2025年
1月号

阪神・淡路大震災30年 新春インタビュー | 阪神・淡路大震災の教訓を生かし、来るべき大災害に備える

カテゴリ:, 医療関係

今年は阪神・淡路大震災から30年の節目を迎える。その一方で昨年は元日に能登半島地震が起こり、8月には日向灘地震が発生し南海トラフ地震臨時情報が発表された。今回は震災の教訓と災害医療について、八田会長にご自身の被災経験を交えながらお話いただいた。

六甲アイランドで被災

─阪神・淡路大震災の被災体験をお話いただけませんか。
八田 当時は六甲アイランドに住んでいまして、縦揺れが激しくかなり揺れました。明るくなって周りを見てみると、液状化現象が起きていて、ガントリークレーンが大きな被害を受けていましたね。

─六甲アイランドは孤立化していたようですが。
八田 その頃は尼崎の病院に勤めていたのですが、六甲大橋に大きな段差ができていて、車は一度停まって斜めに行かないと通れませんでした。六甲ライナーの線路が破損し、阪神高速の湾岸線も倒壊していましたから移動がままならなかったです。震災翌日、対岸の火力発電所が爆発するかも知れないということで、六甲アイランドの南の方へ一時的にみんなで避難しました。

─ライフラインも途絶しました。
八田 とにかく家の電話が繋がらないので、小銭をかき集めて公衆電話へ走りました。電気は来ていましたが、水道が止まっていました。六甲アイランドの街の真ん中に人工の川がありますが、そこまで行ってバケツで水を汲んできてトイレを流したんですよ。食料は、六甲アイランドにはパンやかまぼこなど色々な食品工場があり、出荷できないので住民にということで、色々と助けていただきました。

─勤務先まではどのようにして通いましたか。
八田 子どもが小学生だったということもあり、震災の翌週には妻の実家のある高槻へ避難して、そこから通いました。4月くらいまでしばらくそこで暮らしたのですが、大阪は全く何事もないんです。心配なのでたまに家へ帰ったのですが、その頃は阪神電車が青木まででしたので、青木から歩きました。避難先から戻った頃はJRが住吉まで再開し、六甲ライナーの代替バスも出ていたのですが、六甲アイランドから住吉まで2時間もかかることもあり難儀しました。

DMATとJMATの創設

─当時の兵庫県医師会は、どのように対応していたのですか。
八田 当時は瀬尾摂会長で、まずは会員の安否、医療機関被害状況や診察状況などの情報収集を行いつつ、緊急医療に取り組みました。また、多くの方が犠牲になられましたので、その検死も行いましたが、検死ができる医師が限られており、特に長田区は焼死者が多かったために困難を極め、大変苦労しました。被災地の医療活動については、日本医師会や近畿医師会連合、厚生省(当時)と災害対策本部を設置して対応しましたが、日本医師会に依頼して全国の医師会から助けにきていただきました。

─そのような経験や教訓から、DMAT(災害派遣医療チーム)ができたと聞いていますが。
八田 阪神・淡路大震災では色々な問題が浮かび上がり、特に発災直後の医療救助活動は大きな課題でした。その解決のためには専門の部隊が必要であると、厚生労働省が中心となって2005年にDMATが組織されました。その次の年からDMATの研修や訓練を兵庫県災害医療センターで行い、西日本の拠点として重要な役割を担っています。

─それは阪神・淡路大震災の被災地だからなのですか。
八田 実際に被災体験を持つ会員も多いですし、震災の教訓を実践に生かすには神戸が適していると思います。

─どのような研修を行うのでしょうか。
八田 災害時特有の医療について学びます。災害時はいざ実際に現地でどう動けば良いのか、頭でわかっていてもノウハウがないと難しいのです。被災地では医療器具も限られますので、そのような状況のなかでいかに工夫するかというところも重要です。また、*クラッシュシンドロームへの対処や、トリアージ(治療優先度)も大事になってきます。

─DMATとJMAT(日本医師会災害医療チーム)の違いは。
八田 基本的に、DMATは発災直後の医療対応を担い、JMATは発災の数日後に被災地に入ってDMATの任務を引き継ぎ、現地の医療体制が回復するまでの期間を目途に地域医療を担います。DMATは厚生労働省が統括し、各地の災害拠点病院などに所属しています。JMATは日本医師会の統括のもと、都道府県の医師会ごとに組織されます。現在は発災直後、DMATが入るまでの間に、被災地のJMAT隊員が活動する体制にもなっています。

─JMATも阪神・淡路大震災の教訓から創設されたのですか。
八田 はい。兵庫県が主体となって、日本医師会により結成されました。

困難だった能登地震の救援

─2024年の能登半島地震の時は、DMATやJMATはどう活動しましたか。
八田 最初はDMATが入り、その後全国から来たJMATが活動しました。JMAT兵庫も現地で医療支援を行っています。ただ、阪神・淡路大震災の時は東、西、北から被災地に入ることができたのですが、能登は半島で鉄道も道路も寸断されていて、しかも山々が連なり、交通事情が悪くなかなか半島の先まで行けなかったんですね。我々は最初七尾市に入り、その後穴水町までは行けましたが、その先の輪島市や珠洲市、能登町、門前町までは展開できませんでした。ですから今回、奥能登ではDMATが長く活動せざるを得ませんでした。

─JMAT兵庫はどのようなチーム構成ですか。
八田 メンバーは被災地の状況に合わせて人数や構成を検討します。例えば能登半島地震では医師が2名、薬剤師1名、看護師2名、事務局2名の計7名がチームとなって活動しました。

─JMATに登録している県医師会会員は何名ですか。
八田 2024年11月現在、492名が登録しています。これは全国的にも多い数字です。開業医が多いのが特徴ですが、自身の医療期間にかかっている患者さんのことがあるので、どうしても活動期間が限られてしまうというのが実情です。ですから病院勤務の医師など、長期間活動できる会員をどう増やすかというのが課題です。医師不足でもありますし、なかなか難しい問題ですが、研修など現在進行形で対策を行っています。

─JMAT兵庫のこれまでの主な出動実績は。
八田 能登半島地震のほか東日本大震災、熊本地震、岡山の豪雨災害でも出動しています。被災地には全国のJMATが入ってきますが、JMAT兵庫はその統括業務も求められています。非常に難しい任務ですが、地域の事情に柔軟に対応しながら、阪神・淡路大震災の経験を生かして取り組んでいます。

─被災地の支援活動での課題は何ですか。
八田 まず、公衆衛生面では水の確保です。水道の復旧は電気などより遅れます。トイレ事情にも大きな影響がありますし、手洗いが十分にできないと感染症の拡大に結びつくおそれがあります。また、被災者のメンタルケアも課題です。ですから現在はJMATだけでなく、感染症対策やメンタルケアの専門家のチームが各学会から被災地へ派遣されています。

南海トラフに備える

─2024年は8月にも日向灘地震が発生し、南海トラフ地震臨時情報「巨大地震注意報」が発表されました。県医師会では南海トラフにどう備えていますか。
八田 現在、初動体制からのマニュアルを見直しています。また、2023年の11月には「第26回兵庫県救急・災害医療フォーラム」で「南海トラフ地震に備えて」をテーマにしました。このフォーラムでは危機管理の専門家の講演のほか、兵庫県の担当部署、DMAT、精神科の医師、消防関係者によるシンポジウムも行いました。

─南海トラフの発災時、どのような状況が予想されますか。
八田 死者や傷病者がたくさん発生して医療需要が急増する一方、医療施設の被災やインフラの損壊もあるので、医療機能の著しい低下が予想されます。もちろんそれに対する準備は行っていますが、何が起こるかわからないのが災害です。

─医療施設やインフラがダメージを受けたら、備えていてもやはり限度がありますよね。
八田 そこで兵庫県独自で考えたのが、フェリーや自衛隊の艦船など大型船の活用です。船舶は水も電気もベッドもありますので被災者の受け入れが可能で、病院の役割を果たすことができます。これは先々代の川島龍一会長の発案で、行政にもこのアイデアが受け入れられています。まだ実際に稼働はしていませんが、神戸港で2016年と2023年にフェリーで、高知県でも2023年に自衛隊の艦船で訓練が実施されました。

─医師会が対策するだけでなく、我々県民も防災意識を高めないといけないですね。
八田 その通りで、医師会も県民に向けた啓発活動を積極的に行っています。非常食や水、非常持ち出し品の準備はもちろんのこと、家具の固定などの対策、ハザードマップを確認し、行動などを家族で話し合っておくことも大切です。

─医療に関してはどのような備えをおすすめしますか。
八田 発災直後、医療資源は人命救助に集中するため、命に関わらないけがは自分で処置するしかありませんが、がれきや割れたガラスなどでけがをすることが考えられますので、ガーゼや消毒液、清浄綿、とげ抜きなどは用意しておいた方がよいでしょう。絆創膏は大きなサイズのものがあると便利です。包帯はけがの手当のほか、止血にも使えます。また、持病のある方は常用薬を最低3日分準備しておき、お薬手帳やマイナ保険証も持ち出しましょう。避難所では集団生活になりますので、感染症防止のため、マスクもあるといいですね。

─阪神・淡路大震災から30年の節目を迎える2025年、県医師会はどのようなことに力を入れていきたいですか。
八田 災害医療については、JMATの活動がより長く続けられるように隊員を募るとともに、2024年の能登半島地震の活動の検証を行いましたので、それをフィードバックして体制を強化していきたいと思います。また、今後も市民に向けたフォーラムの開催など、啓発活動にも力を入れていきたいですね。

─災害対策以外では。
八田 医師や診療科の偏在解消に向けた対策を、行政とともに進めていきたいですね。また、財務省と医療界とでは考え方が違っている点もありますが、地域住民のみなさまにとってより良い医療をお届けできるようにしたいです。コロナ対応で公的病院の重要性がはっきりしましたので、採算だけでなく、非常時のことも考慮して検討するべきです。これらの問題は、医療過疎地の災害医療にも繋がります。

能登半島地震でのDMATとJMAT活動の様子




一般社団法人 兵庫県医師会 会長 八田 昌樹さん

1954年、兵庫県明石市生まれ。1973年、私立灘高等学校卒業後、1987年、近畿大学医学部大学院修了。2004年、八田クリニックを尼崎市にて開設。2020年、尼崎市医師会会長に就任。2022年、兵庫県医師会会長、日本医師会理事に就任。専門は外科・肛門科。医学博士。日本大腸肛門病学会専門医、指導医。

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