KOBECCO(月刊神戸っ子)2026年5月号
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それ以上の名誉や地位などには、それほどの野心や野望はなかったように思うのです。デザイナーという専門職に就くために、専門学校に行くほどのプロ意識もなかったわけで、まぁ、好きなことができれば、独学でやれる範囲で趣味が全うできればいいというのが目的といえば目的だったんでしょうね。だから、「人生は自分の手で掴み取れ」というような野心はなかったように思います。また、「努力の先に栄光はある」なんていうほどの熱意などなく、ただ好きなことには、寝食を忘れ、三昧気分になれたようころがありました。この性格は大人になっても基本的に変わらなかったと思います。しかし、僕が職業として飛び込んだグラフィックデザインの世界は、一種の競争社会で、自分の周辺はすべてライバルと考えるような環境でした。もともとデザイナーを志望していたわけではなく、自分の趣味を全うできればそれで十分と考える、そんなに意欲的というか野心に満ちていたわけではないので、せいぜい自分を取り巻く小さい環境の中で、それなりに認められればそれでいいぐらいに軽く考えていたように思います。それよりも人から親しまれ、愛される存在になれればいい。「人生は自分の手で掴み取れ」「努力の先に栄光はある」「がむしゃらにがんばれ」まわりからそう言われ続けたがそうはできなかったと、編集の田中さんは嘆きます。田中さんでなくても、誰しもその通りにならない時には頭を抱えてしまいます。そんな時、僕は一体どう対処してきたのだろう。僕は子どもの時から、お手上げ状態になることが結構多かったように思います。自分には、前向きに生きていこうという気持ちがそんなに強くはなく、不得意なものに接するとすぐに引っ込み思案になってしまうとTadanori Yokoo美術家横尾 忠則撮影:横浪 修神戸で始まって 神戸で終る ~横尾忠則流、三つの教訓~16

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