2025年
1月号

阪神・淡路大震災30年 新春対談 | 「震災30年市民フォーラム」に向けて

カテゴリ:, 医療関係

震災の記憶を風化させずに伝承していく
そして、災害に強いまち神戸の未来へ

対談 俳優 キムラ緑子さん ✕一般社団法人 神戸市医師会会長 堀本 仁士先生

今年は阪神・淡路大震災から30年を迎える。この節目に神戸市医師会は、来たる2月1日に松方ホールで阪神・淡路大震災30年市民フォーラムを開催する。神戸市医師会会長の堀本先生と、フォーラムで朗読をおこなう俳優のキムラ緑子さんに、震災の体験、記憶の伝承、災害への備えなどについて語り合っていただいた。

尋常じゃない揺れを経験

─キムラさんは淡路島のご出身だそうですね。
キムラ はい!食べものが美味しい自慢の島でございます。高校まで洲本にいました。

─神戸の思い出は。

キムラ 親戚のおばちゃんが東灘の甲南本通商店街にいて、子どもの頃はよく行きました。買い物と言えば神戸でしたね。船に乗って、三宮でハンバーガー食べて、遊んで。帰るときはおばちゃんが港まで見送りに来てくれて「蛍の光」聞きながら泣いて帰って(笑)。
堀本 震災の時はどちらに。
キムラ 京都にいたんです。寝ていて、ドンと布団から体が浮く感じで。夫と「いままでの地震とは違うよね?」とすぐテレビをつけたら、その時は京都が震源地だと伝えていたのですが、しばらくしたら神戸と淡路島の被害が大きいと報道されて。慌てて実家に電話したんですけれど、その日は一日繋がらずで。
堀本 ご両親はご無事でしたか。
キムラ 父が先に逃げて庭から「はよ出て来い!」って言われた、と母が言ってました(笑)無事でおります、ありがとうございます。
堀本 私は東灘区の自宅で被災しましたが、キムラさんと同じで突き上げるような揺れを感じました。祖母が近くの医療機関に入院し透析を受けていたんですけれど、透析には水が必要ですが断水になりましたから、母の実家のある兵庫県西脇市で透析ができる病院を探してもらい連れて行きました。そこまで行く道すがら、家が倒壊していたり、墓地の墓石が全部倒れていたり。でも六甲トンネルを越えてしまうとそうでもなく、その違いに愕然としました。あと、高校の同級生の妹さんが婚約中だったんですけれど犠牲になられて、火葬場がいっぱいで姫路まで行ったという話を聞いて、本当に涙が出ましたね。

南海トラフに備えて

─2024年は元日に能登で大きな地震があり、夏には日向灘で発生した地震を受けて南海トラフ地震臨時情報が発表されました。神戸市医師会ではどのような準備をしていますか。

堀本 阪神・淡路大震災当時は、DMAT(災害派遣医療チーム)のようなシステムがなく、救える命も救えなかったんです。現在は南海トラフ地震を想定した災害対処計画が立てられていますが、発災時には自衛隊やDMATは三重県や和歌山県、高知県などに重点的に展開することになっています。ですから発災直後には神戸において外部からの援助が期待できない最悪の事態も想定し、神戸市医師会は自分たちでチームをつくって対応しないといけないだろうと、神戸メディカルチーム、D-Kometの立ち上げを決定し、準備を進めています。
キムラ それはどんな医療チームですか。
堀本 医師・看護師・業務調整員の3名を1つの医療救護チームとして事前に登録し、研修や訓練をおこなって、いざという時にすぐに動けるように備えるというものです。このプロジェクトはちょうど立ち上げたところですが、応急処置のほかトリアージ(治療優先度)の判断、死亡確認などを想定しています。
キムラ 最近はゲリラ豪雨とかありますよね。地震以外の災害時も出動するのですか。
堀本 いまは南海トラフをはじめとする巨大地震を想定していますけれど、状況によって動けるようにしたいですね。でもいきなりは動けないので、そのための訓練は不可欠です。
キムラ これまではそういうシステムがなかったのですか。
堀本 順番がありまして、自衛隊やDMATがまず入って対応し、状態が落ち着いてきたらJMAT(日本医師会災害医療チーム)が引き継ぎ、地元の医療機関が立ち上がるまでの間を繋ぎます。D-Kometは発災直後に動くことを想定しています。
キムラ 初動体制が組織化されていたら、南海トラフが起こった時に全然違いますよね。
堀本 阪神・淡路大震災を経験した医師会としては、何とかお役に立てればという思いです。もちろん、神戸市行政のサポートも必要になってきますので、研修・訓練への協力や衛星を使った通信手段の確保などをお願いしようと考えています。
キムラ 神戸市は災害時の支援体制が進んでいる自治体であってほしいと願っています。能登の地震の直後、神戸の人が真っ先に支援をしたとニュースで知り、自分たちが助けてもらったから、自分たちがどれだけ大変なことかを身をもって知っているから動けるのだなと。神戸が日本で一番、災害対応を引っ張っていく都市であるといいですね。

自分事とする想像力を

─神戸市医師会は「震災30年市民フォーラム」を2月1日に開催しますが。

堀本 30年経ち、震災を知らない世代が増えてきていますので、記憶を風化させずに経験や教訓を伝承していくことがますます重要になってきています。これまでも犠牲者に対する追悼、そして創造的な復興を遂げた神戸への支援に対する感謝を趣旨としつつ、将来起こりうる災害に対しての備えについてもみんなで考えてやっていこうとフォーラムを開催してきましたが、今回は特に若い人への伝承ということも考え、6大学合同混声合唱団や神戸少年少女合唱団にも参加していただくプログラムを企画しています。
キムラ 本当に正しい形で次の世代の人へ伝えていく、そのことをどう捉えて自分は生きていくのか、そしてまた未来に繋げていくのかということは本当に重要なことだと思います。いまの子どもたちは30年前の震災のことは知らなくても、能登のこと、最近の豪雨のことなど、いま地球上で起きているいろいろなことを知っている。でもそのことがいつ自分に降りかかってくるのか?それを具体的に想像して捉える力をどれだけ持つかが大切ですよね。子どもの頃、修学旅行で広島で見た詩、原爆の時に喉が渇いて泥水を飲んだというような詩なんですけれど、それがどういうことなのかを想像して涙が止まらなくなった体験があるのですが、それがいまだに自分の心の中で人の心を想像する力になっていると思っているんですよ。子どもに対し災害の惨状を「えげつないから」と隠すのではなくて、ちゃんと起こった事実をお知らせしないといけないと思います。
堀本 おっしゃる通りで、隠すことなく事実を伝え、自分の身になって考えてもらうことが非常に大事だと思います。

─フォーラムでは、キムラさんが消防士の体験記を朗読されるそうですが。

キムラ 消防士の方がどういう思いでどういう活動をされて、この街をどう守ったのかをしっかり伝えられたらいいなと思います。当日泣いてしまわないよう、あらかじめ何回も読んでおかないといけないですね。

より災害に強い神戸に

─今回、久元市長もフォーラムに参加されますが、災害に強いまちづくりについてのお話が聴けそうですね。

堀本 震災からの30年間、そしていまも、神戸を災害に強いまちとして未来に向かってつくっている過程ですので、ぜひ久元神戸市長にそういうこともお話いただければと思います。
キムラ トップの考えは本当に大切です。
堀本 一方で、災害に強いまちづくりは行政だけでできるものではありません。市民の災害や防災に関する知識、そして日頃からの準備もとても大事です。だから行政任せにするのではなくて、我々ができることもしっかりやって理解する。それが災害に強いまちに繋がるし、神戸がそういうまちになってほしいと思います。
キムラ 神戸は震災からの立ち上がりが早かったですし、市民のみなさんが前を向いていたという印象です。絶対負けないというような。

─最後に、フォーラムに向けてひとこと。

キムラ 必ずまた地震は起きますから、フォーラムでは私も勉強させていただきたいですね。わからないレベルの市民として参加させていただいて、「どうしたらいいの?」という人が「こうすればいいんだ!」ということを実感できる役割になれたらいいかなと思っています。
堀本 フォーラムを通じて災害に関心を持っていただくことが一番大切だと思っています。幅広い世代の方に参加していただいて、みんなで次の災害の対策について考えていきたいですね。



俳優 キムラきむら 緑子みどりこさん

淡路島出身。劇団M.O.P.を経て、舞台、テレビ、映画と幅広いジャンルで活躍中。2011年からNHK Eテレ「グレーテルのかまど」(かまどの声)、2024年NHK連続テレビ小説『おむすび」に出演中。映画「花まんま」2025年4月25日公開予定。

神戸市医師会会長 堀本ほりもと 仁士ひとしさん

1986年大阪医科大学卒業。心臓外科を専門として、市立枚方市民病院や南大阪病院などに勤務の後、ボストンとニューヨークでの海外留学で研鑽を積む。大阪医科大学胸部外科講師を経て、2006年堀本医院を開業。2018年より東灘区医師会長、2022年より現職。日本循環器学会循環器専門医。

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