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WEB版・スペシャルインタビュー|俳優・升毅さん
今年、俳優デビュー50年を迎えた升毅が2月、新舞台に挑む。タイトルは『殿様と私』。作・演出は長年の盟友、マキノノゾミ。「格好良くて、笑わせて。シリアスさの中に喜劇がある」と升はマキノ作品とその演出の特長や魅力を語る。タイトル通り、ユル・ブリンナー主演の米ミュージカル映画『王様と私』(1956年)にインスパイア(感化)された内容で、「ユル・ブリンナーはもちろん意識します。映画の中で頑固な王様が格好良く踊るシーンを見て私が感動したように、新たな〝時代劇の日本版『王様と私』〟をお見せできれば」と升は意欲を見せる。
俳優50年目で臨むチャレンジの舞台…
〝10年更新〟の新たな目標
■地方発の舞台
『まつもと市民芸術館』(長野県松本市)の開館20周年を締めくくる自主制作公演「まつもと市民芸術館プロデュース」と銘打つ『殿様と私』は2月13~16日が松本で、28日~3月2日に大阪・近鉄アート館で上演される。
「舞台公演というと、どうしても東京で制作し、地方へそれを持っていって公演する、という形が多いのですが、この公演は独特。俳優たちが松本に長期滞在して稽古し、その舞台を他の街へ持っていって演じる。地方発のこんなスタイルは、俳優として、とても興味があります」と升は語る。
また、「私の演劇のベースは元々は大阪。近鉄アート館は大阪で演劇をしていたときに、とてもお世話になったホールだけに感慨深い」とも。
《明治19年、東京。時代の急激な西洋化についていけない〝殿様〟の白河義晃子爵(升毅)は、ある事件に巻き込まれて激高。時代遅れにも〝討ち入り〟を決意するが、息子に諭されて、討ち入りの代りに、ダンス対決で決着をつけることに。ダンスを覚えるため、義晃は米女性、アンナ(水夏希)の熱血指導で、ダンスの猛特訓を始めるが…》
「実は公演前にダンスの練習はしない。そう決めました。舞台の上で特訓していく中で、だんだんダンスが上達していく殿様の姿を見てほしいですからね」と演技プランの構想を明かす。
時代遅れの殿様という役については、「私自身、ここ10~20年のパソコンや携帯電話など電子機器の進化にはついていけず、興味がない、必要もない、と逃げていただけに、生きる時代が違えど、白河義晃には、とても共感します」と苦笑しながら語る。
■俳優生活50年
東京で生まれ、中学生の頃から大阪で育った。1975年、NHK大阪放送劇団付属研究所に所属し、俳優デビュー。1991年に地元で劇団『MOTHER』を立ち上げ、舞台俳優として活動する一方、関西のテレビ番組などにも出演し、関西地方を中心に活動していた。
「当時、関西の演劇界は活気があって人気劇団も多かったんですよ」と語るように、大阪の『劇団☆新感線』の古田新太、京都の『劇団そとばこまち』の生瀬勝久ら、升と一世代下の若手とのテレビ番組での共演が話題を呼んだ。
1991年から、神戸のラジオ局『Kiss FM KOBE』でDJとしてレギュラーを務めていたが、1995年に阪神・淡路大震災が発生。
「レギュラー出演していたラジオ番組は自然消滅の形で終わってしまって…」と振り返る。
しかし、その年の春。大阪で偶然知り合った東京のテレビ局の社員から、「東京へ出て来ませんか」と声をかけられる。
「震災の年に俳優としての生活が一変したんです」と話すように、1995年、東京へ進出するや全国区の人気俳優へと上り詰めていく。
きっかけは、その年、ゴールデンタイムで放送されたドラマ『沙粧妙子―最後の事件―』(フジ系)への出演だった。ヒロインを演じた浅野温子の恋人役に抜擢されたのだ。
「大阪で声をかけてくれたのはフジテレビの社員だったんですよ」
それから30年…。今や地上波、BSのドラマの再放送などを含め、テレビをつけて、「その顔を見ない日はない」。そんな人気俳優の一人となった。
大阪での俳優生活を含め、キャリア50年を振り返り、「10年ごとに目標を立て、20年、30年、40年…と続けてきたら、50年を迎えていました」としみじみと語る。
■新たな10年へ…
名バイプレーヤー(脇役)として確固たる地位を築いてきたが、映画初主演の切符をつかんだのはデビューから実に41年目だった。
邦画界の重鎮、佐々部清監督が企画した映画で、タイトルは『八重子のハミング』(2016年、山口県で先行上映)。
升演じる中学校校長の石崎誠吾は4度のガン手術を経験しながら、若年性痴呆症を患った元音楽教師の妻(高橋洋子)を看病する…という実話だ。
佐々部監督が映画化を企画するが、スポンサーが見つからず、低予算のため配役が難航した。主演候補の俳優がなかなか決まらないなか、困っている佐々部監督に、「それなら私がやりましょうか?」と名乗り出たのが升だった。
昨年、公開された映画『アイミタガイ』にも、升は重要な役どころで出演しているが、きっかけは佐々部監督だった。
当初は佐々部監督が2017年から映画化を企画。脚本を書き進めるなど準備していたが、2020年に突然亡くなり、企画は頓挫してしまう。だが、コロナが明け、再び企画が動き出し、バトンを受け継いだ草野翔吾監督から、佐々部監督の盟友である升毅に、「せひ出演してくれませんか」と依頼されたのだ。
9年ぶりの主演作『美晴に傘を』が1月24日から公開される。
テーマは家族の再生。升の役は、20年会っていなかった息子を病死で失う父。息子の嫁と孫との関係に戸惑い、葛藤する厳格な父を熱演する。
「この主演が決まったのも、実は佐々部監督の縁なんですよ」
撮影監督の早坂伸は、佐々部監督がメガホンを執った映画『群青色の、とおり道』(2015年)でも撮影監督を務めているが、升はこの作品で初めて佐々部監督と出会ったのだ。
10年ごとに目標を立ててきたという。
今年は70代を迎えるが、目標は?そう問うと、「初めてセルフ・プロデュースでの舞台化に挑戦したいと考えているんですよ」と語る。
そのタイトルを聞くと、「『八重子のハミング』です。一人舞台の朗読劇で、現在、準備を進めています。今年中に公演を実現したい」と新たな目標について教えてくれた。
昨年、2024年の夏。〝60代の挑戦〟として、俳優二人だけによる舞台『SLEUTH/スルース』に臨んだ。
「二人舞台は覚えるセリフの量の多さなど準備が大変でしたが、これをやり遂げることで、一人舞台へ挑む自信をつけることができました」
2025年初の主演舞台『殿様と私』から、〝俳優50年目〟がスタートする。
(文・戸津井康之)
◾公演情報
まつもと市民芸術館プロデュース
『殿様と私』
日時:2025/02/28(金)~03/02(日)≪全4回≫
会場:近鉄アート館
(大阪市阿倍野区阿倍野筋1-1-43 あべのハルカス近鉄本店ウイング館8階)
作・演出:マキノノゾミ
出演:
升毅 水夏希
久保田秀敏 平体まひろ 武居卓
喜多アレクサンダー 水野あや
松村武
詳しくはコチラ
https://www.mpac.jp/event/41182/
■映画情報
『美晴に傘を』
出演:升 毅 田中美里
日髙麻鈴
和田聰宏 宮本凜音 上原剛史 井上薫 阿南健治
脚本・監督: 渋谷 悠
制作プロダクション アイスクライム キアロスクーロ撮影事務所
配給 ギグリーボックス
2025年1月17日(金)より、OSシネマズミント神戸ほか全国公開中!
公式サイトはコチラ
https://miharu-movie.com/
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