深々と頭を下げたのだった。初美さんは「え?そんなことありましたか?」と忘れていたかのように言って下さったが…。お返しする前に改めて録音を聴いてみた。約八分間だが、木津川さんの語り口がなんともいい。真情がこもっていて今でも涙を催す。わたしのパソコンに取り込ませてもらい文字起こしすることにした。プリントに残そうと思ったのだ。ところがプリントにして読んでみて、これは表紙を付けて冊子にしようと考えた。そうすれば、杉山先生の著書と並べて書棚に置ける。そうして出来上がったのが、16ページの冊子。その中から一部分だけ紹介しよう。《杉山さんを一言で申しますと、やはり「希望の詩人」であったと申し上げるものであります。八十九歳で発表した「マッチ」という次の詩が多くの人に夢をもたらしたんです。 アンデルセンの少女のように ユメ見ることのできるマッチを わたしは まだ何本か持っているであります。八十九歳です。》そしてわたしが書いた「あとがき」。《語りの名手、木津川計さんの、その素晴らしい声音を文字化することの無粋は承知の上でこのようなものを作った。しかし、木津川さんの語りを知る人が読むならば、その語り口が聞こえてくるだろう。読みながら木津川さんの佇まいを思い浮かべ、そしてその声をお聞きいただければ幸い。今村欣史》素人の不細工な手作りだが、わたしはやっと忘れ物をお返しした気持ちになったのである。■今村欣史(いまむら・きんじ)兵庫県生まれ。兵庫県現代詩協会会員。「半どんの会」会員。著書に『触媒のうた』―宮崎修二朗翁の文学史秘話―(神戸新聞総合出版センター)、『コーヒーカップの耳』(編集工房ノア)、『完本 コーヒーカップの耳』(朝日新聞出版)、随筆集『湯気の向こうから』(私家版)ほか。■六車明峰(むぐるま・めいほう)一九五五年香川県生まれ。名筆研究会・代表者。「半どんの会」会員。こうべ芸文会員。神戸新聞明石文化教室講師。(実寸タテ11㎝ × ヨコ16㎝)83
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