1月号
神大病院の魅力はココだ!Vol.50 神戸大学医学部附属病院 心臓血管外科 高橋 宏明先生に聞きました。
―心臓にはどんな病気があるのですか。
主な疾患のひとつが、心臓の表面に網の目のように走っていて筋肉に栄養を送り込んでいる冠状動脈が動脈硬化などで狭くなり、血流が滞る狭心症や心筋梗塞です。もうひとつが、心臓の4つの部屋それぞれにある弁に不具合が起きて逆流したり、弁自体が硬くなって血流が滞ったりする心臓弁膜症です。
―冠動脈の疾患は外科手術をするのですか。
まず手術前に循環器内科で血管内に造影剤を入れる心臓カテーテル検査で病変を確認します。傷んでいる箇所の場所や数によって、循環器内科でのカテーテル手術を行ったり、外科でのバイパス手術で血管をつないだりして血流を促します。動いている心臓にメスを入れると出血して血圧が下がってしまうので、通常の心臓外科手術ではポンプを取り付け心臓の代わりをする人工心肺装置を使います。冠動脈バイパス手術でもこの方法を使っていましたが、現在、神大病院では9割近くの冠動脈バイパス手術で人工心肺装置を使用せずに、麻酔科の先生の協力の下、血圧を調整しながら「オフポンプバイパス手術」が行われています。患者さんの負担が軽いのですが、直径1ミリ程度の血管をつなぐ非常に難しい手術です。外科医が十分に訓練をして臨んでいます。心臓の動きが正常に保てない患者さんは血圧が下がりやすく、従来の人工心肺を使う手術を適用しています。
―心臓弁外科手術の方法は?
大きく分けると二つあり、ひとつが、弁を温存して修復する弁形成術です。僧帽弁の不具合では弁を支える部分を修復し、弁自体の温存が可能なケースが多いです。もうひとつが、人工弁と取り換える弁置換術で、カーボン製の機械弁とブタやウシなどの組織から作られる生体弁があります。機械弁は長持ちし約20年程度の耐久性がありますが、血の塊が付きやすく、血をサラサラにする薬を飲み続けなくてはいけません。したがって、他の病気での手術や転倒などによる出血リスクが高い高齢者には使いづらく、概ね65歳未満の若い方に適用します。生体弁を使うと薬を術後2~3か月間飲むだけですみ、65歳以上の方に使うケースが多いです。年齢はあくまでも目安で、患者さんの意思を確認して相談しながら決定します。
―大血管手術とは?
心臓から押し出されていく血液の通り道「大動脈」の手術が主です。疾患のひとつが、血管に瘤ができる「大動脈瘤」で、横隔膜の上側が胸部大動脈、下側が腹部大動脈、両方にまたがっている場合は胸腹部大動脈と呼ばれ、それぞれに対して主に人工血管置換手術を行います。体力がない患者さんはカテーテル治療を選択し、鼠径部の動脈から、小さく縮めた網状の人工血管をワイヤーに沿って運び、血管内で膨らませます。傷が小さくて患者さんの負担は軽いのですが、圧着した隙間に血流が入る場合もあり、後に動脈瘤が拡大し、結果的に将来、再手術になるリスクがあり、若い方にはあまりお勧めはしません。
―大血管にはその他にも疾患があるのですか。
大動脈解離は、高血圧などで血管が圧に耐え切れず血管の壁が裂けて、場合によっては外に向かって破裂します。それだけでなく、分厚い壁に沿ってどんどん裂けていき、脳や心臓、脊髄、消化器、両脚など、体の中のさまざまな場所に向けて枝分かれしている血管への入り口がふさがれ、臓器障害で突然死する危険性があります。若い方にも起こり得ます。
―若い人は何が原因ですか。
遺伝的にコラーゲンに異常があるマルファン症候群では起こりやすく、神戸大学では遺伝子外来を開設していますので、親御さんが突然死されているなど、家族歴に不安がある場合は遺伝子検査をされてもいいかもしれません。
―心臓血管外科は、心臓と大血管の外科なのですね。
大血管だけでなく、末梢血管の治療も含みます。脚の血管が詰まって歩くと脚がだるくなったり壊死したりする閉塞性動脈硬化症や、脚の静脈に瘤ができて膨らみ炎症を起こして痛みが出る下肢静脈瘤の治療などもあります。
―静脈には瘤や解離は起きないのですか。
動脈に比べると格段に圧が低い静脈には負荷がかかりにくく、解離はほとんど起こりません。ただし大学病院には診療科がたくさんあり、消化器外科、呼吸器外科、産婦人科、泌尿器科、整形外科などで、臓器にできた腫瘍が太い静脈と絡んでいるケースがあります。各科の先生方から協力要請があれば、太い静脈の再建手術をします。
―赤ちゃんや子どもの先天性疾患も診療範囲ですか。
小さな子どもさんは兵庫県立こども病院で手術をします。例えば人工弁が成長するにつれサイズが合わなくなり、再手術が必要になる場合などは、神戸大学で開設している成人先天性心疾患センターで、概ね二十歳以降の患者さんを受け入れています。
―低侵襲の心臓手術も行われているのですか。
MICS(低侵襲心臓手術)という方法があります。右胸の肋骨の間を数センチ開いて内視鏡を入れ、モニターを見ながら長い鉗子を操作します。痛みが少なく、回復が早い傾向にあり、入院期間も短くなります。ただし、体格や病変の状態により、MICSが適用できない患者さんもおられ、無理をすると手術時間が長くなり、かえって負担が多くなる危険性も高くなります。そこで術前に検査が必要で、その判断は外科医に委ねられます。また、神大病院では心臓のロボット支援手術の訓練を重ね準備を慎重に進めてきました。現在、僧帽弁形成術で受け入れ態勢が整っています。ご希望の場合は当科外来までご相談ください。
―心臓や大血管の疾患に前兆や自覚症状はあるのですか。
心臓弁膜症は息切れという自覚症状が現れ、お医者さんが聴診器を当てると雑音が聞こえます。きちんと診察をしてもらえればエコー検査に進み、初期の段階で診断がつきます。ゆっくり大きくなる大動脈瘤は多くの場合、自覚症状がなく、他の病気のCT検査で偶然見つかることが多いですね。大動脈解離は、尋常ではない痛みが一気に出て救急で搬送され緊急手術をします。その時点ですでに長時間心臓が止まり手術できない状態であったり、手術でも助からなかったりと、心臓血管外科で扱っている中で最も死亡率が高いとても怖い疾患です。
―予防のために何かできることはありますか。
喫煙者であれば、まず禁煙。たばこは何ひとつ良いことはありません。高血圧、高コレステロール血症、糖尿病など、いわゆる生活習慣病は動脈硬化、ひいては大動脈瘤や解離につながります。まず予防、診断されたら、進行しないようコントロールが大切です。

高橋先生にしつもん
Q. 高橋先生はなぜ医学の道を志されたのですか。
A.私は幼少期、小児気管支ぜんそくでしょっちゅう小児科の先生のお世話になっていました。夜
中でもいつでも対応してくださる先生を見て、自分もお医者さんになりたいと思うようになり
ました。
Q. 心臓血管外科を専門にされた理由は?
A.医学部で勉強するうちに、自分の手で病気を治す心臓血管外科に魅力を感じました。6年生
のときの教授が素晴らしい先生で、「俺の背中を見てついて来い」というタイプ。とても怖
かったのですが、憧れがありました。
Q. 若い先生や学生さんに接するにあたって心掛けておられることは?
A.「俺の背中を見ろ」と言いたいところですが、そういう時代でもないですから(笑)、若い先生と
はできるだけコミュニケーションを取るようにしています。一緒に手術に入って直接指導し、
その前の段階でブタの心臓でのトレーニング「ウェットラボ」にも力を入れています。学生さんには、
手術で悪い部分を取り除くだけでなく再建をして、根治した患者さんを元気で帰してあげられる心
臓血管外科の魅力を伝えるようにしています。
Q. 患者さんに接するにあたって心掛けておられることは?
A.大学病院心臓血管外科には、「手術が必要」と診断された患者さんが泣きそうな思いで来院
されます。手術を躊躇しておられる患者さんには、小さな傷で早く回復する方法などいろい
ろな選択肢があることをお話しして、背中を押してあげられるように心掛けています。低侵襲の説
明を聞いて、「それならば」と手術を決断された患者さんもたくさんおられます。
Q. ご自身の健康法やリフレッシュ法があれば教えてください。
A.働く時は仕事に集中して取り組み、休む時はちゃんと休んでリフレッシュする。若い先生に対
しても模範となれるように心掛けています。












