KOBECCO(月刊神戸っ子)2026年5月号
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活躍のチャンスを与えたいと。実際、連載後、何人もの画家がチャンスを掴み活躍されていますよ」だが、連載中、多田さんが急死する。「亡くなる直前までお元気だったのに…」『マークスの山』以来、多田さんはずっと髙村さんの作品の装幀を担当。ともに新たな文学の境地を切り開こうと切磋琢磨してきた大切なパートナーだった。かつてインタビューで多田さんは、髙村さんについてこう語っている。作品ごとに、「新しい物を書きたい」と挑む髙村さんの姿勢に触発され、「自分も新しいハードルを越えることができた」と。髙村さんの自宅の応接間には柔和な笑みを湛えた多田さんの写真が飾られていた。「音」を「言葉」で伝える昨年、月刊誌『新潮』9月号から連載が始まり、現在、隔月で掲載されている小説『マキノ』で髙村さんは更なる文学の可能性を広げようと挑んでいる。〝音の世界〟を言葉で表現する試みである。「音が鳴っていても、周波数の違いなどで人間の耳に聞こえる音と聞こえない音があります。動物にしか聞こえない音もある。私たちの身体はさまざまな音に囲まれている。そんな〝音の世界〟をこの小説で描きたい」同じものは二度と書かない。そう決めて36年。作家として言葉で挑むハードルは、とめどなく高さを増していく。 妥協なき孤高の作家は新たにハードルを遥か高くに設定し直した。この挑戦に文学界は驚く一方、〝高村ミステリー〟の愛読者たちは、その登場人物の設定に喜んだ。合田雄一郎とその盟友、加納祐介が物語の核を成す人物として登場しているからだ。小説の舞台のモデルは、滋賀県北西部の旧マキノ町(現高島市)。『我らが少女A』で警察大学校の教授だった合田は定年後、警察を辞め、マキノの古家で一人で暮らしている。片や検事、裁判官を歴任した加納も法曹界を去り、一人で世界を放浪している。新作ごとに小説の新境地を拓こうと挑んできた作家の言葉は重厚だ23

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