10.21
WEB版・スペシャルインタビュー|俳優 風間杜夫さん
重鎮俳優が挑む〝1人5役〟…
舞台から放つ〝圧倒的な存在感〟の秘密とは
映画『蒲田行進曲』では〝破天荒な銀幕スター〟を、ドラマ『スチュワーデス物語』では〝熱血教官〟と、強烈な個性を放つキャラクターを演じ続けてきた。8歳で子役としてデビュー以来、俳優業は長い。「中学・高校・浪人時代の7年間以外は俳優をしていますね」と、76歳とは思えない迫力ある低音の声で豪快に笑う。11月7、8日、大阪・サンケイブリーゼホールで上演される舞台「『大誘拐』~四人で大スペクタクル~」を間近に控えた演劇界の重鎮、風間杜夫に〝俳優一筋の矜持〟を聞いた。
■4人で挑む〝27役〟
舞台に立つのは4人の俳優のみ。
「約2時間の舞台ですが、4人で27役を演じ分けるんですよ」
そう笑顔で説明すると、「私ですか?まず県警本部長、途中で誘拐犯の一人になり、さらにお寺の坊主など5つの役を演じます」と淡々と続けた。
風間が演じる役の説明を聞いているだけで、舞台の情景が目に浮かび、引き込まれていく。
「誘拐事件を追う県警本部長と、追われる誘拐犯を瞬時に切り替えて演じるんですよ…」と〝難役〟のはずの役づくりをいかにも楽しそうに話す。生粋の舞台俳優なのだ。
『大誘拐』の原作は1978年に作家、天藤真が発表した同名の人気小説。
刑務所の雑居房で知り合った戸並健次(中山優馬)ら3人は、出所後、紀州随一の大富豪、柳川家当主、とし子(白石加代子)の誘拐を計画。ある夏の日、とし子が誘拐されると、とし子を恩人と慕う県警本部長、井狩大五郎(風間杜夫)が捜査に乗り出す。一方、誘拐犯から「身代金の要求額は5千万円」と聞いたとし子は激高。「百億にしろ」と命じ3人を従え、身代金強奪の指揮を執り始める。元家政婦、中村くら(柴田理恵)宅をアジトにして、前代未聞の大誘拐劇が繰り広げられる…。
同小説は、1991年には名匠、岡本喜八監督よって映画化された。
「とし子役は北林谷栄さん、県警本部長役は緒形拳さん、元家政婦役は樹木希林さん、という豪華な配役でした。緒形さんを意識するか? いえ、映画と舞台は別物ですからね」と、あくまで舞台で演じる〝大五郎像〟の構想を練り、頭のなかで反芻しているようだった。
この『大誘拐』の舞台は昨年が初演。同じ4人のメンバーで全国13カ所を周って公演している。
「各地で大好評だったため、すぐに再演が決まったんですよ」と言う。
■演技のエネルギーの源泉
昨年、芸能界の〝謝罪会見〟をテーマにした異色の舞台『ハザカイキ』に出演した。
アイドルグループ「SUPER EIGHT」の丸山隆平が芸能記者を、彼に熱愛現場をスクープされるアイドルを恒松祐里が、アイドルの父、そして元人気俳優で現在は娘の所属事務所の社長役を風間が演じた。
第二幕で舞台は会見場と化す。娘の謝罪会見中、後ろで見守る風間はずっと泣いていた…。
筆者はこの舞台の大阪公演を観劇したが、風間の演技を見ていて素直にこう驚いた。
「これが本当に70代の俳優の演技なのか?」と。
丸山や恒松など若い共演陣の中にあり〝最年長の重鎮〟が舞台に立った瞬間の迫力、客席後方のどこまでも届く張りのある声…。
「これが長年、舞台で鍛え上げられた俳優のみが身にまとう圧倒的な存在感、凄みなのか」と、思い知られた気がした。
この舞台の関係者に聞くと、風間は「すべての公演中、本当に涙を流しながら娘の謝罪会見を聞いていた」と教えてくれた。
この舞台について、いつか風間本人に確認したいと思っていた。
「演じていると、毎回、本当に父親の気持ちになってくるんです。泣きながら謝罪する娘を見ていると、つらくて本当に涙がこみ上げてくるんです。ごく自然に…」
こらえきれなくなり、大粒の涙を流す風間の悲しみで、もがき苦しむ姿は演技という領域を超え、見るものの心に突き刺さるようだった。
この舞台で風間と初めて共演した俳優、勝地涼は、風間についてこうコメントしている。
「あの瞬発力、立っているだけで漂う色気、そして狂気、演劇の神様…」という言葉で敬意を表して。
■生涯現役
この日の取材は、東京で上演中の別の舞台の休演日に急遽、来阪して行われた。
「休演日なのに、まったく休めないですね」と問うと、「いえ、休みは必要ありません。忙しい方が、体調がはるかにいいですから」と笑い飛ばし、こう続けた。
「夜には東京へ戻ります。明日も昼から公演がありますからね」
22歳で演劇仲間と「表現劇場」を旗揚げし、人気が大ブレークしたのは、その約10年後だった。
深作欣二監督の映画『蒲田行進曲』では〝銀ちゃん〟こと人気俳優、銀四郎を熱演し、大映ドラマ『スチュワーデス物語』では、当時の人気アイドル、堀ちえみ演じるCA訓練生を厳しく育てる担当教官役の熱い演技で一躍注目された。
「その当時は連日、テレビ雑誌の表紙などを飾りましてね。〝34歳のアイドル〟だったんです」と照れながら振り返る。
多忙な俳優業の一方、48歳から毎年、落語で 高座にも上がり続けている。
「舞台で落語家を演じたんです。このとき、落語を学んだのですが、実は昔から落語が大好きだったんですよ」と語る。
また、同年からひとり芝居にも挑み続けている。
ひとり芝居に落語…。このライフワークに28年、取り組み続けてきた。
来年、「表現劇場」の創設から55年という節目を迎える。
8歳で子役デビューし、俳優としてのキャリアは実に60年に及ぶ。
演劇界のベテランとなった今、同じ舞台に立つのは中山優馬や丸山隆平、安田章大ら〝アイドル〟たち。そんな機会が増えてきた。
「若い彼らと共演していると、こちらも刺激を受けるんです。若い観客も増え、チケットも即ソールドアウトになりますしね」と、近年の舞台人気の復活を喜び、実感するように、ニヤリと笑った。
長いキャリア。「まだ、演じていないのは宝塚歌劇と歌舞伎ぐらいですかね」と笑顔で語るが、その視線の先には〝日本の演劇界の未来〟をまだまだ背負っていく…。そんな強い覚悟が見えた。
文=戸津井康之
【 公演情報 】
『大誘拐』〜四人で大スペクタクル〜
大阪公演
日時:11月7日(金)8日(土)
会場:サンケイホールブリーゼ
原作:「大誘拐」天藤真(創元推理文庫刊)
上演台本・演出:笹部博司
出演:中山優馬 柴田理恵 風間杜夫 白石加代子
ステージング:小野寺修二
オフィシャルサイトhttps://daiyukai.com/














