9月号
風に吹かれた手紙のように|松本 隆|~京都から・前編~
喫茶店で話すラジオ番組みたいな2人のおしゃべり。
ラジオを聴くように読んでほしい。
meme 先日の番組で「風」をテーマにしたんです。この季節の風といえば、はっぴいえんどの『夏なんです』。曲をかける前にこんな話をしました。
~原稿を読む~
夏の朝の風って不思議です。少し湿っていて、土の匂いや蝉の声を連れてくる。どこか懐かしさを含んだ夏の風。夏の風の記憶を音にしたような曲です。坂をのぼる気怠さ。口を聞くのも億劫な静けさ。蝉の声と、ただ流れる時間。何かを連れてくる風ではない。なんでもない風。そのなんでもなさが心に沁みる。日本語でしか描けない夏の情景、言葉にならない気持ちがそっと含まれた曲。
松 本 すばらしい。ありがとう。そんなふうに話してくれるのはうれしい。
meme 『ペパーミント・ブルー』もかけたんですよ。雰囲気は全然違うけど、この曲も風ですね。
松 本 いい曲だよね。あれはマウイ島。場所は違うけど、同じ夏の風だね。
meme 風といえば、作詞活動55周年記念コンサート『風街ぽえてぃっく2025』が今月ですね。タイトルは松本さんがお考えに?
松 本 そう、ひらがなで「ぽえてぃっく」。コンサートは、50周年が最後だとみんなが思っていたと思う。武道館の2days、すごくよかったし。でも僕がまだ元気だから(笑)。それで55周年も祝おうっていう話になったみたい。ありがたいと思ってます。
前回は、はっぴいえんどの松本にスポットを当てたから、今回は作詞家の松本にスポット当てた企画。だから、ぽえてぃっく。
meme 第一夜「風編」、第二夜「街編」。すばらしいアーティストの方々が松本さんの歌詞を歌いますね。
松 本 今回は、“歌い継ぐ”というテーマがあって…。歌のバトンを次の世代に渡していきたいなって思ってる。いい曲がいっぱいあるから。
meme 若いアーティストが昭和の曲を好んで歌ってますよね。『風をあつめて』なんかは、とっくに国境を越えてますし。
松 本 古くならない曲を作ってきたつもりだし、それともうひとつ、誰が歌っても “いい曲” を作ってきたつもり。
日本でもようやく、カバーの重要性が見えてきたんだと思う。これまではオリジナルが本物、カバーは偽物みたいに、海外とは考え方がまるで違ってた。
例えばSpotifyで知らない洋楽が出てきたとする。タイトルを検索すると、歌ってるアーティストがいっぱい出てくる。無名のアーティストが歌ってたり、オリジナルが誰かわからなかったり、カバーの方が良かったりもする。価値が逆転することだってある。いいと思うんだ、それで。これから日本もそうなるよ。
meme いいですね、いい歌を“歌い継ぐ”。名曲はこの先も輝き続ける。
松 本 テレビで流れる新しい曲が1番かっこいいっていう感覚とか、短期間で変わる“最新”を次々追っかける聴き方とか、なくなるだろうね。50年以上も前のはっぴいえんどの曲を20代の子が歌う。誰も宣伝なんかしていないのに。おもしろい時代だね。
text.田中奈都子


松本隆 作詞活動55周年記念
オフィシャル・プロジェクト
『風街ぽえてぃっく 2025』
◆日時
第一夜:風編
9月19日(金)開演 18:00
第二夜:街編
9月20日(土)開演 17:30
◆会場
東京国際フォーラム ホールA
https://matsumototakashi55.com/












