11.12
WEB版スペシャルインタビュー|映画『ルート29』
監督・脚本 森井勇佑さん
実力派女優、綾瀬はるか主演の新作映画『ルート29』が11月8日、全国で封切られた。綾瀬演じる、いつも一人ぼっちの孤高の主人公〝トンボ〟と、愛嬌あふれる風変りな女の子〝ハル〟が二人で姫路から鳥取までの約120キロをさすらうロードムービー。自ら歩いてロケハン(ロケーション・ハンティング)を敢行し、脚本を仕上た森井勇佑監督に〝創作秘話〟を聞いた。
主演に綾瀬はるかを抜擢…
〝孤高〟のイメージで紡ぎ出した唯一無二のロードムービー
個性豊かな二人の女優
原作は詩人、中尾太一の詩集『ルート29、解放』。
「初めての詩集からの映画化ですが、約一カ月間、国道29号線(=ルート29)を歩いて行ったロケハンは楽しかったです」と森井監督は振り返る。
2年前のデビュー作『こちらあみ子』は芥川賞受賞作家、今村夏子の同名の短編小説だ。この映画化で監督デビューするや、『新藤兼人賞』金賞を受賞するなど国内外の映画祭で絶賛され、一躍、“次作が期待される”注目の監督となった。
森井監督とともに、この作品で脚光を浴びたのが、主人公のあみ子を熱演した当時11歳だった新人女優、大沢一菜(かな)だ。
「実は今回の映画2作目の脚本を書く際、ハル役は大沢一菜で〝当て書き〟(俳優を決めて書くこと)していたんです」と森井監督は教えてくれた。
鳥取で清掃員として働くのり子(綾瀬はるか)は誰とも関わらおうとせず、いつも黙々と仕事をしていた。そんなのり子が、仕事先の病院で患者の理映子(市川実日子)から、「姫路にいる私の娘をここまで連れて来てほしい」と頼まれる。のり子は姫路へ行きハル(大沢一菜)を見つけ出す。ハルは森の中の秘密基地で遊ぶ風変りな女の子だった。ハルはのり子に〝トンボ〟とあだ名をつける。
姫路から鳥取までは一本道。国道29号線をひたすら進むトンボとハルの二人旅が始まる…。
出演依頼を受けた綾瀬は、「次の作品は、しばらく映像作品は取り掛かっていなかった時期があったので、縁を感じるものをやりたい」と考えていたと言い、「映画『こちらあみ子』が大好きだったので、大沢一菜ちゃんに会ってみたいという気持ちもあって」この映画のオファーを受けたと明かしている。
ファーストテイクの緊張感
撮影現場で「本番前に入念なリハーサルを何度も行う」という監督は少なくない。
だが、森井監督は「リハーサルをしない」と言う。この撮影手法にも、綾瀬は「テストをせずにすぐに本番なのも新鮮でした」と語っており、すぐに森井監督の現場になじんだようだ。
森井監督に、この理由を聞くと、「-作目の『こちらあみ子』の撮影現場で、あみ子役の大沢一菜に何度も演じさせると、『ええっ、まだやるの』とむずかるので、自然とこの手法で撮るようになっていたんですよ」と語り、こう続けた。
「この1~2年でずいぶんと成長していて驚きました」。
今作の撮影中も、「新しい表情をたくさん見せてくれた」と言い、女優としての大沢の成長ぶりを称える。
『ルート29』のなかのハルは、〝少し成長したあみ子〟の姿なのかもしれない。
大沢は前作に続いての森井監督からのラブコールを受けて、「監督とまた一緒にやれる。やったあ!」と素直に喜び、綾瀬との共演を聞くと、また、「やったあ!」と喜んだという。女優として成長を遂げた一方で、13歳になっても、まだまだ子供らしく…。
旅を体現
姫路城のお掘から、国道沿いのドライブイン、途中にあるトンネル、少し道を外れると自然豊かな森や神秘的な湖が現れ、壮大な鳥取砂丘へと旅は続く…。
二人の旅が進むなか、数多(あまた)の日本の原風景がスクリーンに活写される。
映画で描かれるトンボとハルの二人旅、約120キロの行程は、「ほぼ(映画の流れ通り)〝順撮り(じゅんどり)〟で撮影しています」と森井監督は話す。
つまり、森井監督や撮影チームにとっても、この映画の流れのままに、ロードムービーのような生活を続けていたことが分かる。
森井監督にとって綾瀬とは初めての〝タッグ〟。
「ご自身のなかの宇宙が独特でおもしろい方だと感じました。その宇宙が、のり子という役をとても豊かなものにしてくれた」とオファー時に思い描いた想像通りの女優であることを確信したと言う。
トンボとハルがひと夏の旅のなかで経験する多くの人々との出会いや別れ、驚きや感動、心の成長は、観る者ひとりひとりにとっても夢のような不思議な旅として、心に刻まれるに違いない。
(文=戸津井康之)