9月号
美しきかな ひょうごの文化財 |
〝ライト式〟建築に日本的な意匠が光る壮麗な名建築 |
第九回 武庫川女子大学 甲子園会館
20世紀建築界の巨匠の一人、フランク・ロイド・ライトは大正6年(1917)、帝国ホテル支配人・林愛作から同ホテル新館の設計を依頼され来日した。建設事業は愛弟子の遠藤新へと引き継がれ、ライト帰国後に完成している。帝国ホテルを辞した林は阪神電鉄の依頼で、遠藤と共に「理想のホテル」建設に取り掛かった。当初の予定地は甲子園浜だったが、林の意向で武庫川沿いの松林に決まり、幾つか細部の設計変更をしながら13カ月という異例の速さで昭和5年(1930)竣工、「甲子園ホテル」が開業した。当時の阪神間モダニズムを謳歌する人々が集い、寛ぎ、楽しむ姿は想像に難くない。しかし、昭和19年(1944)、海軍病院に転用され14年で営業を終了。戦後は米軍将校宿舎に転用、米軍引き揚げ後は当時の大蔵省管轄下に置かれた。
数奇な運命を辿り荒廃したライト式建築物は昭和40年(1965)、国から譲り受けた武庫川学院による修復工事で蘇り、「武庫川女子大学甲子園会館」(以下、甲子園会館)として現在に至っている。
美しく装飾された日華石とタイル、緑釉瓦からなる重厚な外観、東棟・西棟を流れるように繋ぐ大空間は、95年前の人々が目にした光景のまま保持。一方、ダイニングルームはスタジオに、東棟・西棟の1~4階に配された70の客室のほとんどは教室に改装し、学舎として利用。往時の面影を残しつつ、武庫川女子大学建築学部建築学科・景観建築学科の〝生きた教材〟という新たな使命を受けて歴史を刻み続けている。
ライト式建築物は、「水平」を強調する美しさと、そこにアクセントを加える「垂直」で構成されている。建物が調度品や家具、彫刻などと一体化して自然の中へと溶け込んでいく有機的建築が特徴で、旧帝国ホテル(解体後一部明治村で保存)、旧山邑家住宅(ヨドコウ迎賓館)と共通している。ただし、石川県観音下(かながそ)産の日華石が使われている甲子園会館は、前出の2つの建築物とは幾分違った色合いと趣を呈している。
遠藤は「水玉」と「打出の小槌」をデザインモチーフとしている。その意図は定かではないが、これらのモチーフは、屋根瓦上、日華石のレリーフ、噴水の文様、暖炉の縁石などなど、建物内外あちらこちらに見受けられる。様々な大きさ、厚み、色、形状の泰山タイルが組み合わされたバーの床には「あえて裏返し」に貼ったタイルなどがあり、遊びごころも満載。甲子園会館は至る所で発見の楽しさが尽きることがない。
平成21年(2009)、文化庁「登録有形文化財」に登録。建物・庭園ともに見学可能、事前予約要。詳しくは同会館ホームページ「見学について」参照。

甲子園会館を北側から望む。正面玄関を中心に建造物がシンメトリーに配置されている

黄色がかった褐色が特徴的な日華石を使用。庇が水平に延びる

1階ロビーの泉水。太陽が低くなる冬には長い庇の向こうから光が差し込み、打出の小槌の文様を照らす

打出の小槌の装飾は、日本的でもある


水玉と打出の小槌を組み合わせた装飾が鮮やか

1階東側のダイニングルームはスタジオとして使われている

バーの床には泰山製陶所の試作品タイルが使われている

1階西側のバンケットホール。日本的な趣がある市松格子光天井
武庫川女子大学 甲子園会館
西宮市戸崎町1‐13
TEL. 0798‐67‐0290
見学は事前予約要
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