12.13
新作長編アニメーション「屋根裏のラジャー」12月15日公開!|KOBECCO WEB版インタビュー
百瀬義行監督・西村義明プロデューサーに聞く
日本屈指のアニメーション製作会社「スタジオポノック」の待望の新作長編アニメーション「屋根裏のラジャー」が12月15日、全国の映画館で封切られる。これまで数々のスタジオジブリの傑作の作画や演出を手掛けてきた名匠、百瀬義行監督とジブリのヒット作の企画から制作に携わってきた西村義明プロデューサーが初めて長編アニメーションでタッグを組んだ注目作。盟友2人に製作秘話を聞いた。
■ジブリの継承者たち
スタジオポノックの長編第1作「メアリと魔女の花」が公開されたのは2017年。以来、約6年ぶりとなる1時間49分の長編アニメーション作品がこの「屋根裏のラジャー」だ。
《彼の名はラジャー。世界の誰にもその姿は見えない》
なぜなら少年、ラジャー(声=寺田心)は、書店2階の屋根裏で暮らす少女、アマンダ(声=鈴木梨央)の想像から生まれた友だち=イマジナリだから。書店の店長でアマンダの母、リジー(声=安藤サクラ)にもラジャーの姿は見えなかった…。
《イマジナリには運命があった。人間に忘れられると、この世界から消えていく…》
「アニメの舞台はイギリス。と言っても、いくつかの街をモデルに作り上げた架空の街なんですよ」と百瀬監督が説明してくれた。
すると横から西村プロデューサーが、「実は企画当初はポルトガルを舞台にしようと企画していたんですよ。現地でのロケハン(ロケーション・ハンティング)の準備もしていたのですが、コロナ禍の影響で行けなくなってしまって」と明かした。
原作はイギリスの詩人・作家、A.F.ハロルドの「The Imaginary(邦題=「ぼくが消えないうちに」)。
「正直、本当はロケハンに行ってじっくりと取材もしたかったけれど、想像した舞台を設定できたのは、この映画らしいのかもしれないですね」と2人は語る。
何年も前に「The Imaginary」を読み、興味を持っていた西村プロデューサーは、「次の長編アニメーションはこの原作で」と心に決めていたと言う。そして、「監督を任せるなら百瀬監督で」とも…。
百瀬監督と西村プロデューサーは長年、ともにスタジオジブリでアニメーション製作に携わってきた盟友だ。だが、2014年、スタジオジブリのアニメーションの製作部門の解散が発表される。
2015年4月、スタジオジブリを退社した西村プロデューサーと、宮崎駿監督の片腕としてジブリ作品の製作を支え続けてきた一人、米林宏昌監督が新たに立ち上げたのがスタジオポノックだった。
一方、宮崎監督とともに〝スタジオジブリの両輪〟と呼ばれ、ジブリ作品を手掛けてきた高畑勲監督の〝片腕〟として活躍していたのが百瀬監督だ。
晩年の高畑監督からは、「片腕ではなく私の両腕となった」と語るほど絶大なる信頼を寄せていた鬼才とも呼ばれた日本屈指のアニメーションクリエーターである。
宮崎監督、高畑監督という2人の巨匠にずっと隠れていた存在だったが、西村プロデューサーは、その〝異才ぶり〟を見抜いていた。
「いつも百瀬監督は子供の頃の記憶を楽しそうに話してくれる。子供の視点で語ってくれる。きっと百瀬監督ならラジャーが描ける…そう確信していたんです」
西村プロデューサーは、ポノック創設後1作目となる長編劇場版アニメーション「メアリと魔女の花」を米林監督と手掛けているが、「実は高畑勲監督の『かぐや姫の物語』(2013年公開)のプロデュースを担当しているときに、すでに、百瀬監督とは次の長編アニメーションの企画の話を進めていたんですよ。今回の『屋根裏のラジャー』とは違う企画だったのですが…」と、ジブリを継承する2人の新タッグ結成前の秘話を聞かせてくれた。
ポノックという言葉は、クロアチア後で「深夜0時」という意味がある。
西村プロデューサーは、スタジオの名に、「新たな一日の始まり」という思いを込め、アニメーション製作の火は決して消さない―という覚悟を込めていたのだ。
■声優を本気にさせる映像とは
主人公のラジャーの声にはこだわったという。
300人を超えるオーディションが行われ、幼少期より様々な作品に出演する俳優、寺田心さんをラジャー役に抜擢した。寺田さんは「どうしてもラジャーに選ばれたい」と悲壮な覚悟でオーディションに臨んでいたといい、「選ばれたときは、うれしくて涙が出ました」と素直に喜びを明かしている。
彼の声を聞いた百瀬監督が言う。
「ラジャーがそこにいた」と。
そこまで言わしめる彼の声の演技は、間違いなくこの映画の大きな見どころのひとつだ。
さらに、ラジャーをつけ狙う髭の謎の男、ミスター・バンティングの声は、ベテラン俳優のイッセー尾形さんが、ラジャーの前に突然、現れる怪しげな猫、ジンザンの声は、実力派俳優の山田孝之さんが熱演。
イッセーさんは舞台挨拶で「この70歳にもなる男が一瞬で子供に戻るんです。今の僕とダイレクトにつながっている、そんな作品に出ることができた」と思い入れの強さを語った。
ポノックの長編2作目となるアニメーションが、各世代を代表する日本の俳優たちを〝本気〟にさせたのだ。
この反応に対し百瀬監督はうれしそうにこう語る。
「アニメーションという言葉には〝命を吹き込む〟という意味合いがあるんです。作画からアフレコまですべてがつながっているからこそ、命が宿っているんだ、という実感を持てました」と。
6年ぶりにポノックの新作長編が公開を迎えたことについて、西村プロデューサーはホッとした安堵の表情を浮かべながらも、一方で、「本当は2年に一本ぐらいのペースで作れればいいのですが…」と苦笑しながら本音を吐露した。
アニメーション製作を取り巻く環境は年々厳しくなっているのだ。
「今回、製作に関わったアニメクリエーターは総勢約500人。うち約60人はフランスのクリエーターたち。彼らの新たなアニメ製作の技術は絶対に必要だったのです。他にも韓国や中国など世界約6カ国のアニメーターたちが参加しています。人材を集めるのも大変な時代になっているんです」と明かす。
2018年に高畑監督は亡くなったが、生前、こう話していた。
「スタジオポノックは日本のアニメーション製作の牙城になるだろう」
スタジオジブリが長編アニメーションの製作を辞めた後、創作の魂を受け継ぐ百瀬監督や西村プロデューサーたち後継者へ。高畑監督はこの期待を託し、亡くなった。
そして5年後、自身の両腕と呼んだ百瀬監督と〝40歳年下の友人〟西村プロデューサーがタッグを組んで、その期待に応えた。
■イマジナリはいつも隣に…
「最後に僕の友だちの話をさせてください。僕には40歳年の離れた友人がいました…」
先日開催されたジャパンプレミアの舞台挨拶で西村プロデューサーが語った、この年の離れた友人とは高畑監督のことだ。
西村さんは、「高畑監督のアニメーションが好きでジブリに入った」と常々公言してきた。
「かぐや姫の物語」では、その憧れの高畑監督とプロデューサーとしてタッグを組んだ。 このとき。「実は高畑監督とは、もう一本、映画を作る約束をしていた」と言う。
その夢は叶わなかった。
だが、「今日は僕の〝イマジナリ〟高畑勲のために空席をひとつ用意してもらっています。一番手厳しい友だちに見てもらっています」と観客席に向かって頭を下げた。
会場後方の席には高畑さんの妻が座り、その隣に〝永遠のイマジナリ〟である高畑監督の席がもうひとつ用意されていた。
プロフィール
百瀬義行(ももせよしゆき)
アニメーション演出家。
高畑勲監督作品『火垂るの墓』(88)での原画担当を機にスタジオジブリへ入社。以降『おもひでぽろぽろ』(91)、『平成狸合戦ぽんぽこ』(94)、『もののけ姫』(97)、『千と千尋の神隠し』(01)など、数々のスタジオジブリ作品で中核的役割を担った。『ギブリーズ episode2』(02)で短編初監督。capsuleや新垣結衣のPVでも活躍。その後、スタジオポノック短編劇場『ちいさな英雄』(18)の一編『サムライエッグ』、2021年にはオリンピック文化遺産財団芸術記念作品となる短編映画『Tomorrow’s Leaves』を監督。
西村義明(にしむらよしあき)
映画プロデューサー。
02年スタジオジブリに入社。宮崎駿監督初のTVCM『おうちで食べよう。』シリーズ(04)から製作業務に関わり、次いで『ハウルの動く城』(04)、『ゲド戦記』(06)、『崖の上のポニョ』(08)の宣伝を担当。その後『かぐや姫の物語』(13/高畑勲)や『思い出のマーニー』(14/米林宏昌)でプロデューサーを務め、二度の米国アカデミー賞にノミネート。2015年4月、アニメーション制作会社スタジオポノックを設立し、代表取締役兼プロデューサーを務める。『メアリと魔女の花』(17)スタジオポノック短編劇場『ちいさな英雄』(18)、『Tomorrow’s Leaves』(21)をプロデュース。
text.戸津井康之
Photo.黒川勇人
公開情報
『屋根裏のラジャー』
2023年12月15日(金)全国東宝系にて公開
キャスト:
寺田心、鈴木梨央
安藤サクラ
仲里依紗、杉咲花、山田孝之
高畑淳子、寺尾聰
イッセー尾形
原作:A.F.ハロルド『The Imaginary』
(『ぼくが消えないうちに』こだまともこ訳・ポプラ社刊)
制作:スタジオポノック
製作:『屋根裏のラジャー』製作委員会
配給:東宝
©️ 2023 Ponoc
公式サイト:http://www.ponoc.jp/Rudger