2026年
3月号
『武蔵と小次郎』 1941年 作家蔵 5歳の時に絵本「宮本武蔵」の挿絵、巌流島の決闘シーンを模写した作品

神戸で始まって 神戸で終る 69 横尾忠則が考えるアートとAI クリエイターの危機

カテゴリ:文化人, 現代美術

友人のグラフィックデザイナー、田島照久君がある日やってきて、AIによって制作したグラフィック作品を見せてくれました。コラージュ作品だったが、この作品を見ているだけでは、AIがどのように関与したのかわかりませんでした。
AIに指示を与える時は言葉で伝えるというが、と言われても、普段からスマホを使用しない僕にはその意味が全くわからないので、「僕が5歳の時に描いた、宮本武蔵と佐々木小次郎が巌流島で決闘している絵があるけれど、この5歳の子どもの絵のようなタッチで、例えば、東京の街の風景は描けるのかな?」と彼に要求しました。
彼は、僕の5歳の時の絵をまずAIに見せて、東京の風景を描かせました。東京の風景は、AIが選択しました。AIがモデルにしたのは、隅田川に架かった橋の風景で、まるで東京の観光絵葉書のような風景をスケッチ風に描きました。確かに子どもが描いたようなたどたどしい線画に彩色した絵ですが、全体の構図は写真のように正確で、ただタッチだけがなんとなく子どもっぽい稚拙な線で描かれています。大人と子どもの共作のようで、絵としては全く非魅力的なものでした。
たぶんAIに対しての指示が不正確だったらしく、そのぎこちない指示をそのままAIが理解したらしく、それはやはり、指示を与える側の人間に問題があることがわかりました。線には、確かに子どものぎこちなさが表れていますが、本来子どものもつ純粋、無垢、無邪気で素朴という精神は、全く表せていません。完全にちぐはぐなぎこちない絵です。
ここまででわかったのは、AIは人間の指示の仕方によってどうにでもなるということです。そして人間が描く(または作る)制作時間など比較にならないスピードで描いてきます。一瞬で描きます。
田島君は、映像によるAI作品も見せてくれました。その映像というのは、ゴジラが東京駅を襲うという指示によるものです。画面には、まるで映画のようにゴジラが東京駅を次々と破壊して、多くの人達が逃げまどうシーンが映っていました。まるでゴジラ映画そのものです。このようにAIはどんな情景でも作ることができます。
この間、ニューヨークから来た有名な画家のKAWSが、やはりニューヨーク在住の画家、デビット・サーレがAIを使って制作したという作品を数点見せてくれました。従来のサーレの作品とはかなり変わったコラージュ作品です。AIによってコラージュした作品を大きいキャンバスに拡大してプリントしたものを、油彩で塗り絵のようになぞって、如何にも油絵を描いたように見せたものです。それが、全くひどい出来の作品で、彼の今までの作品とは比較にならない駄作でした。
こんな風に現代美術の中にも、AIが侵入してきていますが、AI作品は結果が目的のため、そのプロセスは全く見えません。普通、画家が絵を描く楽しみは、試行錯誤するそのプロセスにあるのですが、結果だけを目的にしてしまうと、画家がどのようにAIを利用して作品を作ったのかが全く見えてきません。
画家にとって、絵の制作の醍醐味はやはり制作中のプロセスの快感ですが、AIはその部分を省略していきなり結果を提示してくるので、観る側の人間にとっては、AIが描いたものか人間が描いたものかが非常にわかりにくいと思います。
文学の方でも、最近はAIによって書かれた小説が出てきていると聞きますが、作家が明らかにしなければ、AI小説か、そうでないかは全くわかりません。やがて芸術も文学もその制作方法はどうでもよく、出来上がったものが面白ければいいということになってくると思いますが、すでにAI作品は世界中を駆け巡っているのかもしれません。
フェイクを比較的平気で受け入れる中国でのAIの使用人口は80%だといいます。アメリカが60%、日本はたった20%です。ですが、ここ1、2年で世界中はAI抜きでは生活できない時代になると思います。AIを否定するしないにかかわらず、すでにわれわれは、AIと共存した生活を始めているのかもしれません。
AIに仕事を奪われたテレビ関係の音楽家や、企業に関わるデザイナーやイラストレーターは、現在、「必要がなくなった」「AIで作ります」と言われるといいます。失業したクリエイターがどんどん増えているといいます。映画の素人が映画を作って、評判になっているとも聞きます。とにかく、クリエイターにとって危機の時代になってしまいました。

『武蔵と小次郎』 1941年 作家蔵
5歳の時に絵本「宮本武蔵」の挿絵、巌流島の決闘シーンを模写した作品

ABCは筆者が5歳の時に描いた『武蔵と小次郎』(同ページ上部に画像を掲載)を元にして
AIが制作した画像

筆者の友人、田島照久氏が制作したAI作品

田島氏によるAI動画作品よりゴジラが東京駅を襲う映像のワンシーン

撮影:横浪 修

美術家 横尾 忠則

1936年兵庫県生まれ。ニューヨーク近代美術館、パリのカルティエ財団現代美術館など世界各国で個展を開催。旭日小綬章、朝日賞、高松宮殿下記念世界文化賞、東京都名誉都民顕彰、日本芸術院会員。著書に小説『ぶるうらんど』(泉鏡花文学賞)、『言葉を離れる』(講談社エッセイ賞)、小説『原郷の森』ほか多数。2023年文化功労者に選ばれる。

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