4月号
神大病院の魅力はココだ!Vol.53 神戸大学医学部附属病院 感染症内科 海老澤 馨先生に聞きました。に聞きました。
コロナ禍で身近に怖さを感じた感染症ですが、一旦収束して忘れかけています。感染症の現状、ワクチンや予防のことなど、海老澤馨先生にお話を伺いました。
―感染症とは?
ウイルスや細菌、いわゆるカビである真菌、結核菌に代表される抗酸菌、その他にも寄生虫などといった、微生物が人間の体の中に入り込み、何らかの症状が出ている状態が一般的には感染症と言われています。
―それぞれどのような違いがあるのですか。
一つは、大きさが違います。寄生虫は肉眼で見えることも多いですし、細菌や真菌などは顕微鏡で見ることができ、ウイルスは非常に小さくて電子顕微鏡レベルでしか見ることはできません。その他、構造や生物学的な違いもあり、単独では生きていけないウイルスは人間の体内のような細胞の中で増殖し、細菌や真菌は置かれた環境の中で増えていきます。
―どういった感染経路があるのですか。
空気感染、飛沫感染、接触感染の3つの経路があります。結核菌のように乾燥した状態で空気の中を漂い、同じ部屋にいたり、すれ違ったりする程度でも感染するのが空気感染です。同じく空気感染の、麻疹︵はしか)ウイルスは1人から25人に感染させると言われる感染力の強い感染症で、優れたワクチンが開発されていますので、2回接種が推奨されています。一方、まわりの水分などの重さで落ちてしまい、距離を取ると感染しないと言われているのが飛沫感染です。ただし、この2つがクリアカットに分かれているわけではなく、ある程度の距離は取っていてもエアロゾルと呼ばれる小さな粒子が届き感染してしまうケースもあります。接触感染は感染者との接触や触れたものを介して細菌やウイルスが他の人へと伝播するケースです。
―感染症は全て人から人へと伝染するのですか。
伝染するものとそうでないものがあります。人間の体の中にいくつもの菌が常在しており、免疫力がうまく働いてバランスを取っていますが、膀胱炎や腎盂腎炎といった尿路感染症や、胆管炎や胆嚢炎のようにバランスが崩れて症状が出る感染症があります。これらは近くにいる人に感染することはありません。また、たとえ膀胱の中に菌がいても、膀胱炎や腎盂腎炎を起こすことがない「無症候性細菌尿」のような場合はほとんどのケースで治療の必要はありません。
―帯状疱疹もその一種ですか。
自分の持つウイルスで起きる、感染症の中でも特殊な例です。子どものころに罹った水疱瘡のウイルスは排除されず、神経節に残り、普段は自身の免疫力で抑制しています。抗がん剤や免疫抑制剤を使っている方や、高齢者、若い人でも疲れやストレスが原因で抗体が働きにくくなると、ウイルスが元気になって暴れ出します。左右どちらか1箇所の神経節から、その神経が支配する場所へと帯状に広がります。通常は2週間程度で治まるのですが、神経細胞の傷みがひどくて年単位で痛みが残ってしまう場合や、免疫力がかなり落ちているとあちこちの神経節から同じことが起きるケースもあります。帯状疱疹も優れたワクチンが開発されていますので、接種が推奨されています。
―ご専門のHIVはエイズを発症するウイルスですか。
日本における定義では、HIVに感染して、23種類ある特有の感染症を起こしている場合を「エイズ」と呼びます。感染して症状が出ていない段階で治療を始めればエイズにはなりません。感染に気付かず、進行してから免疫力が落ちて何かの感染症を発症してエイズと診断されるケースもあれば、そこまで進行する前に梅毒などの感染症をきっかけに検査をして感染がわかることもあります。
―エイズの治療法は進歩しているのですか。
かなり確立されています。薬が開発された当初は冷蔵庫に保管し、何十錠も飲む必要がありましたが、今では1日1回、1錠の薬を飲むだけで、感染していない人と同じような生活が送れるようになっています。
―近い将来、HIVは撲滅されるのでしょうか?
結核、マラリアと並び、HIVは世界の三大感染症に数えられています。撲滅に向けてさまざまな対策は取られていますが、まだそこに至っていないのが現状です。
―感染症を日本の水際で食い止めるには?
一つは持ち込ませないこと。結核については2025年3月からベトナム、フィリピンからの長期滞在者に対して非発病証明書の提出が義務づけられました。もう一つは、渡航先の国にどんな病気があるのかを調べて、A型肝炎や腸チフス、狂犬病など必要なワクチン接種をして持ち帰らないようにすることです。
―感染症の治療は対象になる細菌次第で決まるのですか。
原因となっている細菌を採取して培養検査をし、一番よく効く抗菌薬を選びます。ただし、重症で緊急を要する場合は、まずある程度予測して抗菌薬を投与します。
―菌が見つからず、感染症ではないケースもあるのですか。
発熱や腫れなどの症状で、他の医療機関や診療科で原因が分からない患者さんが紹介されて来られると、既往歴や診察を基に可能性のある感染症を挙げて検査をします。感染症ではなかった場合でも、どんな病気の可能性があるのかを判断して検査をしたり、専門の診療科を紹介したりします。ですから感染症専門医は幅広い知識を持って診療に当たらなくてはいけません。
―抗菌薬が効かない菌が増えているのはなぜですか。
適切な診断を受けることなく、必要のない抗菌薬を服用すると、それらが効かない菌たちが元気になって「耐性菌」が生まれてきます。尿路感染症や百日咳、マイコプラズマ肺炎などで、既存の薬が効かない症例が出てきていますが、新たな抗菌薬の開発が追いついていません。例えば、ほとんどのかぜには特効薬はなく、インフルエンザに効くのも抗ウイルス薬ですから、抗菌薬を服用しても効かないうえに、副作用のリスクを背負うかもしれません。また、将来、何らかの感染症に罹ったとしても抗菌薬が効かなくなるリスクもあるかもしれません。
―感染症予防に大事なのは、義務付けられたワクチン接種ですか。
国や自治体が根拠を持って推奨しているワクチンはありますが、接種が義務付けられているワクチンはありません。それでも、少なくとも、法律に基づいて自治体が主体となって行う定期接種は受けられたほうが良いと思います。また、1968年に定期接種に導入された破傷風ワクチンは、それ以前に生まれた人は接種しておらず、さらに接種した世代でも時間とともに効果が薄れる傾向があり、接種を検討されても良いかと思います。そして、手洗いやマスク着用、日頃からの健康管理は予防の基本です。

海老澤先生にしつもん
Q. 海老澤先生は、なぜ医学の道を志し、感染症内科を専門にされたのですか。
A.祖父が感染症の専門医でしたので、子どものころから医療や感染症を身近に感じて、人の役に立てる仕事だなと思っていました。実は高校生のころは、宇宙飛行士になる夢もあり悩んだのですが、外側の宇宙ではなく、体の中という内側の宇宙を専門にしようと決めました。
Q. 学生さんや後進の先生方に接するにあたって心掛けておられることは?
A.例えば「この抗菌薬を使います」と結論だけを話すと、思考がパターン化してしまいます。その判断に至るには、他のどんな選択肢をどんな理由で除外してきたかなど、プロセスをできるだけ共有するようにしています。
Q. 患者さんに接するにあたって心掛けておられることは?
A.心理的、物理的に患者さんと同じ目線でお話ししようと心掛けています。大学病院ですので重症の患者さんを診るケースも多く「もし逆の立場だったら」と考えたとき、突然、医者が来て体を触られたり持ち上げられたりしたら、怖いと思うんです。たとえ患者さんの意識がなくても、目を開けていなくても、必ず声を掛けながら診察するようにしています。
Q. ご自身の健康法やリフレッシュ法があれば教えてください。
A.空や星、花火の写真を撮りに行くのがリフレッシュになっています。近場では三重や和歌山方面、遠いところだとアイスランドへオーロラも撮りに行きました。夕方から夜にかけての空が好きで、日暮れ前から準備をして、夜中じゅう夢中になって撮っていることもあり、健康には良いのかどうか?疲れ過ぎないように気を付けなくてはいけませんね(笑)。












