KOBECCO(月刊神戸っ子)2026年3月号
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のです。このような質量を「重力質量」と言います(図上︶。ここで、ちょっと不思議に思われた方がおられたなら、その方は科学を学ぶのに向いています。質量というのは一種類しかないはずなのに、なぜ、わざわざ「重力~」とつけて呼ぶのか。それは、実はもうひとつの質量の考え方があるからです。そしてそれは、この連載をずっと読んでくださっている方なら、ご覧になられたはずです。ヒッグス粒子についてお話しした第17回で、「質量とは、物体の動きにくさを表わした量だ」と述べました。それを表現した数式が、運動方程式である、と。このような質量を「慣性質量」と言います(図下︶。さきほどの「重力質量」が、重力を用いて測定されていたように、この「慣性質量」を、その「動きにくさ」から測定する方法もあります。たとえば、われわれが扱う素粒子の質量の測定の仕方です。素粒子はあまりに小さいため、その重力もきわめて小さく、それを測定することはまず無理です。そこで、たとえば磁場の中でその素粒子の軌道を曲げ、その曲がり方(軌道半径︶を測定することで質量を求めます。質量が大きいほど曲がりにくいため、その軌道半径が質量に比例するからです。実は、この重力質量も、慣性質量も、同じ人物、サー=アイザック=ニュートンが考え出したものなのです。ニュートンは重力を発見(数式化︶した偉大な物理学者ですが、同時に運動の法則も発見しました。前者が重力質量を数式化し、後者が慣性質量を数式化したものです。さぁ、質量とひと口に言っても、二つの違った量が出てきてしまいました。いったいどうするべきでしょうか。今から一〇〇年前、その重力の問題に真向から取り組んだ物理学者がいました。それは、人類史上もっとも有名な物理学者であり、この連載でもまるで主人公のように度々登場した物理学者です。彼の名は、アルベルト=アインシュタイン。彼は、「重力質量と慣性質量は同じものである」ということを開始地点として、重力に関する様々な物理現象の謎を解き明かしていきました。今回からの重力に関する連載は、彼が築き上げたその業績とともに、話を進めていくこととしましょう。PROFILE 多田 将 (ただ しょう)1970年、大阪府生まれ。京都大学理学研究科博士課程修了。理学博士。京都大学化学研究所非常勤講師を経て、現在、高エネルギー加速器研究機構・素粒子原子核研究所、准教授。加速器を用いたニュートリノの研究を行う。著書に『すごい実験 高校生にもわかる素粒子物理の最前線』『すごい宇宙講義』『宇宙のはじまり』『ミリタリーテクノロジーの物理学〈核兵器〉』『ニュートリノ もっとも身近で、もっとも謎の物質』(すべてイースト・プレス)がある。38

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