています。自分の力を信じて限界まで努力すれば、必ず道は拓けますから! 
Good  Luck !!!

山形やまがた 和行かずゆき

1948年大阪府生まれ。
西宮市在住。
1971年に航空大学校を卒業し全日本空輸に入社、1981年から機長に。2013年に退職するまでの総飛行時間は21,323時間(地球約373周)にも及び、しかも無事故で機内での怪我人もゼロ。現在は【夢 実現】未来工房の代表として、夢の実現や危機管理などをテーマにした講演活動を全国各地でおこなっている。著書に『世界一のココロの翼を目指した〝名物機長〟のホスピタリティ』や『空高く―名物機長のつぶやき 日めくり』など。2008年にベスト・ファーザー賞を受賞。

元ANA山形機長
フライトチャンネル
https://www.youtube.com/watch?v=lE-j6LfPSGQ
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