12月号
兵庫県医師会の「みんなの医療社会学」 第149回
西宮市医師会市民フォーラム
「もうすぐ一年生 君らしく成長しよう子どもの発達とかかわりについて」
─毎年恒例の西宮市医師会市民フォーラムですが、今年はどんなテーマでしたか。
奥窪 いつも市民のみなさまに向けて身近な医療の話題を採り上げていますが、第22回の今回は「もうすぐ一年生 君らしく成長しよう 子どもの発達とかかわりについて」と題して、9月9日に西宮市フレンテホールで開催しました。
─今回は未就学児やその親をターゲットにしているのですね。
奥窪 子どもに関するテーマは久しぶりでしたが、210名もの来場者があり、そのほとんどがフォーラムにはじめて参加した子育て世代の方でした。また、託児サービスを用意したところ好評で、23名の方にお申し込みいただきました。
─第1部はどのような内容でしたか。
奥窪 西宮市立子ども未来センター診療所長の太田秀紀先生に、「就学前の子どもの発達と支援~ちょっと気になる子へのかかわり~」をテーマに、小学校に入る前に気になる子どもの発達や発達障害について、具体的な例を挙げながらお話しいただきました。
─そもそも発達障害とはどのようなものなのでしょう。
奥窪 発達が定型的でない経過をとるケースを総称して発達障害とよび、①全般的な発達の遅れ、②特定分野の不全、③コミュニケーションや感覚面等の不全と、大きく3種類に分類されるそうです。全体として子どもの約1割に発達障害やその傾向がみられ、その中でも多いのが、②の注意欠如多動症(ADHD)と限局性学習症(学習障害・LD)、③の自閉スペクトラム症(ASD)ということです。
─約1割に傾向があるなら、そんなに心配いらないかもしれませんね。
奥窪 発達障害にはさまざまなタイプがある上に特性がしばしば重複し、その特性は成長のステップや環境により変動するものの、大人になって完全に消えるものではないそうです。つまり、治すものではないので、その子の個性を生かしながら困りごとを減らしていくことが大切だと先生はおっしゃっていました。一方で、幼児期や学童期の環境や経験は非常に重要となり、「多数派向けの社会」では生きづらさを感じることもあるということです。
─どのような具体例が紹介されましたか。
奥窪 ADHD、ASD、ASD+発達性協調運動症(DCD)の3つのケースを紹介してくださいましたが、いずれも適切な環境と対応を用意してあげることと、先生や学校とのコミュニケーションと信頼関係が鍵となってくるのだと感じました。
─関わる側の対応が大切ですね。
奥窪 子どもの個性と特性を理解して接するとともに、自分のペースで成長できるような環境にしてあげるだけでなく、好きなことや成功体験を積み重ねて自信を育むことも重要だそうです(図1)。とは言え、保護者のみなさんには困りごともあると思いますので、そういう時は一人で悩んだり抱え込んだりせずに、西宮市立子ども未来センターなど各市町村の子育て支援機関や、かかりつけの小児科医に相談することをおすすめします。
─第2部はどのような内容でしたか。
奥窪 大阪大谷大学教育学部教授で大阪医科薬科大学LDセンター副センター長の福井美保先生に、「学校での『学び』に必要なこと」をテーマに、主に学校で求められる力、就学に向けての準備、基礎学習の学びと学習障害について講演していただきました。
─小学校に入る前に聴いておきたいお話ですね。
奥窪 小学校に入学すると幼稚園や保育園などとルールが違い、コミュニケーション能力や協調性、自立性、マナー、時間に沿った行動、集中力、体力、感情のコントロールなど、社会から期待される活動を自発的かつ習慣的に営む「勤勉性」を求められるということです。
─大人でもなかなかハードルが高いですね。就学前に準備することが多そうです。
奥窪 でも、学校はこれらの力を学ぶところですから、就学前にこれらのことができていなければいけない訳ではなく、「できればいいな」程度に考えることが大切だそうです。ですから家庭での訓練は禁物で、例えば話を聞く姿勢を育むためには、話を聞くことによりプラスがあることを感じさせるような経験をさせてあげた方が良いとのことです。無理に練習させると、親子の関係を崩しかねないですしね。
─良い経験を積ませることが大切なのですね。
奥窪 また、発達障害、特にASDの子どもは新しい環境への不安が強いので、学校とはどういうところで何をするのか、困った時にどうしたらいいかなど、子どもの理解度にあわせてあらかじめ情報を伝えてあげるとともに、わからないことを誰かに訊ねて教えてもらってうまくいくという経験をさせておくことも効果的だそうです。
─学習障害についてはどんなお話でしたか。
奥窪 学習障害の子どもたちは、本人が困っていることを周囲から理解されにくいので、早く気付いて配慮してあげることが大切ということです(図2)。例えば文字が読めないからといって読む練習をさせると、子どもは勉強がしんどくなってますます困ってしまいますので、まずは絵本を読み聞かせたり、図鑑を一緒に見たりなど、内容を楽しみながら文字に触れる経験をさせてあげると良いそうです。
─それぞれの個性を理解して、やさしく成長を見守ってあげたいですね。さて、次回のフォーラムはいつですか。
奥窪 テーマや時間は決まっていませんが、2024年9月7日(土)にフレンテホールで開催予定です。みなさまぜひご来場ください。