12月号
神大病院の魅力はココだ!Vol.49 神戸大学医学部附属病院 腎臓内科 後藤 俊介先生に聞きました。
体の中で大切な役目を担って働き続けている沈黙の臓器・腎臓。その機能や疾患について、後藤俊介先生にお話を伺いました。
―腎臓にはどんな働きがあるのですか。
よく知られているのが尿を作る働きですが、そのほかにもたくさんの機能があります。主なものの一つは、血液の中の赤血球を作る働きを助ける物質を出しています。腎臓が悪くなると貧血を起こしやすくなります。二つ目は、骨を強くするビタミンDが腎臓に届くと、体の中でちゃんと働けるように手助けをしています。腎臓が悪くなると骨が弱ってしまいます。さらに、血圧のコントロールに関わるホルモンも作って分泌しています。この機能が落ちると心臓や血管に支障が生じます。
―働きが悪くなって慢性腎不全になると、どんな症状が出るのですか。
腎臓は肝臓と同じく「沈黙の臓器」といわれ、何らかの理由で急激に悪くなった場合を除き、基本的に慢性腎不全はかなり進行するまで症状は出ません。尿の見た目にも特に変化が現れることもなく、極端なケースでは尿検査や血液検査で発見されたとき、既に腎臓の機能が1割まで低下した段階だったということもあります。大切な役目を担っている腎臓が悪くなるとさまざまな臓器に影響が出てしまいます。傷んできてもぎりぎりまで頑張っているのでしょうね。
―何が原因で腎臓は傷んでくるのですか。
加齢により使い傷みが生じ、高齢化社会では慢性腎不全の患者さんが増えるのは致し方ないという側面はあります。大きな原因としては生活習慣病の中でも特に糖尿病です。目と神経と腎臓が似たメカニズムで悪くなり、糖尿病の三大合併症と呼ばれています。その中で腎臓は「糖尿病性腎症」などと呼ばれています。
―糖尿病が原因で若い人でも慢性腎不全になるのですか。
若い人の場合は糖尿病が原因というケースはあまりありません。原因として多いのは、免疫がなぜか自分の腎臓を攻撃してしまう病気の一つである慢性糸球体腎炎です。慢性糸球体腎炎の中ではIgA腎症が有名です。これら病気もやはり自覚症状はなく、慢性的に腎臓の働きが悪くなります。
―急激に腎臓の働きが悪くなることもあるのですか。
それほど多くはないのですが、薬剤が合わなかった人が急性腎不全を起こすケースなどを目にすることはあります。また、大手術の後や、肺炎など大きな病気や全身に菌が回る敗血症などが原因で腎臓がダメージを受けることもあります。ダメージの大きさや受けていた期間によっては難しい場合もありますが、原因を除去すればほぼ元の状態に戻すことが可能です。
―急性腎炎というのは、何が原因で急に腎臓が悪くなるのですか。
一般的には、のどの痛みから始まり次第に尿量が減り、むくみが出て、腎臓が傷んでくる溶連菌感染後急性糸球体腎炎と呼ばれる病気で、これもほとんどのケースで回復します。
―慢性腎不全は損なわれた機能を元に戻すことはできないのですか。
ある程度進行を抑えることはできても、残念ながら慢性的に悪くなってきた状態を元に戻すことはできません。機能が落ちてくると、透析や腎移植といった治療が必要です。
―透析はどんな治療法ですか。
尿を作って毒素を体外に排出する機能を持つ腎臓が悪くなると、毒素は体内にたまってしまいます。何らかの方法で外へ出さなくてはいけません。一つは血液透析と呼ばれる方法で、針を刺して1分間に200~250mlの血液を取り出し、機械を通して成分調整をしてから体内に戻します。病院や専門施設に通い、数時間かける必要があります。もう一つの方法が腹膜透析です。お腹の中の腹膜で覆われた空間には、ある程度の量の水が入ります。手術で体の外とつなぐチューブを入れ、それを通してきれいな水を入れておくと、血液から腹膜を通して毒素がしみ出てきます。数時間たって毒素がたまった水を捨てます。自宅で患者さん自身がチューブをつなぎ毎日、繰り返します。
―腹膜透析は患者さんの負担が軽くなるのですね。
通院の必要がなく拘束時間が短くなるというメリットはありますが、効果には個人差があり、腹膜透析で十分に毒素を捨てることができない患者さんもおられます。また、チューブをつなぐ際に万が一、何かの菌がお腹の中に入ってしまうと命に関わることもあります。さらに、お腹の中で重要な役目を果たしている腹膜を使い続けると弱ったり傷んだりして、腸が動かなくなるケースもあります。患者さんには2つの透析方法を提示して、それぞれに合った方法を選択するようにしています。
―腎移植は最後の手段ですか。機能が回復するのですか。
最後の手段というわけではなく、透析が必要な患者さんには腎移植という方法も並行して提示します。しかし移植手術にも問題はあり、他人の腎臓を体に入れて定着させるのですから免疫抑制剤を使わざるを得ません。免疫を抑えてしまうと、どこにでもあるちょっとした菌に感染してしまうことがあるという弊害が出ます。特に高齢の患者さんは免疫力がかなり落ちてしまい、肺炎などを起こすとかえって寿命を縮めてしまうリスクがあります。血管を少し太くする手術が必要な血液透析やお腹にチューブを入れる手術をする腹膜透析に比べると、腎移植のお腹を開ける手術は体の負担もかなり大きく、それを乗り越えられるのかという問題もあります。日本では亡くなった方からの腎臓提供は少なく、多くは生きている方からの提供になります。生きている方からの提供の場合、腎臓を提供した方の健康へのダメージという問題もあります。あらゆることを考え合わせて患者さんと相談しながら治療方法を決めます。
―腎移植や透析などの治療を受ける状態になる前に気付く方法や予防法はありますか。
血液検査のGFR値を見ることです。一般的には数値が60を下回ったら腎臓内科の受診をお勧めしています。ただそれよりも経過が重要で、少しずつ下がっている場合は腎臓内科を受診すべきです。特に60だったGFRが急に50になるといった、急激に下がっていくような場合は注意が必要です。10以下になると透析治療の対象になります。GFR値が基本的な健診に含まれていない場合は、尿検査でたんぱくや潜血反応が出ていたらお医者さんに相談をして詳しい検査を受けてください。予防法としては、生活習慣病の中でも合併症のリスクが高い糖尿病の治療はもちろん、ある程度高い血圧はコントールすることも推奨しています。

後藤先生にしつもん
Q.後藤先生はなぜ医学の道を志されたのですか。
A.子どものころから物事をいろいろと考えるのが好きで、人の体はどうなっているのかなあなどと考えていました。中学、高校と進むうちにお医者さんが自分には向いているかなと思うようになり医学部に進学しました。
Q.腎臓内科を専門にされた理由は?
A.考えることが好きなので、専門は内科と決めていました。 医学部の授業で、腎臓という臓器が体のバランスを整えているということを教えてくださった先生がおられ、面白いなあと思い腎臓内科を選びました。
Q.病院で患者さんに接するにあたって心掛けておられることは?
A.限られた時間の中で、腎臓病の患者さんの悩みをできるだけきちんと聞き出せるように心掛けています。
Q.大学で学生さんを指導するにあたって心掛けておられることは?
A.私に腎臓について教えてくださった先生のように、腎臓内科の魅力を伝えられたらいいのですが、なかなか難しいです。
Q.ご自身の健康法やリフレッシュ法があれば教えてください。
A.10年後、20年後を考えて、そろそろ自分の生活習慣を見直さなくてはいけない年齢です。気にはかけているのですが、今のところ、血圧やGFR値も正常なので大丈夫だと思ってあまり何もしていません。医者の不養生です(笑)。












