KOBECCO(月刊神戸っ子)2026年1月号
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チーフの絵を描いている時と、別に変わったことも違和感もありませんでした。ただ単に、これまでの画家が夫婦像を描くということを思いつかなかっただけかもしれません。この夫婦像は、昨年の夏、GUCCI銀座ギャラリーの展覧会で発表されましたが、この会場で、ある現象が起こりました。それは、夫婦像を観て「泣く」観賞者が、毎日のように出てきたということです。「夫婦像を観て泣きました」と手紙をくれた人も、「泣きました」と話す知り合いの編集者もいました。展覧会の担当者から毎日のように「今日も泣いている人がいました」という報告を受けると、やっぱり、夫婦像はタブーなのかなという気もするのですが、この辺りのことは僕には全くわかりません。今まで展覧会の作品を見て笑った人は何人もいますが、作品を見て泣く人が何人もいたというのは初めてです。夫婦像を描かない理由は、わざわざ夫婦の姿を人前に晒すことはないだろう。恥ずかしい行為ではないか。また、夫婦でイチャイチャした姿を見せつけられても観る人間には面白くも嬉しくもない。単に不愉快だ。という理由を想定した画家が、描く必要のないモチーフだと判断した結果、ついに誰も描かなかった、描けなかったというのが結論かもしれませんね。僕は夫婦像を描いたついでに、妻が若い頃に描いた数枚の絵があるのですが、その中の1枚を僕の絵の画面の中に取り込んで、コラージュのようにした作品を何点か追加しました。いずれ、神戸の僕の美術館でも展示される機会があるかもしれません。その横尾忠則現代美術館美術家 横尾 忠則1936年兵庫県生まれ。ニューヨーク近代美術館、パリのカルティエ財団現代美術館など世界各国で個展を開催。旭日小綬章、朝日賞、高松宮殿下記念世界文化賞、東京都名誉都民顕彰、日本芸術院会員。著書に小説『ぶるうらんど』(泉鏡花文学賞)、『言葉を離れる』(講談社エッセイ賞)、小説『原郷の森』ほか多数。2023年文化功労者に選ばれる。横尾忠則現代美術館(神戸市)では、2026年1月31日(土)より、「大横尾辞苑 これであなたもヨコオ博士!?」展がはじまります!横尾さんの人生を彩るエピソードや交友関係、精神世界を横尾用語で辿る、「辞書」仕立ての展覧会です。時、じっくり現物を見ていただいて、「泣くなり、笑うなり」してください。19

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