10月号

太山寺(たいさんじ)|『太山寺エリア』の隠れた魅力発見!
神戸市唯一の国宝建造物の本堂をはじめ、
多くの文化財を有する里山の古刹
本堂(国宝)
伊川の上流部、緑が美しい山々に囲まれた天台宗の古刹。藤原鎌足の子の定恵和尚が開山し、孫の宇合が霊亀2年(716)に建立したと伝えられる。宇合の夢に現れた薬師如来を安置する七堂伽藍をはじめ、最盛期の南北朝時代には41もの小寺院(塔頭)に囲まれた大寺院として栄えた(現在は安養院など5ヶ坊)。
ご本尊の薬師如来を安置する「本堂」は神戸市内唯一の国宝建造物。その規模は幅約21m、奥行き約18mに及ぶ圧巻の大きさ。鎌倉時代に仏教が大衆化したことで、より多くの民衆が仏像を拝むことができるように、仏像が安置される内陣と信者が集まる外陣を区切った新しい仏殿形式の初期の例であり、極めて重要な遺構となっている。
貞享5年(1688)に再建された「阿弥陀堂」には重要文化財の「阿弥陀如来坐像」が祀られる。寄木造りの丈六仏は、立てば丈六(約4.8m)になるという想定で、坐像は半分の9尺(約2.7m)。定朝作の平等院鳳凰堂の阿弥陀如来坐像と同じサイズ・様式ゆえ、定朝の弟子の仏師が鎌倉初期に彫ったとされる。

❶創建時の建物は1285年の火災で焼失したが、1300年ごろに再建。朱塗り柱に格子に板を張った建具、蔀戸(しとみど)を設置。朱色と銅板葺きで緑がかった屋根との調和も美しい

❷本堂内部。日本の寺社建築様式「和様」を基調としながら、一部には宋から伝わった「唐様」も採用

❸柱の上部の肘木(ひじき)は、空間の左側は円の四分の一を描くように曲がっている唐様、右側は直線的な部分が残ってから曲る和様と、2人の大工棟梁が力を合わせて造った様を見て取れる
阿弥陀堂「阿弥陀如来坐像」(重要文化財)
他にも「刺繡種子 兩界曼荼羅圖」や「紫絲威喉輪」など、絵画や経典、書物、武具など、多くの国の重要文化財を所蔵していたが、奈良国立博物館など各地の博物館に寄託されていて現物は見ることができない。太山寺が誇る文化財が気になる人は、文化庁のデジタルコンテンツをチェックしよう。本堂のデジタルサイネージでは高精細な4K映像で鑑賞できるほか、山門前や本堂前にある看板のQRコードをスマホで読み込むと、360度パノラマバーチャルツアーやARデジタルガイド、アニメーションによる歴史の解説など、太山寺の文化・歴史を楽しく学べるようになっている。
また太山寺は「ひょうごの森百選」にも選ばれており、秋は紅葉も楽しみ。周辺の11 haは「太山寺原生林」として県の天然記念物に指定、境内外で季節折々の花木を楽しめる。
歴史遺産や文化財は、いまも土地の記憶を伝え続けている。澄み切った空気のなかで、優しい表情の仏様と出会い、対話する。そんな静かな時間を過ごすのにぴったり。

❶「阿弥陀堂」の重要文化財「阿弥陀如来坐像」

❷「光背(こうはい)」の造形も美しい

❸9つの世界に分かれる極楽浄土から阿弥陀如来が亡くなった人を迎えにくる際、その人の行き先に応じた手の位置と指の曲げ方に。最も優れた行いと心を持つ人の往生には、親指と人差し指で輪を作った上品上生(じょうぼんじょうしょう)の手のポーズをとられるとか

❹「阿弥陀如来坐像」は普段、格子扉越しにしか拝観できないが、お堂前のQRコードを読み込むと美しい画像を楽しめる
羅漢堂(通常非公開)

❶羅漢堂とその奥にある釈迦堂ともに江戸時代に建立

❷羅漢堂には四天王、十六羅漢尊、釈迦の四大弟子像が安置され、天井には草花が描かれる。釈迦堂には釈迦如来、文殊菩薩、普賢菩薩の釈迦三尊仏が安置され、ここで花祭りも行われていた
仁王門(重要文化財)
仁王門はもともと二層構造の立派な門で現在地から西に2㎞以上も離れた場所にあった。室町時代後期に現在の場所へ移築される際に上層部が取り除かれ、今の姿に。両脇には金剛柵と菱欄間がめぐらされ、その中に仁王像が安置される


紅 葉
太山寺は秋にはモミジやカエデが美しく紅葉し、神戸市内でも屈指の紅葉の名所に。例年の見頃時期は11月上旬~12月上旬


磨崖仏
寺から徒歩5分ほどで到着する、伊川左岸の岩肌に彫られる磨崖仏の不動明王も一見の価値あり。鎌倉期の兵庫県最古の磨崖仏で像高は175㎝


デジタルコンテンツ

太山寺
神戸市西区伊川谷町前開224
078-976-6658
拝観 8:30~17:00(12~2月は16:30まで)
拝観料 300円
https://do-main.co.jp/taisanji/












