4月号

建築構造 インサイト|Chapter 6 東京カテドラル聖マリア大聖堂
東京カテドラル聖マリア大聖堂
「どう建てるのか?」を追求する平尾工務店にとって、構造は大きなテーマです。おなじみの建物から世界的名建築までさまざまな建築物について、「構造」という視点を交えながら一緒に学んでいきましょう。
前回は鉄筋コンクリート造草創期に用いられた柱や梁といった骨格で建物を構成するアンネビック工法をご紹介しましたが、1950年代になるとこれとは全く違ったアプローチで鉄筋コンクリートの持ち味を生かしたシェル構造が出現します。シェルとはまさに貝殻のことで、薄い曲面板を外殻とした構造です。
曲面板はもともと大きく曲がっているので、アーチ[(]とケーブル[)]の作用により荷重を負担できることから平板よりも強いという特徴がありますが、鉄筋コンクリートなら可塑性が高く比較的自由に曲面をつくることができるので、薄くて強固なシェルが可能になります。
シェルにはさまざまな形がありますが、中でも双曲放物面によるHP(Hyperbolic Paraboloid)シェル構造はユニークです。上に凸な放物線と下に凸な放物線からなり、前者のアーチ力による圧縮力と後者のケーブルによる引張り力が組み合わさって高い強度を実現しています。しかも45°方向は直線になっているので、直線的な型枠で施工可能というメリットも。そして何より、その形状が造形美を醸し出します。
世界的に有名な日本人建築家、丹下健三が手がけた東京カテドラル聖マリア大聖堂(1964年築)は、HPシェル構造建築の代表格と言えるでしょう。鉄筋コンクリートのHPシェルを8枚使用し、2枚ずつ上辺がL字型となるように接合して立て、隣接するシェルを互いに三角形断面鉄筋コンクリートの梁で結合し、頂点と頂点はX型の大きな梁で結んでいます。この結合部分にはスリットがあり、上空から見るとそれが十字架の形という斬新なデザイン。しかもスリットは天窓となっていて、最高軒高40m弱の聖堂の内部に陽光が降り注ぎ神々しい雰囲気に。また、自重でシェルが外側に広がってしまう力に拮抗するために、最下部に繋ぎ梁を取り付けています。シェルの厚さは基本的にわずか12㎝しかありませんが、約2m間隔で入れたリブで強度を上げるとともに、これをステンレス製の屋根材を取り付けるベースとしても活用。シェルと屋根材の間は断熱空気層となっています。
軽くて薄い外殻でもきっちりとした強度を持つHPシェルのメリットが発揮されている建築ですが、その構造計算は複雑で一筋縄ではいきません。構造設計を担当した坪井善勝の手腕なくして、この研ぎ澄まされた構造美と、荘厳で神秘的な空間を持つ稀代の名建築は実現しなかったでしょう。
なお、丹下の葬儀は自身が設計したこの聖堂でおこなわれ、ここから天に召されていきました。まさに丹下の〝魂の建築〟なのかもしれませんね。

HPシェル構造建築を代表する東京カテドラル聖マリア大聖堂

東京カテドラル聖マリア大聖堂の構造の概略
(上からの視点)

HPシェル概念図













