12月号
誰かの生きる力になるのなら
たった1人のためでもピアノを弾こう|作曲家 ピアニスト 村松 崇継 さん
作曲家
ピアニスト
村松 崇継 さん
映画やドラマの劇伴音楽やアーティストへの楽曲提供などで活躍中の村松崇継さん。
村松さんの音楽を聴いたことがない人はいない!と断言できる、多方面で大忙しの方です。
映画音楽では日本アカデミー賞優秀音楽賞を3度受賞、今年放送されたドラマは『この素晴らしき世界』(フジ)『しずかちゃんとパパ』(NHK)など。現在公開中の映画『火の鳥 エデンの花』では手塚治虫氏の名作に音で色彩を加えています。携わった作品を紹介しきれないのが残念。作り出す音楽と同じく、自然で楽しい村松さんのお話をお届けします。
高校生でアルバムデビュー
音楽大学在学中に映画音楽を担当!
Q.映画音楽の作曲家を目指したのはいつからですか?
『バック・トゥ・ザ・フューチャー』(1985年)を観てからなので、けっこう長い時間、思い続けていました。はじめは、クラスで目立つ存在ではない背の小さい主人公に自分を重ねて、そういう子がカッコよく活躍するストーリーが大好きに。そこから「音楽もかっこいいな」と、“映画音楽”を意識して聴くようになりました。
音楽に集中すると、映画がもっと好きになって。あの頃は名作が次々公開されていて面白かったですね。今では音楽に集中しすぎて、1回目はストーリーが入ってこない(笑)。普通に楽しめなくなったのは悲しい。悩みのひとつです(笑)
Q.初の映画作品は『狗神』(監督:原田眞人)。主演は天海祐希さん、ベルリン国際映画祭でも上映され話題になりました。
角川映画でデビューできたのは、今考えてもすごいことですね。何度かオーディションがあって、ドキドキした期間があったので、決まった時はめちゃくちゃ嬉しかったです。
初めての仕事でしたが、周りは超一流の方々。すごく助けていただきました。ベルリンにも連れて行っていただいて。初の海外だったんです。恵まれていました。まだ何もわかっていない大学生に任せてくださったことに感謝しなければいけませんね。大人になった今、そう思います。
Q.大学生の村松さんが担当することになった経緯は?
音大の作曲科に入ったものの、映画音楽へのルートはなかったんです。クラシックの音楽大学ですし。僕はクラシックにこだわらず楽しい音楽をやりたい、進みたいのは商業音楽の道だと割と早い段階から見えていたので、進路は自分で考えるしかなかった。
高校生の時に作ったソロアルバムと、自分だったらこんなことができると伝えるためのデモ音源を、制作会社とか映画監督に郵送したり、会社の受付まで持って行ったりしました。関係者の手にちゃんと渡るかどうかもわからないのに。大学生の僕には、それしか思いつかなかった(笑)。
ある時、映画プロデューサーの原正人さんから連絡をいただきました。『戦場のメリークリスマス』を手がけた有名な方です。まさか原正人さんに届いたとは!原さんが聴いてくれたんだ!って感激したし、最高の励みになりました。
映画音楽からドラマの
劇伴音楽、アーティストへの楽曲提供へ
Q.NHK連続テレビ小説『天花』(2004年)は26歳での大抜擢でしたね。
青山のライブハウスで演奏していたある晩、スーツ姿の大人が5~6人客席にいて。あきらかに僕のファンではない(笑)。終演後、楽屋にいらして、朝ドラのお話をお聞きしました。詐欺じゃないかと不安になったくらいびっくりしました。映画音楽を聴いて推薦してくださった方がいたんです。運がいいというか…ありがたいお話でした。
その後、“朝ドラ”『だんだん』(2008年)で音楽を担当した際は、竹内まりやさんの作詞で『いのちの歌』を作曲しました。生きることの意味を真剣に考えて作った作品でした。この曲が、ドラマが終了してから多くの方に歌われるようになりました。卒業式や結婚式、老人施設、合唱曲としても。歌が成長するということを初めて経験しました。
出雲が舞台のドラマだったので、作る前にまりやさんと出雲大社に参拝したんです。まりやさんとは「出雲の神様が授けてくれた曲だね」と話しています。
Q.映画ではジブリや海外作品も、他には舞台、ミュージカル、合唱曲など。多方向へ広がりましたね。
いただいたお仕事が繋がっている感じです。
今年担当した『しずかちゃんとパパ』(NHK)もそうですが、成長できる作品に恵まれるというか。人として必要なことは何かを考えさせられています。
出会いにも恵まれています。『氷壁』(2006年 NHK)では、イギリスのボーイ・ソプラノユニットLIBERAに『彼方の光』を歌ってもらうことができました。プロデューサーから“崇高な雪山の景色と光”というテーマをもらっていて。幼少期にしか出ない、彼らの純粋な声で表現したいとお願いしたのです。唯一無二のそのハーモニーが、現在は“火の鳥”も包んでくれています。
Q.公開中のアニメ映画『火の鳥 エデンの花』ですね。手塚治虫さんの作品です。
映画『漁港の肉子ちゃん』(2022年)でお世話になった田中栄子さん(アニメーション制作会社STUDIO4℃代表)が声をかけてくれました。
僕は手塚作品の大ファンなので、このお話をいただいた時もすごく嬉しかった。いつか『スタートレック』『スター・ウォーズ』のような宇宙世界を描きたいと思っていました。初めてのSFファンタジーですが、絵を見ているとイマジネーションが湧いてきて、手塚さんの力を感じました。
現代に生きる僕たちへの、手塚さんからのメッセージ、警告とも言える作品です。「今のままでいいのか」手塚さんは問う。制作した僕たちは「先には希望がある」と信じる。そんな色々な思いをLIBERAが歌う『永遠の絆』に込めました。
神戸は好きな街
お菓子と温泉が大好きです
Q.実は神戸とご縁があるんですよね。
Chesty(神戸発ファッションブランド)とコラボレーションアルバム『Lovely Notes of Life』(2011年)を作りました。“毎日がHappyになれる”というコンセプトで、家族とのティータイム、友だちとのドライブ、1日のはじまりとおわりのひとときなんかを思い描きながら、僕自身もHappyな時間でした。
クミコさんの『しゃくり泣き』の舞台も神戸、かもしれませんね。松本隆さんの作詞で、港を舞台にした、大人の渋い物語。何度も何度も繰り返し読みました。光栄なお仕事でした。
僕、神戸が好きなんです。有馬温泉も好きだし、お菓子も大好き。異人館のある通りとかメリケンパークとか、歩いていても楽しくなる街。好きすぎて、関西で仕事があった時期、神戸のホテルに滞在していました。
Q.今年のコンサートツアー、12月は大阪公演です。作曲のお仕事との同時進行、お忙しいのでは?
忙しいです(笑)。
望んでいた仕事をいただけるようになって幸せですが、コンサートは僕にとって必要な時間です。原点回帰というか。
音楽を始めた頃、1人で曲を作り音楽を表現する手段はピアノだけでした。現在は歌手や演出家さんがいて、いろんな楽器を使って、いろんな編成で作ります。多くの方の希望や意見があって、言わばチームワーク。“音楽を表現する”という意味では変わらないけれど、ある時、この仕事だけを繰り返していたら、自分自身の音楽がわからなくなるんじゃないかと不安になって。だから自分の軸とか感性を保つためでもあると思います。
それに、僕の音楽を好きで聴きにきてくれている昔からのお客さんがいて、僕も昔と変わらない気持ちで弾く。その時間はシンプルに幸せ。
先ほどお話しした『Lovely Notes of Life』から『笑顔こそ最高のジュエリー』、リクエストの多い『いのちの歌』も弾きます。あとは…考えるだけで楽しみになってきますね。僕が1番楽しみかも。
Q.これから作りたい音楽は?
今すごく作りたいのはフィギュア・スケートの曲。大好きなので(笑)。今は既存の曲を使っていますけれど、それってオリジナルでもいいんじゃないかと思うんです。僕が一緒に作りたいなと思っています。
それから、オペラはいつか作りたいです。他にもまだまだ。うん、本当にまだまだありますね(笑)
ある日、演奏後に「明日がんばれる気がする」って言われたことがあって。僕の音楽が人の心を救うことができるのなら、たった1人のためでも僕は弾きたいと思った。一生懸命音楽を作って弾くことが僕の使命だと思っています。
作曲家
ピアニスト
村松 崇継 さん
プロフィール
1978年生まれ。静岡県浜松市出身。国立音楽大学作曲学科卒業。高校在学中にオリジナルのピアノ・ソロ・アルバムでデビュー、大学在学中の2001年に角川映画『狗神』を担当したことを皮切りに、これまで数多くの映画、TVドラマ、舞台、ミュージカル等の音楽を手掛ける。映画『64-ロクヨン-前編』『8年越しの花嫁 奇跡の実話』では日本アカデミー賞優秀音楽賞を2年連続受賞、その後『護られなかった者たちへ』で3度目の日本アカデミー賞優秀音楽賞を受賞。アーティストへの楽曲提供は多岐に渡り、竹内まりやが作詞を担当した『いのちの歌』、リベラ『彼方の光』、手嶌葵『ただいま』など。アニメーション作品は、スタジオジブリ『思い出のマーニー』をはじめ、『メアリと魔女の花』『夜明け告げるルーのうた』『漁港の肉子ちゃん』など。初の海外作品『長安十二時辰』は現在、優酷で配信中。2023年はNetflix映画『クレイジークルーズ』、アニメ映画『火の鳥 エデンの花』、第90回NHK全国学校音楽コンクール小学校の部課題曲『緑の虎』の作曲や、山内惠介『こころ万華鏡』、工藤静香『勇者の旗』の楽曲提供など、幅広く活動している。
text.田中奈都子