9月号
神大病院の魅力はココだ!Vol.46 神戸大学医学部附属病院 膠原病リウマチ内科 岡野 隆一先生に聞きました。
体を守るはずの免疫が、攻撃先を誤ると…
―膠原病とリウマチは別の病気ですか。
どちらも、自分の体を守るためにウイルスや細菌などのばい菌をやっつけるはずの免疫が、自分自身のいろいろな部分を攻撃してしまう自己免疫疾患です。以前は、特定の6つの疾患を指して「膠原病」としていました。今は、複数の臓器に関わる多くの自己免疫疾患も含めて全てを膠原病と呼んでいます。「リウマチ」も膠原病の一種で、患者さんの数が多いため分けて扱っているケースが多く、神大病院でも膠原病リウマチ科を受診される患者さんの半数程度が関節リウマチ、残り半数程度がその他の膠原病患者さんです。
―膠原病には主にどんな病気や症状があるのですか。
昔から多いのが「全身性エリテマトーデス」で、免疫が皮膚を攻撃して赤い発疹が出たり、腎臓などさまざまな臓器に悪い影響を与え症状が出たりします。高齢の患者さんが多く、高齢化社会が進むにつれて患者さんの数が増えてきている「血管炎」は、免疫に攻撃された血管に炎症が起きて、たくさんの血管が集まっている腎臓や肺などの臓器までが傷んでいく病気です。その他にも、膠原病には多くの種類があります。体の中の至るところでばい菌から体を守ってくれている免疫が、誤った攻撃をすることで体の中の至るところで自己免疫疾患が起きてしまいます。ですから症状が出る範囲が広く、全てを膠原病リウマチ内科で治療しているわけではありません。例えば自己免疫性肝炎は消化器内科、多発性硬化症は脳神経内科というように、単一の臓器で起きている自己免疫疾患はそれぞれ専門の診療科で治療が行われています。
―関節に限定して免疫に攻撃され、症状が出るのがリウマチですか。
症状が関節に限定されるというわけではなく、関節リウマチも治療をせずに放置していると、肺や腎臓などが傷んで症状が出始めます。以前は、他の臓器に症状が広がるケースが多くありましたが、進歩したリウマチの治療法によって「症状が関節で止まっている」というのが正しい表現です。
体の至るところで起きて、じわじわと症状が広がる膠原病
―免疫の攻撃が始まると突然、膠原病を発症するのですか。
数カ月単位で病気になるケースが多いですね。例えば、微熱があると思っていたら、1カ月後に皮膚が赤くなったり、紫斑が出たり、中耳炎を起こしたり、その次にまた他の場所に違う症状が出始めるといったように、じわじわと進行します。
―初期の段階で膠原病だとは気付かない症状ですね。
内科、皮膚科、耳鼻科などからの紹介で受診される患者さんが多いですね。検査方法が進歩して、血液検査で膠原病の疑いが判明するケースも増えてきました。他科での治療で改善されないから紹介されるというだけでなく、採血検査の結果を基に他科の先生方から「膠原病の症状ではないでしょうか」という紹介で来られる患者さんもおられます。
―診断は血液検査でできるのですか。
血液検査で自分に対する抗体を持っていることが分かったとしても、必ずしも発症しているわけではありません。リウマチならば関節に炎症が起きているのかを超音波やMRIで確認します。腎臓なら腎生検、肺なら気管支内視鏡検査などそれぞれの方法で検査をして病理診断をします。血液検査の腫瘍マーカーが陽性だからといって必ずしも癌ではないのと同じです。
少しずつ進歩する、暴走する免疫を抑え込む治療法
―膠原病、リウマチの主な治療法は?
ほとんどのケースで免疫の攻撃力を弱める薬を使う内科的治療が先行します。ばい菌に対する免疫力が弱くなるという副作用は避けられません。
―暴走する免疫だけをターゲットにして抑え込むことはできないのですか。
免疫の中から暴走しているものだけを選んで直接正すことはできません。免疫を「川」に例えると、せき止めて流れの行き先を変えるというような工事が人間の体の中ではできず、川の流れを緩めることしかできません。免疫をまとめてある程度抑え込まなくては治療ができないという段階です。特異的な治療法も少しずつ開発され、正しい流れに戻す方法も多少は出始めています。
―新しい薬が開発されているということですか。
特定のたんぱく質にだけ効く抗体をばい菌に作らせて薬にするという生物学的製剤と呼ばれるものです。体のいろいろな所で効果を発揮する薬の対極にあり、範囲が狭くて特異性の高い分子標的薬の一種です。いくつかの薬が開発されていますが、中でもリウマチについては関節を攻撃しているある種のたんぱく質をターゲットにする阻害薬が2002年に開発されて治療法が大きく進歩してきました。ただし、それだけで治療が完璧にできるという段階ではありません。
診療科枠を超えた診療のための環境づくり
―他の診療科との協力は?
例えばリウマチで変形した関節や血管炎で起きた大動脈乖離など、ダメージを受けた部分の修復は内科の領域ではなく、整形外科や心臓外科に手術をお願いします。皮膚には症状が一番に出やすく皮膚科との協力は欠かせません。腎臓内科や脳神経内科とは年2回の症例研究会を開いて情報交換をしています。膠原病リウマチの治療方針決定には病理診断科の確定診断が非常に重要です。他の領域や診療科との枠を超えた治療のためにリウマチセンターを立ち上げ、外来ではリウマチ専門医と整形外科医が背中合わせで診療にあたり、相談協力しながら治療を進めやすい環境を作っています。
―自己免疫疾患の予防はできるのですか。
関係するいくつかの因子は分かっています。例えば喫煙が悪い影響を与えていること、歯周病があるとリウマチになりやすいということなどが解明されていますが、完全に予防できる段階には至っていません。良い食事習慣と適度な運動習慣、ストレスをためない…一般的な病気予防と同じですね。

岡野先生にしつもん
Q.岡野先生はなぜ医学の道を志されたのですか。
A.小学生のころ、親が持っていた『ブラック・ジャック』を読んで、「おもしろそうだなあ」と思った記憶はあります。中高生になったころ明確に「医者になろう」と思ったのですが、なぜなのかは覚えていないんです。
Q.自己免疫疾患を専門にされた理由は?
A.学生時代は、治療よりも診断に興味を持ち、実は病理診断科に行くつもりでした。伊藤(智雄)先生のところへ挨拶にも行ったのですが(笑)。研修先にたまたま、先ほどお話しした生物学的製剤のTNF阻害剤治療を受けておられるリウマチ患者さんがおられました。関節のひどい痛みに苦しんでおられた患者さんが、点滴をした翌日には歩いておられる。治療効果が出ている様子を見て「すごいなあ」と思い、膠原病に興味を持ちました。
Q.病院で患者さんに接するにあたって心掛けておられることは?
A.誰もが自分の症状のことはよく分からないものです。例えば患者さんが「胃が痛い」と訴えておられても、実は腸や膀胱の病気かもしれません。お話をよく聞いて、正しい診断ができるように心掛けています。
Q.大学で学生さんを指導するにあたって心掛けておられることは?
A.分かりづらくて、取っ付きにくく、また診断が複雑で難しい領域です。しかし慣れてくるとおもしろさもあります。できるだけかみ砕いて説明して、伝わるようにしています。
Q.ご自身の健康法やリフレッシュ法があれば教えてください。
A.週に何回かは筋トレやランニングなどで汗をかくようにしています。屋外では良い靴を履いて、土や芝生の道を選んで走るようにしています。コンクリートの道は膝を傷めてしまいます。皆さんも気を付けて、やり過ぎないように適度な運動を心掛けてください。












