高エネルギー加速器研究機構の多田と申します。前回と前々回の二回にわたって、「冷たい暗黒物質」の候補二つ、ニュートラリーノとアクシオンの探索実験についてお話ししました。ちょうどその折も折、「冷たい暗黒物質」の証拠を捉えたかもしれない、というニュースが飛び込んできました。今回は、この実にタイムリーなニュースを採り上げてみましょう。二〇二五年一一月二五日、東京大学理学研究科の戸谷友則先生のグループが、暗黒物質の存在を示す信号を捉えたかもしれない、と発表しました。これは、前回や前々回にご紹介した、実験室での探索実験ではなく、天体の観測によるものです。二〇〇八年にアメリカ合衆国の国立航空宇宙局(National Aeronautics and Space Administration、NASA)によって打ち上げられ運用されている、フェルミ・ガンマ線宇宙望遠鏡(Fermi Gamma-ray Space Telescope)という人工衛星が観測し蓄積しているデータを解析したものです。その名前の通り、宇宙の彼方からやってくるガンマ線を観測する衛星です。戸谷先生のグループは、このうち、銀河中心方向からやってくるガンマ線のデータを解析しました。銀河中心というのは、無数の星々が密集しているところで、したがってそれらの星々が発する「普通の」ガンマ線も大量に放出されています。その中から、暗黒物質由来多田先生!ニュートリノと宇宙のはじまり教えて 連載〜第31回〜 「ついに暗黒物質の 存在を捉えた?」自然界で最も大きな存在が宇宙、そして最も小さな存在が素粒子と考えられている。素粒子を研究することで、宇宙のはじまり、人間の存在を解明する︱︱ 日本の誇りをかけて、その最前線で日々研究に打ち込む素粒子物理学者・多田将先生。謎に包まれた宇宙について多田先生に教えていただきます。さあ、授業のはじまりです!PROFILE 多田 将 (ただ しょう)1970年、大阪府生まれ。京都大学理学研究科博士課程修了。理学博士。京都大学化学研究所非常勤講師を経て、現在、高エネルギー加速器研究機構・素粒子原子核研究所、准教授。加速器を用いたニュートリノの研究を行う。著書に『すごい実験 高校生にもわかる素粒子物理の最前線』『すごい宇宙講義』『宇宙のはじまり』『ミリタリーテクノロジーの物理学〈核兵器〉』『ニュートリノ もっとも身近で、もっとも謎の物質』(すべてイースト・プレス)がある。72
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