12月号
神大病院の魅力はココだ!Vol.27
神戸大学医学部附属病院 肝胆膵外科 小松 昇平先生に聞きました。
日常的に「胃が痛い」「お腹の調子が悪い」と口にしますが、「肝臓が痛い」「膵臓の調子が悪い」とは言いません。病気が進行しても自分では気付きにくいところが「肝胆膵」の厄介なところだそうです。どんな臓器で、どんな病気があるのでしょうか。小松昇平先生にお聞きしました。
―肝胆膵とは?消化器に分類されるのですか。
肝臓、胆のうと胆管、膵臓の総称です。消化器と聞いてまず想像する食道、胃や腸は「管腔臓器」と呼ばれる食事の通り道の臓器ですが、肝胆膵は「実質臓器」と呼ばれる中身が詰まった固形の臓器です。
―それぞれの特徴は?どんな役割を持っているのですか。
肝臓は体の中で最も大きな実質臓器です。また再生の力がある唯一の臓器なので一部を切除しても元に戻ることができます。「お酒を分解する」などと言われるように解毒作用があります。体に入ってきた栄養を保管して、飢餓状態になったときには体のために使って力を発揮します。また、脂肪を分解する「胆汁」という液体を作っています。
肝臓で作られた胆汁は胆管を通り胆のうに溜められます。食べたものが十二指腸に入ってくると胆管を通って流れ出し脂肪を分解する働きをします。この胆のうはなくなっても大きな支障はなく、胆石の手術では胆のうごと切除します。後遺症が出ることは基本的にありません。
膵臓では内分泌ホルモンの一種で血糖値を調節する「インスリン」が作られるのをはじめ、糖質・脂質・タンパク質を分解する「膵液」が作られていて、膵管を通って十二指腸へ流れていき、食べものの消化を助けます。
―肝胆膵にはどんな病気が多いのですか。
最も多いのは肝胆膵それぞれの「がん」です。各臓器で発症する原発性がんのほかに、他の臓器から転移してくる転移性がんがあり、特に肝臓の場合は大腸がんからの転移が多く見られます。大きな臓器である肝臓や肺は血液にのって全身を流れるがんの居座り先になりやすいのです。大腸がんの場合は、大腸から肝臓に至る血管である「門脈」にのって転移すると考えられます。
―肝臓の病気では「肝炎」をよく聞きますが…。
肝炎は内科領域の疾患で、最近は効果の高い抗ウイルス薬が開発され、ウイルス性肝炎のほとんどが根治可能です。感染の心配があればウイルス検査をされた方がいいと思います。肝炎が進行すると肝がんや肝硬変に至り、肝臓切除や肝移植などの外科手術が必要になるケースもあります。
―大学病院へは難しい手術が必要ながん患者さんが来られるのですか。
肝胆膵領域の中でも特に難易度の高い患者さまや、併存疾患をお持ちのために総合的な管理が必要な患者さまがたくさん来られます。肝臓は非常に大きな臓器で、がんができる場所や血管との位置関係に応じて術式を検討しなくてはならず、難易度が急激に高くなるケースがあります。膵臓もがんの場所によって術式が変わるだけでなく、周りには動脈や門脈など体にとって非常に重要な血管がたくさん集まっているので傷つけないように手術をしなくてはいけません。近くにある血管にがんが浸潤しやすく、合併切除や再建手術が必要なこともあり、非常に高い専門性が求められます。胆のうがんや胆管がんはがんの浸潤範囲を正確に確認して、切除範囲をミリ単位で判断する必要があり、非常に繊細な技術や経験が必要な手術になります。
また、大学病院は専門性の高い診療科がそろっているので、自分達の専門外の病気や手術後の合併症・病態に対しても、しっかり治療して頂ける環境が整っているのも大変心強いと感じています。
―最先端の手術法も取り入れられているのですか。
肝胆膵外科領域にも腹腔鏡手術だけでなく、近年ロボット手術も保険収載され、大学でも、腹腔鏡やロボット手術の占める割合が年々増加しており、今後も増えていくと思います。また、以前から放射線科と外科がタッグを組み、粒子線治療と外科手術を融合させて、今まで治せなかった様々な疾患に対して治療域の拡大を目指した取り組みを積極的にすすめてきました。これはわれわれ、肝胆膵外科の特徴的な先進医療のひとつです。
―切除しても再生する肝臓の場合、がんの治療は手術が一番の選択肢ですか。
一番の根治治療は外科手術です。しかし、切除すると肝機能が低下して肝不全に陥る可能性があるような患者さんは、手術は控えた方がいい事もあります。最近は抗がん剤治療や放射線治療も非常に進歩しているので、他科の先生方と議論しながら、患者さん一人一人の病態にあわせて最良の治療方針を決めています。
―肝臓移植は最後の手段ですか。
肝臓は再生可能な臓器ですが、肝硬変や肝不全に至って、ある一定レベルを超えてしまうと、「不可逆性」といって肝機能が戻らなくなってしまいます。どんどん肝機能が低下していき、薬や点滴など内科的な方法ではどうにもならず、肝移植しか助かる方法がなくなってしまいます。
―神大病院ではどれくらいの肝移植手術が行われているのですか。
ご家族から肝臓の提供を受ける生体肝移植と脳死の方から肝臓の提供を受ける脳死肝移植合わせて年間5〜10例程度です。肝臓は解剖学的に右葉と左葉の2つに分かれており、生体肝移植の場合、提供者(ドナー)からどちらか半分の肝臓をいただき、移植希望者(レシピエント)に移植するのですが、さまざまな条件をクリアできなくてはご家族でもドナーにはなれません。また日本のシステムでは現状、肝硬変や肝不全でもかなり重篤な状態にならない限り脳死肝移植での肝臓提供を受けることができず、全国で多くの患者さんが待機しておられます。
―肝がんや膵がんの早期発見の方法は?
良性の疾患であれば痛みや発熱という症状が出ることもありますが、がんについては、肝胆膵領域は症状が非常に出にくい臓器です。症状が出たり、血液検査で異常が指摘された時点でかなり進行しているケースも多いです。
―どうしたらいいのでしょう。
自覚症状での早期発見は期待できない病気だということを認識して、がんになる要因を予防することが大切です。肝臓の場合、ウイルス性肝炎は治療できるようになった一方で、最近は脂肪が肝臓に溜まることによって炎症を起こす脂肪性肝炎が増えています。食生活の欧米化の影響は間違いなくあると思います。肝硬変も早期の段階であれば、食生活改善・禁酒などの生活習慣を変えることで、肝臓には元に戻る力があります。
まず生活習慣を見直し、一般的な検診に加え、かかりつけ医と相談の上、超音波検査やCT検査などを定期的に受けるのも予防や早期発見のためには必要です。
小松先生にしつもん
Q.なぜ医学の道を志されたのですか。
A.父親が外科医でクリニックを開業していました。厳しい人でしたが子どものころからその姿に憧れ、後を継ぐつもりで医学を志しました。結果的にはちょっと違う道を選び大学病院にいます。
Q.肝臓外科を専門にされた理由は?
A.国家試験の勉強をしていて肝臓が一番おもしろい臓器だと思ったこと、また学生のときに見学した肝臓移植に興味を持ったことが専門に選んだ理由です。
Q.肝臓外科の専門医としてやりがいを感じるときは?
A.非常に難しい領域ですから、私も医者になって20年以上たちますが、いつまでも山頂が見えない登山をしているような感覚です。でも、とてもやりがいのある領域なので、一生を捧げる仕事として、これ以上のものはないと思っています。
Q.日頃、病院で患者さんに接するとき、また大学で学生さんに接するときに心掛けておられることは?
A.患者さんに対しては、難しい選択を迫られたとき「自分の家族ならどんな治療を受けてほしいと思うだろうか?」と考えます。外科治療に固執せず最適な治療を提示できるよう心掛けています。働き方改革が進んでいるとはいえ、肝胆膵外科の仕事は大変なこともあります。だからこそやりがいもとても大きいです。学生さんたちに「こんなはずじゃなかった」と後悔してほしくないので、決して「ラクだよ」などと言わず、現実を真摯に話すようにしています。そこに魅力を感じてくれる学生がこの領域を専門に選んでくれると信じています。
Q.小松先生ご自身の趣味やリフレッシュ法は?
A.自分でやるなら野球、観戦するならアメリカンフットボールが好きです。休日のリフレッシュ法は家族と行くキャンプや街をブラブラすることです。