KOBECCO(月刊神戸っ子)2026年8月号
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堤さんの弟は「ある意味、幸せだったのかもしれないね」と言ったが、堤さんの悲しみと虚無感は、日本へ帰ってからも消えることはなかったという。さらに、叔母が亡くなる約3年前。がんを宣告された堤さんの母は延命治療を拒否し、尊厳死(終末期に医療行為をやめることによる自然死)を選択し、亡くなっていた。現代社会への警告母、叔母、そして愛猫…。〝自分が愛した生命〟が次々とこの世を去っていくなかで、胸に生じた違和感はしだいに大きくなっていき、それが、この書を書き進める原動力になった、と堤さんは明かす。そして、この強いモチベーションを胸に、堤さんは書く覚悟を固めた。「三つの死をめぐる悲しみを抱えながら、高速で進むバイオテクノロジーの最前線を追ってみよう…」と。堤さんが取材した米国や中国などで研究が進む〝バイ婦とともに、サンフランシスコの介護施設にいる叔母を訪ねた。堤さんにとって叔母は憧れの存在だったという。1960年代の始めに版画を学ぶために渡米し、カルフォルニアで画家として活躍していた叔母は、まさにアメリカン・ドリームを体現した女性だった。だが、久しぶりに介護施設で再会した叔母は、夫を亡くし、脳梗塞で視力を失い絶望の淵にいた。「陽気だった叔母はすっかり変わってしまっていました。『死にたい』と話すようになり、そして、ある決断をします」カリフォルニア州で2015年に成立した「終末期選択法」が叔母に死を選択させた。「安楽死」を州が認める法律で、「皮肉にもこの法律が叔母の願いを〝救った〟のです」と堤さんの声は沈んだ。別れの日。叔母は「ありがとう、ありがとう」と集まった家族たちに感謝の言葉を口にしながら、錠剤を飲み、自らの意志で息を引きとったという。オテクノジーの最前線〟は、国境の垣根が低くなりグローバル化が猛スピードで進む日本にも押し寄せ、日本人にとって無関係では済まされなくなるだろう。妊娠前の遺伝子操作によって、性別から頭脳、体格までも親が望む〝理想の赤ちゃん〟をスマホで注文できるビジネス…。脳と身体をいつまでも若く保ち、老化を防いで生き続ける〝不老長寿〟のビジネス…。堤さんが抱いた〝違和感〟は取材を進めるなかで、さらに大きく膨らんでいった。「命はいったい誰のものなのか?人の手で勝手に寿命を伸ばしたり、生死を決めていいのか?」堤さんは、この書によって、人や動物の命さえ、テクノロジーや資本の力でコントロールされ始めた現代社会へ痛烈な警告を発する。「私たち日本人が忘れかけている、命をめぐる貴い思想を、もう一度掘り起こすために…。一人でも多くの人に、この本を届けたい」24

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