10.10
WEB版・スペシャルインタビュー| 女優 菊川怜さん
『15年ぶりの映画復帰の舞台は淡路島…
〝再始動〟に挑む熱き心意気』
15年ぶりに映画の世界へ帰ってきた。「久々に撮影現場に立った感想ですか? 映画の現場は本当に楽しくて、とてもワクワクします。やっぱり私はこの仕事が大好きなのだと思いました」と語る表情は溌溂として朗らか。長いブランクは感じさせない。〝銀幕女優〟の自信あふれる顔に戻っていた。主演映画の復帰の舞台は兵庫県・淡路島。10月10日から全国で一斉に公開される映画『種まく旅人~醪(もろみ)のささやき~』で映画界へカムバックを果たした菊川怜に〝女優再始動〟に懸ける思いを聞いた。
■初の役どころへ〝体当たり〟の挑戦
「これまで、医師や弁護士、学校の先生など様々な役を演じてきましたが、今回は初めて挑む役。それも、ちょっとこれまでとは趣が違って、戸惑いもありました」
こう語る初挑戦となる役とは農林水産省のキャリアだ。
久々の映画出演。それも主演の大役を背負った役作り。「どんな思いで現場に立ったのか?」と問うと、笑顔を弾かせながらこう答えた。
「〝キャリアとして働く女性〟というよりも、〝日本酒をこよなく愛する女性〟という部分を〝一点突破〟で演じてみようと決めました。実は、私も日本酒やワインなど、お酒がとても好きなんです」
伝統的な日本酒造りを続けてきた淡路島の老舗の酒蔵に、農林水産省の地域調査官、神崎理恵(菊川怜)が訪ねてくる。酒蔵の5代目、孝之(金子隼也)は酒造りについて熱心に説明するが、4代目蔵元の松元(升毅)は、東京から、突然やって来た理恵に対し素っ気ない。だが、日本酒好きの理恵は作業着姿に着替え、蔵人のなかへ飛び込んでいく…。
「撮影が始まる前に、日本酒造りのビデオや資料などを見て、その工程などを事前に勉強しました。でも、実際に酒蔵に行って、その製法を目の当たりにして感動しました。直に接する、お米の匂いや食感などはやはり違うなと」
劇中で、理恵が蒸したばかりの米に触れたり、口にする場面などが描かれる。
「あのシーンは特に印象に残っています。何とも言えない良い香りで、蒸したお米はとてもおいしくて…。現場でも特に力を入れて撮影した場面なんですよ」
日本酒造りの行程のなかでも〝肝〟となる重要なシーン。その魅力を映像で伝えるためにも、「〝渾身のカット〟だった」ことを教えてくれた。
この撮影中、篠原哲雄監督の強い思い入れがカメラの横からもひしひしと伝わってきたと言い、「とても印象に残る、私の大好きな場面になりました」とも。
■淡路島での撮影
代々伝わる淡路島の老舗蔵元を借り切っての撮影だった。
「実際の酒造りは冬に行われますが、蔵元を借りるために、映画の撮影が行われたのは昨年の9月です。職人たちが住み込みで働く部屋なども借りての撮影でした」
近年の日本の夏は酷暑が続いている。
「昨年の淡路島も猛暑でした。蒸したお米などを使うので、室内は40度を超えていました」と振り返る。
「撮影スケジュールはびっしりと詰まっていて、撮影の合間も台詞覚えなどに忙しく、ほとんど島内を周ることはできなくて…。ロケ撮影での楽みのひとつが、その土地の郷土料理を食べること。でも、今回の撮影中は3食とも〝ロケ弁当〟という日も多く…」と悔しがった。
ただ、「それでも何とか忙しいスケジュールの合間を縫って、近くの道の駅へ行ったり、地元のお店で郷土料理を味わうこともできました」と笑顔で振り返った。
今作は、2012年から続く「種まく旅人」シリーズの通算5作目となる作品だった。
「映画を通して第一次産業の素晴らしさや豊かさを伝えていきたい」という願いを込めて始まった、現在まで13年続く企画。
1作目『種まく旅人~みのりの茶~』は大分県臼杵市が舞台で、メガホンを執ったのは、このシリーズの発案者であり、ハリウッド俳優などとしても活躍した塩屋俊監督だった。
シリーズ化を構想した塩屋監督による念願の企画が、ようやくスタートするも、公開翌年の2013年、塩屋監督は56歳の若さで急逝する。
■悪役への挑戦も?
「〝日本の食文化の魅力を伝えよう〟という思いから生まれたシリーズ5作目の主演に抜擢されたことは、とても光栄で、その責任の重さも感じています」
そう語る菊川の目に自然と力がこもった。
『種まく旅人』シリーズの続編も気になるところだ。
農林水産省の地域調査官、神崎理恵が〝渡り鳥〟のように、全国の食文化を応援するために、日本各地を旅していく…。
そんな続編はどうでしょうか?
こう向けると、「いいですねえ、チャンスをいただけるのなら、ぜひ、やってみたいですね」と意欲を見せた。
昨年、テレビドラマに8年ぶりに出演を果たし、それに続く15年ぶりの映画主演。
再開した女優業への今後の豊富について聞くと、「依頼があれば、どんな役にも挑戦していきたいと思っています。撮影現場が好きなんです」と語るので、「では、どんな役に挑戦を?」と問うと、「悪役を演じてみたいです」と即答が返ってきた。
「見た目では、そうとは分からないような悪役がいいですね」とニヤリとしたたかな笑みを浮かべながら…。
充電期間を終え、よりたくましさを秘め、「大好きな映画の撮影現場」へ鮮やかに舞い戻ってきた。酒蔵に体当たりで飛び込むヒロインのように。
文・戸津井康之 撮影・黒川勇人

〈 作品情報 〉
『種まく旅人〜醪(もろみ)のささやき〜』
監督:篠原哲雄
出演:菊川怜
金子隼也 清水くるみ 朝井大智
山口いづみ たかお鷹 白石加代子
升毅 永島敏行
製作:北川オフィス
制作プロダクション:エネット
配給:アークエンタテインメント
協力:兵庫県淡路市 千年酒造
© 2025「種まく旅人」北川オフィス
2025年10月11日(土)、元町映画館ほか、全国公開
公式サイト https://tanemaku-tabibito-moromi.com/












