「カメラ視線」を説明するために導入した疑似的な力ですが、中の人には実際にかかっているかのように感じられます。読者のみなさんで宇宙ステーションに行ったことがある人は稀でしょうが、ジェット・コースターに乗ったことがある人は多いことでしょう。コースターが激しく運動しているとき、乗っている人には運動に合わせてさまざまな力がかかっているかのように感じられます。実際にかかっている力は重力だけなのに。このような「慣性力」を、実際の力と同じだと扱ってよい、あるいはもっと言うと、宇宙ステーションの中や、落下するエレヴェイターの中といった、小さく限られた空間では(物理学的表現だと「局所的には」)、「無重力」が成立していると考えてもよい、とするのが、等価原理なのです。ところでこの「慣性力」は、それがかかる物体の質量に比例します。これを表わしたものが、ニュートンの運動の第二法則である「運動方程式」です。このときの質量を、とくに、「慣なります。あっという間に悲劇の結末が来ると思いますが。では、力のつりあい的にはどうでしょうか。実は、宇宙ステーション内で力がつりあっている必要はまったくありません。なぜなら、衛星軌道に乗って円運動しているのですから、これは慣性の法則が適用される「等速度運動」ではないからです。重力だけが一方的にかかっている、ということでなんら構わないのです。でも、それだとやはり感覚的には気持ち悪いですよね。一方的に重力がかかっているのに、カメラでは「落下」しているように見えないのですから。そこで、「カメラ視線」あるいは「中の人視線」でものごとを考えるために、「慣性力」なるものが導入されます。衛星軌道に乗るために円運動することで、「慣性力」の一種である「遠心力」がかかる、と考えるのです。この「遠心力」と重力がつりあうことで、宇宙ステーションの中の人はあたかもどこにも引っ張られずに宙に浮いているように見えるわけです。この「慣性力」は、言われたりします。しかし地球からの重力は確実にかかっています。それではなぜ落ちてこないのかというと、落ちないように必死で運動しているからだ、ということは、この連載の第11回でお話しした通りです。国際宇宙ステーションは秒速七・七キロメーターという速度で飛行していますから、逆に重力が働かないと宇宙の彼方に飛んでいってしまいます。そうならないよう、地球からの重力がつなぎとめているのです。では映像ではそんな風に見えないのはなぜかというと、カメラも一緒に動いているからです。カメラとそれが映し出す宇宙ステーション内とが一緒に動いていると、止まっているかのように見えるのですね。中にいる人は、床と壁と一緒に動いていますから、いつまで経っても床に「落下」しないのです。たとえば、あまり考えたくありませんが、エレヴェイターに乗っているときに、そのワイヤーが切れて、エレヴェイターの箱ごと一緒に落下してしまうと、中の人的には、エレヴェイターの床に対しては「落下」しないことに67
元のページ ../index.html#67