6月号
ベトナム元気X躍動するアジア 第18回|ディエンビエンフーを訪問―ベトナム企業の新たな論点
本年四月三〇日はベトナム南部開放五〇周年記念日となり、ホーチミン市では盛大な式典が開催されました。ベトナム独立の近代史を振り返れば、フランス軍に勝利した北部ディエンビエンフーの戦跡に注目です。漫画家・西島大介さんが同名のコミックを出版。未訪問のベトナム人も多いのですが、ぜひベトナムや日本の若者に同地を訪問して頂きたいと思います。
文・ 上田義朗
フランス軍が降伏した塹壕
ハノイから1時間弱の空路でディエンビエンフーに到着。市の人口は一〇万人を超えているが、空港を中心にタクシーや徒歩で主な観光地を数日で訪問できる。写真のように、フランス軍の司令官が一九五四年五月七日に降伏した塹壕が屋根付きで保存されている。同様の戦跡では南部クチのトンネルが有名だが、それに比べてフランス人の体格に合わせた大きな構造である。

タイ族のレストランでラオス料理
市内では歴史博物館が必見。著作権のために写真掲載しないが、円形の壁面に当時の戦闘の様子が微細に描写されている。またラオス国境に近く、タイ族のラオス料理が楽しめる。ベトナムにいながらラオスの雰囲気を楽しめる。多民族国家ならではのお得な気分になる。

温泉リゾートで貸し切り入浴
タクシーで一五分ほどの郊外に温泉リゾートホテルがある。プールや釣り堀も併設。一泊で三千円からで日帰りもできる。泉質は柔らかい肌触りの掛け流し。成分表示があれば、もっと注目されるにちがいない。露天風呂は水着着用だが、写真は個室で貸し切り。一時間で八〇〇円/人ほど。清潔感もあり、十分に贅沢な気分でリラックスできる。

官民連携の都市開発「ビンコムメガモール」
市内には東南アジア最大級の財閥ビングループ傘下のビンコムメガモールがある。ビンファスト社製のEVタクシーも走り、その整備工場や高級住宅棟も併設されている。現状は短期的に赤字だが、その意義は商業インフラの整備と高度化の政府施策を民間企業が補完するためと考えられる。またビンとしては長期的な先行投資と考えれば合理性がないとは言えない。
ビングループとベトナム政府との緊密な関係は、政府の産業政策の実行部隊がビングループとみなされる。たとえば日本では公団住宅で住宅の近代化が進んだが、ベトナムでは中流以上の住宅需要をビンホームが引き受けている。


新たな論点―政府と企業の関係
「市場経済国」を自認するベトナム政府にとって強大な国営企業の存在はありえない。他方、戦前日本の三井・住友・三菱や三星・現代のような「財閥」の放任も「社会主義」を指向するとすれば首肯できない。ベトナム政府とビングループの関係は、企業研究の新たな論点になりうるかもしれない。
上田義朗(うえだ よしあき)
流通科学大学名誉教授
日本ベトナム経済交流センター副理事長
外国人材雇用適性化推進協会(ASEO)代表理事
合同会社TET代表社員・CEO












