8月号
近代建築の巨匠、フランク・ロイド・ライトを学ぶ|Chapter 3 有機的建築|平尾工務店
平尾工務店がお届けする「オーガニックハウス」の基本的な理念や意匠を編み出した世界的建築家、フランク・ロイド・ライトについて、キーワードごとに綴っていきます。
炭素を含む化合物=有機物を素材にした建物のことではなく、ライトが提唱した建築哲学のことです。ライトは『有機的建築』という著作も発表していますが、ここに明確な定義が記されてないこともあり、その意味についてはさまざまな解釈がなされています。
まず、建築が有機体、つまりひとつの生命体のごとく統一体であるべきだというのが、有機的建築という考えのベースにあるでしょう。
そして、花は大地から立ち上がり、内から外へと成長し、紡がずとも美しい姿を見せます。建築も同様、生活の本質を種子としてその土地に根ざしながら、枝葉が伸びるように構造体を築き、素材の本質を引き出して連続性と秩序を持たせ、建物と一体不可分になった作為のない装飾を生み出し詩のレベルにまで高める。そんな理想を、ライトは有機的建築という言葉で表現したのかもしれません。
また、生命体は自然の一部ですので、周囲の環境や景観に溶け込むことも有機的建築の大きな要素であると考えられます。
ところで、近江八幡のラ コリーナなどで知られる建築家、藤森照信さんの視点が非常に興味深いのでご紹介します。ライトの建築は空間の連続性に基づく流動的な構成、そしてそれらと一体となった装飾が特徴です。ところがミース・ファン・デル・ローエらバウハウス関係やル・コルビュジエなど、ヨーロッパの前衛的な建築家たちはここから装飾の部分を切り離し、ライト的な空間構成を参考に20世紀型の建築スタイルを確立します。ライトはそれらを自分の建築とは異質の「無機的」なものと感じ、自らの建築を「有機的」と対義語で言語化した、とのことです。なるほど、ミースのバルセロナ・パビリオンが1929年、コルビュジエのサヴォア邸が1931年で、ライト著の『有機的建築』は1939年ですから、時代を読み解くとこの藤森さんの見解は合点がいきますね。
FRANK LLOYD WRIGHT
フランク・ロイド・ライト
1867年にアメリカで生まれたフランク・ロイド・ライトは、91歳で亡くなるまでの約70年間、精力的に数々の建築を手がけてきました。日本における彼の作品としては、帝国ホテルやヨドコウ迎賓館、自由学園明日館が有名です。彼が設計した住宅のすばらしさは、建築後100年経っても人が住み続けていることからわかります。
これは、彼が生涯をかけて唱え続けてきた「有機的建築」が、長年を経ても色褪せないことの証明でしょう。フランク・ロイド・ライトが提唱する「有機的建築」は、無機質になりがちな現代において、より人間的な豊かさを提供してくれる建築思想なのです。