2024年
11月号

⊘ 物語が始まる ⊘THE STORY BEGINS – vol.48 女優・歌手 島田 歌穂さん

カテゴリ:, 文化・芸術・音楽

新作の小説や映画に新譜…。これら創作物が、漫然とこの世に生まれることはない。いずれも創作者たちが大切に温め蓄えてきたアイデアや知識を駆使し、紡ぎ出された想像力の結晶だ。「新たな物語が始まる瞬間を見てみたい」。そんな好奇心の赴くままに創作秘話を聞きにゆこう。第48回は、今年、デビュー50周年を迎えた女優、歌手の島田歌穂の登場です。
文・戸津井 康之
撮影・服部プロセス

デビュー50年と結婚30年は通過点… ハードスケジュールは幸福の証

50年目も多忙を極め…

「記念アルバムのレコーディングにコンサートツアーやミュージカル…。おかげさまで50年目も本当に忙しくさせていただいています。でも〝この忙しさ〟は本当に幸せなこと。こんなに長く歌い続けられるなんて、思ってもいませんでしたから」
半世紀もの間、エンターテインメントの第一線を走り抜けてきた。50年目の節目に、改めて、その感謝の思いを噛みしめながら、しみじみと振り返るようにこう語った。
取材は夕方。その日朝から福岡県での仕事を済ませ、新幹線で新大阪駅へ到着すると、その足で大阪市内の取材場所へ駆け付けてくれた。
東京在住だが、大阪へは定期的に通い続けている。
「いよいよ明日から大学の後期の授業が始まるんですよ。夏休み中に学生たちがそれぞれの課題とどう向き合って成長してくれているか、会うのが楽しみで…」
疲れも見せず、さっそく次の仕事に思いを馳せる。
現在、大阪芸術大学の舞台芸術学科教授。ミュージカルコースの学生たちを指導し、今年で21年を数える。
指導者としての経験を積む中で、「年々、教え子たちとの共演の機会が増えていくのが、とてもうれしくて」と語る。
コンサート活動などに加え、島田にとって主戦場の一つが、ミュージカルの舞台だ。
今年がラストイヤーとなる、Kinki Kidsの堂本光一主演の人気ミュージカル『Endress SHOCK(エンドレス・ショック)』には2022年から連続で出演した。
7月の大阪・梅田芸術劇場での公演を観劇したことを伝えると、「あの舞台で、実は大学の教え子が3人、一緒に出ていたんですよ」と教えてくれた。
現役の大学教授として、自分が育てた年齢の離れた教え子たちとプロの舞台の上で再会し、共演する―。
教えながら、自らミュージカルを演じる、まさに演劇界の〝プレーイング・マネジャー〟の役割を果たしている姿に、デビュー50年の歴史の重みを垣間見た思いがした。
さらに続けた〝公演秘話〟に驚かされた。7~8月の大阪でのロングラン公演中の舞台裏での、その秘話とは…。
「実は休演日の度に、アルバムのアレンジ作業のために、大阪を離れ、東京へ戻っていたんですよ」
島田は光一演じるエンターテイナーが所属する劇場のオーナーという重要な役で舞台に立つ一方、11月20日に発売される50周年記念アルバムの制作準備を並行して進めていたのだ。
「休演日といっても、ちっとも休みではないですよね。結局、自宅ではアレンジ作業だけでなく、家事もやらざるを得ないですからね」と笑う。

アルバム制作秘話

記念アルバムのタイトルは『Kaho Shimada Sings DISNEY』。
50年目の節目に島田が選んだアルバムのテーマは〝ディズニー〟だった。
実は、島田とディズニーとの縁は長く、深い。
その縁を示すひとつがこれ…。
2003年、東京ディズニーシーのスペシャルイベント『キャンドルライト・リフレクションズ』のクライマックスで、名曲『ウェルカム・トゥ・クリスマス』が流れる度に、連日、ショーは絶頂の盛り上がりを見せていた。
「あの歌はいったい誰が歌っているの?」と話題を呼んだ、その歌い手こそが島田だったのだ。
また、2017年に大ヒットしたディズニーの実写版映画『美女と野獣』や、2018年『メリー・ポピンズ・リターンズ』の日本語の吹替版などで島田は声優を務めている。さらには、舞台版『メリー・ポピンズ』の日本初演、再演にも、バードウーマン、ミス・アンドリューの二役で出演した。
「今回、50周年を迎えるに際し、もう、アルバムのテーマはどれもやり尽くしたという思いがあって、テーマ選びはとても迷いました」
そう島田が打ち明けるのも無理はなく、デビュー以来、今回でアルバムは通算28枚を数える。
そこで思い浮かんだのが、「大好きなディズニーの楽曲を集めてカバーアルバムを作れないだろうか…」。その思いは次第に募るが、テーマが具体的に決まったのは年が明けてからだった。「でも、夢が実現できることになってうれしくて。すでに予定が決まっていたミュージカルやコンサートなどに加え、今年のスケジュールが、よりハードになってしまったんですが、幸せな忙しさです」と微笑んだ。
アルバムのレコーディング作業は順調に進む。
「もちろん、『ウェルカム・トゥ・クリスマス』も新たなアレンジで収録しました」

二人三脚で30年

今年は、デビュー50年と、もう一つ大きな記念の節目がある。
夫はピアニストで作曲・編曲家の島健。
この連載でも登場した平原綾香やサザンオールスターズなど、多くの人気ミュージシャンたちが曲作りで信頼を寄せる、日本を代表するアレンジャーの一人だ。
「結婚したのが1994年で、今年でちょうど30周年なんですよ」
夫婦である一方、島田のコンサートやミュージカルの音楽監督として、ピアニストとしてサポートをし、もちろん曲作りも共同で手掛けてきた、島田の活動を支えてきた長年のパートナーである。
「今回のアルバムの編曲もすべて夫が担当してくれています」
ところが仲がいいだけの夫婦の関係ではない。
「いい曲にするために、お互い一歩も譲らず〝ああでもない、こうでもない〟と曲作りにこだわってきました。そのために忌憚なく意見を交わすこともありますが、いいところは、夫婦なのでいつでも自宅で打ち合わせができるところ。夜中に突然、こうしてみようとアイデアが湧いて、思い立ったら、すぐに相談できますし」と笑う。
夜中でも、隣で夫がピアノで伴奏してくれるのだ。
こんな夫婦生活を30年間、続けていると、「普段の生活でも、いつも音楽の話をしていますね。だから、プライベートと仕事の垣根がないんです」とも。
12月には恒例の夫婦共演のコンサートを開催してきた。
今年も12月21、22日。東京・スパイラルホールで『島田歌穂&島健 Duo Xmas Special  14』が開催される。
「今年で14回目。デビュー50年と結婚30年が重なり、今年は特別なコンサートにしたい。でも実はまだ選曲もどんな内容にするかも決まっていないんです。いつも〝Duo”は、こんなのんびりした感じです」と打ち明けた。

〝歌の申し子〟の覚悟

父は音楽家、母は元タカラジェンヌでジャズ・シンガーという家庭で育った。
「幼い頃から家の中ではいつも音楽が流れていて、それが私の子守歌でした」
名前も歌穂。生まれて以来、〝歌〟の申し子の宿命を背負ってきたのかもしれない。
神戸との深い縁もある。
大阪・梅田の阪急三番街で1990年から34年間、流れ続けている曲がある。
阪急三番街のテーマ曲『川の流れる街で』だ。〝神戸っ子〟や京阪神地域に住む人たちなら、一度は聴いたことのある、あの心地よいメロディー…。
「実は私が歌わせていただいているんですよ。それを知って驚く方が結構多いんです」と愉快そうに笑った。
現在61歳。第一線に立ち続ける秘訣を聞くと、「何も特別なトレーニングはしていませんよ」と明かし、こう続けた。
「舞台に立ち続けることが私にとって最高のトレーニングですから」と。
〝ミュージカル界のプレーイング・マネジャー〟は、「60、70代もまだまだステージに立ち続けます」と力強く宣言した。

島田 歌穂(しまだ かほ)

女優・歌手。1974年、子役デビュー。87年、ミュージカル『レ・ミゼラブル』初演で脚光を浴び、出演回数は1,000回を超えた。
同作の世界ベストキャストに選ばれ、英国王室主催のコンサートに出演。参加した世界ベストキャストアルバムが米国にてグラミー賞を受賞するなど国際的にも高い評価を得る。他の主な出演作品は『ウエストサイド・ストーリー』『黙阿弥オペラ』『江利チエミ物語』『飢餓海峡』『ベガーズ・オペラ』『ビリー・エリオット』『メリー・ポピンズ』『ナイツ・テイル』『Endless SHOCK』など、ミュージカルからストレート・プレイまで幅広い。また、コンサートやアルバムリリース、ディズニー映画『美女と野獣』(17年)、『メリー・ポピンズ リターンズ』(19年)『魔法にかけられて2』(22年)の吹替や、映画『カムイのうた』(24年)に出演し主題歌も担当するなど、女優、歌手として多岐にわたり活躍。芸術選奨文部大臣新人賞、紀伊國屋演劇賞個人賞、読売演劇大賞優秀女優賞など受賞多数。大阪芸術大学教授。本年、デビュー50周年を迎えた。10/25 NEWシングル「ウェルカム・トゥ・クリスマス(2024)」配信リリース。11/20 NEWアルバム「島田歌穂・シングス・ディズニー」リリース。

島田歌穂 WEBサイト

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