髙村 薫 (たかむら・かおる)1953年、大阪市生まれ。国際基督教大学を卒業後、外資系商社に就職。1990年、日本推理サスペンス大賞を受賞した『黄金を抱いて翔べ』で作家デビュー。1993年、『マークスの山』で直木賞受賞。1998年、『レディ・ジョーカー』で毎日出版文化賞、2018年、『土の木』で大佛次郎賞などを、2025年、『墳墓記』で泉鏡花文学賞を受賞する。現在、月刊誌『新潮』で小説『マキノ』を隔月で連載中。オーディンを連れ、大会に臨む髙村薫さん執筆時間です」と教えてくれた。乗馬に親しみ、約6年前、「馬場馬術競技」に出場する馬の馬主となった。「勧められるままに馬主になりました。名前は〝オーディン〟(北欧神話の〝闘いの神〟の意)といいます」乗馬クラブの休みは週一日だけ。「一年中ほぼ馬の世話に追われています」と笑う。「馬は生き物。毎日の世話は本当に大変ですが、とても楽しい」と充実した表情で語るが、〝作家と馬主の両立〟を知り「驚きを隠さない馬主は少なくない」ことも認める。書き続ける覚悟原稿の締め切りに追われる生活を長年続けてきたが、「書くことがしんどいと思ったことはありません」ときっぱりと言い切る。多忙な執筆活動に馬主の仕事も加わった。現在、乗馬は控えているが、春と秋のシーズンには、愛馬を連れて馬場馬術競技の大会を馬主として転戦している。愛馬オーディンは、「日本へ来る直前までヨーロッパの第一線で活躍していたので、技術はすでに完成している馬なのです。いまは全日本を目指しています」と馬主としての目標を語る。昨年、約11年間務めた直木賞の選考委員を退任した。理由は「〝作品が面白いか面白くないか〟では選考したくない」から。「近年のエンターテインメント化する小説についていけなくなったから」とも。日本語へのこだわりが次第に薄れていくこの国の文学を取り巻く風潮へのいらだちを感じさせる言葉に、書く側だけでなく、読む側の姿勢も問われているのだと痛感させられた。全身全霊で〝小説を書くこと〟と対峙し、その在り方を模索し続ける姿は、日本語、日本文学の〝最期の灯〟を守るために最期まで闘う覚悟を固めた求道者のように見える。愛馬の名は、そんな馬主の心の現れだろうか…。ドイツから大阪へやって来た愛馬との出会い。それは偶然ではなく必然に違いない。25
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