2024年
11月号

兵庫県医師会の「みんなの医療社会学」 第159回

カテゴリ:医療関係

かかりつけ医機能の中でチーム医療を考える

─かかりつけ医には、どのような機能がありますか。
川﨑 日常おこなっている診察においては、患者さん一人ひとりの健康状態はもちろん、仕事や習慣など生活の背景も把握しつつ、適切に治療や療養指導をおこなっています。また、専門分野外のことは、他の医療機関を紹介するなどして解決策を提供しています。患者さんやその家族に対してわかりやすく医療に関する情報をお伝えするのも重要な役割です。でも実は、それだけじゃないんです。

─ほかにどんなことをしているのですか。
川﨑 例えば、自己の診療時間外も最善の医療が継続されるよう、地域の医師や医療機関などとお互いに協力して休日や夜間でも対応できる体制を構築しています。また、健康相談、特定検診やがん検診などの健康診断、母子保健・学校保健・産業保健・地域保健などの地域における医療を取り巻く社会的活動や行政活動に積極的に参加するとともに、地域包括ケアシステムにおいても保健・介護・福祉関係者と連携して、地域の方々が少しでも長く地域で生活できるよう在宅医療を推進するという役割も担っています。

─でも、一人何役も大変ではないでしょうか。
川﨑 かかりつけ医機能を担う地域の医師は、使命感を持ってこれらの役割を果たそうと思っていますが、個人で対応できることに限界があるのも事実です。「いつも相談に乗ってほしい」という患者さんの希望にも応えないといけませんし、在宅医療を受けている患者さんは24時間の対応が必要です。しかし、医師にも自身の生活はあり、家族との時間も大切ですし、たまには息抜きもしたいのです。子育てや親の介護をしている医師もいます。かかりつけ医としての使命を全うしたいが、自分や家族も大切にしたい…そう悩んでいる医師は少なくないのです。

─学会出張で長期留守にすることもあるでしょうし、時には旅行にも行きたいでしょうね。でもそういう時はどうすれば良いのでしょう。
川﨑 やっぱり連携が重要になってくるでしょう。チーム医療で対応するという考え方もひとつの方向性です。

─チーム医療というと、大きな病院でおこなわれているというイメージですが。
川﨑 そもそもチーム医療とは、多職種のスタッフが各々の高い専門性を前提に、目的と情報を共有して業務を分担しつつ、互いに連携・補完し合い、患者の状況に的確に対応した医療を提供することです。この考え方は在宅医療でも必要です。

─チーム医療にはどのような効果がありますか。
川﨑 平成22年の厚生労働省「チーム医療の推進に関する検討会」報告書によると大きく3つあり、医療・生活の質の向上、医療従事者の負担軽減、医療安全の向上が挙げられています。そしてチーム医療を推進するためには、各医療スタッフの専門性の向上、各医療スタッフの役割の拡大、医療スタッフ間の連携・補完の推進が重要であると記されています。

─かかりつけ医がチーム医療をおこなうにはどうすれば良いのですか。
川﨑 我々開業医は保険医療制度の中でその仕事を行い、診療報酬で収益を得ている訳ですが、チームでおこなうことを支える医療制度があります。チーム医療というコンセプトで協働して、地域医療を支える形にすれば保険点数でのメリットもあり、これが、機能強化型在宅療養支援診療所です。

─機能強化型在宅療養支援診療所とは何ですか。
川﨑 表1の施設基準を満たす診療所が認定され、区分に応じた往診料の加算など、表2のように在宅診療に関する診療報酬の点数がプラスされます。機能強化型在宅支援診療所には1つの診療所で完結する単独型と、複数の診療所が連携する連携型があり、連携型は単独型と同等の条件を満たすだけでなく、患者からの緊急時の連絡先の一元化、連携医療機関間で定期的なカンファレンスの実施といった要件が必要となります。

(表1)在宅支援診療所の施設基準の比較


(表2)往診料加算点数の違い


─連携型の機能強化型在宅療養支援診療所にはどんなメリットがありますか。
川﨑 週末や休日でも医師の誰かが地域にいますし、どの先生が来るか伝えることができるので患者さんも安心です。医師もお互いのスケジュールを共有・調整することで旅行などに行きやすくなりますし、連携する医師が多いほどその自由度も高くなります。

─逆に課題はありますか。
川﨑 まず、連携にあたっては看取りを含めたACP(アドバンスケアプランニング=患者の将来の医療やケアについての意思決定プロセス)をしっかりとおこなうことがトラブル防止のためにも必要です。また、診療所間で担当している患者数の違いが大きいと調整が大変で、大きな医療機関では結局内部で担当を決めていく必要がありますし、施設からの連絡が結構煩雑だったりします。そして、例えば連携している先生に自院の患者さんの看取りをお願いすると往診での対応となるので、それまでの在宅ターミナルケア加算や看取り加算の算定が難しいといった課題があります。開業医はそれぞれ独立しているので、往診対応した時点で医療機関が別となると、保険診療の継続性がわかりにくい、つまりレセプトに反映しにくいのです。

─これらの課題解決にはどのような方向性がありますか。
川﨑 地域医療連携法人制度を活用すれば、地域を支える医療に関係する事業所が一つの法人となるのでこの問題は解決しますが、やはり開業医は自身の診療所を独自に運営していきたいという思いがあるので、現実的にはなかなかそうもいきません。一番大きな課題は診療報酬の算定ですので、連携型の機能強化型在宅支援診療所に対しての保険診療上の位置づけをもう少し明確にして、連携している診療所間であれば初回訪問であっても訪問診療として算定可能とする、看取りに行った医師に対する評価として適切な診療報酬を設定するなど在宅診療点数をしっかり算定できる仕組みを確立することが必要ではないでしょうか。それが、これからの地域医療体制を支えることに結びつくと思います。

兵庫県医師会 医政研究委員会委員
川﨑医院 院長
川﨑 史寬 先生

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