6月号
玉岡かおる 文学の碑
『帆神』ゆかりの地・高砂市「十輪寺」に建立
御影石で造られた碑は本を開いた形状で左ページには「帆神 北前船を馳せた男・工楽松右衛門」から抜粋した文字が刻まれている。
時代と運命に翻弄されながら力強く生きた女性たちを取り上げ続けてきた玉岡かおるさんが初めて男性を主人公にした『帆神』。高砂の漁師の息子として生まれ海商となり、画期的な「松右衛門帆」を生み出した人物の生涯にスポットライトを当てた。
物語は十輪寺での葬儀の場面から始まる。この寺の起源は1500年以上昔にさかのぼり、平成大修理で300年ぶりに修理された本堂は兵庫県指定文化財に登録されている。二十歳のころ、初めてこの立派な寺を見たときから「境内に文学碑や句碑がある寺にしたい」という思いを持っていたという西田光衛名誉住職。住職在任中に檀家に嫁いできた玉岡さんと出会い、「若いのにえらいなあ」とその活躍ぶりに感心し、見守ってきた。2022年、「帆神」が新田次郎文学賞と舟橋聖一文学賞をダブル受賞。「この町から世に出た偉い先生に逃げられたらあかん。玉岡さんは戒名を持っておられるし、お家のお墓も十輪寺にあるし…(笑)」と文学碑建立を打診した。「私には過分」と辞退した玉岡さんだったが、西田さんの思いを理解し「お寺に人々が集うきっかけになれば」と快諾するに至った。
昨年、西田さんは骨折して入院療養を余儀なくされたが周りも驚くほどの回復力で退院し、4月20日の除幕式を迎えることができた。木版画で名を知られるが療養後は力及ばず、玉岡さんとの合作で一枚一枚、心を込めて帆船を手描きした色紙を参加者に配り、喜びと感謝の意を伝えた。
玉岡さんは「身に余るお話を頂きプレッシャーに押しつぶされそうでしたが、今日お越しいただいた皆様から勇気を頂き、これからも良い作品を書き続けようと心新たにしております。こんなに立派な碑を建てていただき本当にありがとうございました」と感謝の言葉を述べた。