10月号
WEB版スペシャルインタビュー|新歌舞伎座開場65周年記念
『歌手生活60年 五木ひろし特別公演 坂本冬美特別出演』
五木ひろしさん 坂本冬美さん
日本の歌謡界を牽引する二人の共演が4年ぶりに復活する。その舞台のタイトルは『五木ひろし特別公演 坂本冬美特別出演』。大阪の新歌舞伎座開場65周年記念公演で、座長の五木は「コロナ禍がようやく終わり、久しぶりの長期公演です。いろいろな制約もなくなったので、劇場の魅力を、ぜひ多くの方に楽しんでほしい」と話し、「豪華なお芝居、歌のショーになることを確信しています。一人でも多くの人に来てほしい」と続ける坂本。絶妙な〝師弟コンビ〟の間(ま)で、二人はこう声を揃えた。
いつも最後の覚悟で…久々の共演で挑む新境地の舞台
4年ぶりの共演
新歌舞伎座での二人の公演は2017、2020年に次いで今回で三度目だ。
「4年前の2020年の舞台はコロナ禍の影響で5月の博多座公演が休演になりました。ようやくコロナ禍もおさまり、通常の状態に戻り、久しぶりの長期公演になります」
こう語る五木の表情からは、全国で待ってくれていた大勢の観客を前に、久々に劇場のステージに立てることの喜び、そして舞台に懸ける並々ならぬ強い意気込みが伝わる。
第一部『花のお江戸の快男児 喧嘩安兵衛』の演出は今は亡き三木のり平。
今回の舞台は『三木のり平生誕百年』の記念公演でもある。
「三木先生とは、よく一緒に舞台で仕事をさせていただきました。俳優として一流でしたが、演出も一流。三木先生とコンビを組んでいたのが今回の舞台の脚本家の小野田勇先生。とにかくホン(台本)を書くのが遅くて…。台本ができあがったのが、公演前日ということもありました。でも、遅いほど面白いんですよね」と五木が苦笑しながら語る。
一方、坂本は三木との思い出についてこう振り返る。
「舞台で私の出番が少なかったとき。三木先生が『舞台をはけるときに大声を上げ、着物をたくしあげながら走り去るように』と演出してくれたんです。出番の少ない私が、少しでも目立つようにという、そんな三木先生の優しい配慮だったんです」
また、五木は「森光子さんの『放浪記』を三木先生が演出したときです。それまで恒例だった森さんの〝でんぐり返し三回転〟を三木先生は『一回でいい』と演出を変えたんです。『その代わり一回のでんぐり返しに力を込めて』と言って」と独特なこだわりを持つ〝三木演出〟の秘話を教えてくれた。
33年前の邂逅
『花のお江戸ー』は赤穂浪士がテーマ。四十七士の一人、堀部安兵衛を五木が演じる。
共演者にはベテラン、笹野高史や太川陽介、歌手でもある女優、工藤夕貴や森山愛子ら実力派が名を連ねる。
さらに、「お話は、討ち入りを遡りますこと七年前…」と人気講談師、神田伯山も声で登場するという豪華な布陣だ。
「約20年前に同じ舞台を演じています。このときに共演している笹野さんとは実は同い年。二人とも、当時、まだ50代でした。殺陣などの激しい立ち回りが多く、76歳の今、同じように演じることができるのか?笹野さんと二人で心配しながら、そんな話をしているんですよ」と苦笑しながら五木は語る。
隣りで笑いながら聞いていた坂本がこう続けた。
「五木先輩と舞台で初めて共演させていただいたのは33年前。私はまだ20代でした。いま50代半ばを過ぎて、今回、演じるのがチャキチャキの10代の武家娘役なんですよ。セリフの声のトーンを思い切り高くしようと思っています」
今回の舞台のポスターに、五木のこんな気になるメッセージが綴られている。
「この芝居が最後になるかもしれない…」と。
その意図を聞いてみると、五木は笑いながら、「そんな覚悟で演じないと勤めきれない。そう思って出てきた言葉です。心配しないでください。まだまだ、続けたいと思っていますから」と答えた。
ロングラン公演に臨むために、76歳となった今、これまで以上に体調管理が必要なことを打ち明けた。
舞台での初共演から33年。今では二人とも座長の立場として、舞台の真ん中に立ち、歌謡や芝居の世界を牽引している。
「初共演したとき。坂本冬美さんは『いずれ座長になる人だ』と思いました」と五木は振り返る。
そして、「今回も共演者には彼女しかいないと考えての指名です」と、今では絶大な信頼を寄せていることも明かす。
継承される歌う魂
公演第二部はスペシャルショー。二人の大ヒット曲の数々や新曲などが披露される予定だ。
「何を歌うかは、まだ、決めていませんが、楽しみにしていてほしい」
60年間、幾多の名曲を歌い上げてきた五木のこだわりの選曲に興味がわく。
「歌手として、いつまで歌えるのか…。年齢は関係ないです。声が出る限り、しっかりと歌える限りは、歌い続けたいと思っています」
そんな五木の覚悟を隣りで深くうなずきながら聞いていた坂本は、「五木先輩の歌い手としての思いを、後輩としてしっかりと受けとめ、そして今度は私が後輩たちへ引き継いでいかねばならない。そう思っています」と〝後継者としての覚悟〟を漲らせた。
(文・戸津井康之 撮影・河上良)
公演情報
新歌舞伎座開場65周年記念
『歌手生活60年 五木ひろし特別公演 坂本冬美特別出演』
日時:2024年10月31日(木)〜11月21日(木)
会場:大阪 新歌舞伎座
詳しくはコチラ
https://www.shinkabukiza.co.jp/perf_info/20241031.html